第七章 予期せぬ派閥(1)
第七章 予期せぬ派閥
2010年12月1日(水) 放課後
【視聴覚室前】
ここはフロア4(5階)の視聴覚室前。勢力トップの2人「餅田ヤミ」「鍋小路マチ」は視聴覚室で「例の転校生」が来るまで待機している一方、「ダイアナ」と「ハイペリオン」は「例の転校生」がここに来るまで視聴覚室前で待ち伏せていた。
「(ハイペリオン:)来るのかい?例の転校生やらが。」
「(ダイアナ:)得体の知れない転校生を招き入れて、ラザールは何を考えているのだろう...。?」
「例の転校生」が2人の前に現れる。
「(例の転校生:)お揃いのようね...?」
「(ダイアナ:)そら来た。名前は確か...。」
「(ハイペリオン:)...知らねぇ顔だ。芸能人か何かかい?」
「(例の転校生:)坂田桃姫と申します。この度...そこの2人はお呼びじゃない。各派閥の代表おふたり以外に話すことはないから。」
「(ハイペリオン:)ますます気になるじゃん。生徒会長や帰宅部リーダーに用があるってことでいいかしら?」
「(ダイアナ:)あの2人よりあたし。あなたの目的を知る権利があるの。」
「(桃姫:)...ちぇ。本当はあの2人に話があって、ここまで足を運んできたのに...仕方ない。単刀直入に申し上げるとね私...。」
「坂田桃姫」は2人に自分の目的を話す。
「(ダイアナ:)...本気なの?どちらの派閥にも沿わない思想を持つ生徒の受け皿、つまり中立的な生徒を集めようと。あなたの言ってることは間違ってないけど、なかなか骨が折れるよね。」
「(ハイペリオン:)アイドル...なんだ、ただの偶像かよ。偶像崇拝がお前の仕事なんかい。やな女だな...。なにより、杏璃の立ち向かエーヨ部がゴタゴタだってのに...空中分解されちゃ溜まったものじゃないよな。杏璃の手下を頼めるか?」
「(桃姫:)おふたりの飲み込みが早くて助かるわね。じゃあ、明日の朝礼でこの件を発表するための時間を使うので、その時はよろしくね。私そろそろ、あの2人に話があるので通らせてもらう。」
「(ダイアナ:)どうぞご自由に...うまくいくといいけど...。」
「桃姫」は視聴覚室に入り、各派閥の代表2人に今の内容を話す。「ダイアナ」はそのやりとりを傍聴する。なにこの扱いの差かのように彼女の態度が異なっていたのであった。
翌日、朝礼で予期せぬ派閥「桃姫FC」発足を発表した。この派閥は、いわゆる「中立」に近い勢力で、帰宅部および生徒会の思想・行動指針にも合わない場合は所属することになる。既存の2つの派閥に属しても問題はないという。有事の際に所属者の意見を取りまとめる立場であるゆえ、「桃姫」の発言力は派閥の代表2人ほどじゃないので留意したい。
「(清子:)なんです...の?そんな話、聞いてません。」
さすがの「清子」も突然の派閥発足に困惑している。放課後、裏庭にて事情を知ってる「ダイアナ」や「ハイペリオン」に問いかける。
「(清子:)あの話は何ですの?ただでさえ杏璃さんは不登校でして、今の『立ち向かエーヨ部』はゴタゴタなのに...。」
「(ダイアナ:)ごめん...。今日発表するからと先日言えなくて。」
「(ハイペリオン:)俺は帰宅部だが生徒会寄りなんだし、発足した派閥につくつもりはねぇし。俺にとって御主人様はアトラス家だしな。んで、おかっぱはどう動く?」
「(清子:)わたくしは生徒会風紀委員のままでいます。転校生さんの派閥に移るつもりはありませんの。さて、源郎さんや典子さんはどう動くのかしら?ちなみに雅史さんの場合は帰宅部ですが、どのような派閥を問わない中立的でしてよ。」
「(ハイペリオン:)あの2人のことだから新派閥に移籍することは否めんしな。終わったな、立ち向かエーヨ部。」
「(ダイアナ:)杏璃には健太がいるの。でも2人だけと思うと、なんだか...。」
「(清子:)...あんな根暗、放っておきましょう。健太さんの慰めで立ち直れる杏璃さんではありませんもの。」
「(ダイアナ:)...コンブリオ先生から聞いたよ。あの盗っ子が死んだっていう話。それで...気の毒。」
「(清子:)さすがは雪郎先生、いつか先生の下につきたいものですわ。...風紀委員長......あの人には和子さん、あるいはハンナさんがいますもの。...話はこのへんにして、この学園の生徒達はどう動くのかしら?」
「(ダイアナ:)...均衡を崩すくらい大きく変化するかも。」
大きく変化するだろうