Ep.2 香浜産業交流会館立て籠り事件
「事件の概要はこうだ。本日の18時18分、ある武装した数名のテロリストが68階建ての60階にある香浜産業交流会館に突入した。
そしてそこにいた、本土産業省大臣と香浜工業庁長官、そして明智重工業代表取締役のVIP3人とその関係者合計13人と産業交流会館の職員30人が人質となっている」
移動トレーラーの中に用意された作戦会議室の中で斎賀と特別事業部門『影狼』のメンバー10人は会議を行なっていた。
斎賀の説明を遮るようにリーダーである短髪の体格のいい若い男性は手を挙げてこう言った。
「で、旦那。どこのテロリストグループなんだ?声明とか特に出てないが....」
「報道規制が一律で敷かれてるからな...オープンソースにはまだ出てないから君らは知らないと思うよ。
それっぽい犯行声明は本土政府の内閣府のデータベース上に“解放戦線”と名乗る左翼系セクトから声明が出されてるーー
要求やらに関しては特に出てないらしく、彼らが何を行うとしているのかは不明だーー話を続けるがいいか?大尉?」
「あれか...北華系の残党セクトっぽいな....」
そう言って大尉と呼ばれた赤井隆史はうんと頷いて斎賀の話を聞き始めた。
「テロリストの数は現在不明。交流会館の地図は手に入れたが、よくある報告のない内装工事でレイアウトは変わってるらしいーーー
まずは、ここの情報収集にあたれ...
私の方でも今調べているが敵はアマチュアかセミプロと言ったところなのは確かだ。
突入のタイミングは大尉の指示任せる。
ただ、タイムリミットは日付が変わる2hだ。
それを過ぎると、後ろで前のめりでスタン張ってるGSIGが問答無用で突入を行うと本土政府が怒鳴り込んできてるーー」
その斎賀の言葉を聞いて赤井はため息をついてこう言ったーーー
「おいおい。情報なしで2hってなかなかハードなことを言うんだな。GSIGのやり方だろ本土のVIP以外は全員殺害でも問題ないってところか....」
「それをやって退けれると思うけどな。給料は軍よりも数倍以上出してるんだ。
その分は働いてくれよーーー
情報がつかめれば随時送る。私は...お嬢のそばで政治をしてくる」
斎賀はそう言うと作戦室の外に出て行った。
赤井と数名の隊員はそれをどこか皮肉たっぷりな笑みを浮かべて手を振って見送った。
「さて、初の実働仕事にしてはなかなか無理難題を押し込めてきたな....
白川と相楽は早速、周辺から外から覗いて情報収集と狙撃可能ポイントの選定をしてくれ。
黒木、九条、青島は産業交流会のサイトやらデータベースにアクセスして情報収集。
俺と伊丹はPTUとSDUとの作戦のすり合わせを行う。
その他は突入に備えて最終点検を実施ーーー
2hってのは本土政府との交渉で勝ち取ったうちらアシュリーお嬢の手柄だ。無駄するなよ」
赤井はそういうと伊丹の肩をポンと叩いて作戦室を後にした。
赤井隆史。
元国家憲兵隊特別治安介入部隊GSIG大尉。
『影狼』の実働部隊のリーダーで斎賀の最も信頼をおく人物。30代と若いながら対テロ作戦において武装勢力との戦闘経験も豊富でその上で捜査官としての捜査能力の申し分なく、身辺警護任務までこなせる基本スペックの高いジェネラリスト。
そんな彼は今回、『影狼』を率いいてテロリストの鎮圧作戦を実行することになった。
その副官の伊丹陽介。
元香浜警察局特殊部隊SDUの警部補。
赤井と同じように実戦経験が豊富な警察官。
能力はあるものの基本は脱力とサボりをしている人物だが、堅物に近い赤井を和らげるのにちょうどいい人材である。
2人はトレーラーの外に出て香浜警察の指揮所へと向かい情報共有と収集を行うことにした。
「SDUならどう出そうだ?」
「えーそうですね。まずは、隙間からカメラ差し入れて内部を見るか、確か工事用ダクトから無人機を入れてソナーで内部を確認とかをしますよ。
まぁ、でももうそれはすでに終わった状態だと思いますよ。
あとは刑事がテロリストと交渉をしていると....」
「立て籠ってるあたり何かしらの要求があるって考えると...普通か。
純粋に中にいるVIPの暗殺目的ならすでに自爆とかをしてるだろうし」
赤井はそうふと思ったことを口に出すと割り込むように1人営業職のサラリーマン風の雰囲気を持つ影狼のメンバーの1人青島がこう言った。
「兄貴。そんなゴリゴリのテロリストでもないと思うけどな。警視庁にいた時に“解放戦線”なる組織の末端構成員を自称する野郎をしょっぴいたこともあるし...」
青島慎之助はそう言って、伊丹との会話の中に入ってきた。
彼は元警視庁捜査一課の刑事。そのデカとしての経験を買われてアシュリーの指名でチームに入った人物だ。
「とりあえず。俺は、パソコンとかあまり得意じゃないから周辺にいる怪しい人物を一人一人探ろうと思うよ」
それを聞いた伊丹は鼻で笑ってこう呟くよう言った。
「相変わらず。アナログだなおいーーー」
それを聞いてか聞かずか、青島はへいへいとだけ言って赤井と伊丹から離れていったーー
それを見送った2人は、香浜警察局の指揮場が置かれている場所に近づいていった。
するとその時だった。
脳内にあるナノマシーンを通じての通信が赤井と伊丹に入ってきた。
『先輩。こちら白川ですーーやっぱり、カーテンは全部下ろしてて肉眼では確認できないです。いろいろ試してみたんですが、確認しても誰がテロリストかが少し分かりにくかったです』
彼女は白川瑞樹。
元陸上自衛軍水陸機団にいた選抜射手で、一時期赤井が陸自にいた頃の部下で赤井が1番信頼を置いている人物だ。物静かな感じを持っているが、実は....
赤井はそれを聞いて、白川に対して返答を返した。
『わかった。監視位置に着いたら狙撃の準備を整えくれ。カーテンはどうにかする。隼、入れたか?』
『入れたよ、兄さん。IoT化万々歳だねーーカーテンの上げ下げのシステムも見つけちゃったから上げちゃって大丈夫?』
そうどこかハイテンションで通信を飛ばしてきた黒川隼はそう赤井に言った。
彼は、ハッカーの腕を買われてチームに入った人物で、赤井の妻の弟で彼の義弟に当たる。大学を出たばかりの年齢で若く赤井を実の兄のように慕っている。
「まだ早いですよ、お兄さん」
そう通信を聴いていた伊丹がこんと肘で赤井をこづいてどこか茶化すようにいいながらそう言った。
赤井はどこか恥ずかしい状況を見せながらもこう黒川に指示を送った。
「カーテンはまだいい。レイアウトかCCTVの画像を集めるのを最優先してくれ」
『りょーかい』
その通信を聴いてから、赤井はこの作戦を取り仕切っている香浜警察局の警官に声をかけた。
「影狼だ。アシュリー・アケチ社長からは話は行ってるよな?」
「ええ。来ている....現在、交渉人とで接触を行い彼らから人質の順次解放をできないかを説得してるーー」
そう指示を取る香浜警察の警備部員の警察官はそう赤井に伝えると赤井は首を振ってこう言った。
「多分、時間があまりない。情報だけを共有してくれ。現場から謎の一団とかがいたとか連絡あっただろ?」
赤井のその言葉を聞いて周りの警察官たちは頷きながらも、それは何なのかを理解できずに首を傾げてた。
赤井はそれを見てため息をつき作戦台に書かれている内容と地図を見て、香浜警察が把握している情報をある程度理解してこう言った。
「国家憲兵隊のとっておきのスペシャリストどもだよ。
推測だがあっちは突入する気満々でエントリー予定箇所に爆薬を仕掛けてるというところだ。
我々、影狼はこのポイントとこのポイントからそれぞれ入るーーー」
赤井地図上の二箇所を指差してそう言ったーー
そして、準備をしている隊員に連絡を送った。
『地図は確認できたな?
人質の全員は武装解除された上で中央の一箇所に集められてる日と窓側に盾として置かれてる。
敵の詳細位置が不明だが...
時間がない15分後に合図とともにステルスエントリー。発砲は極力避ける撃つ際は各自の判断に任せる』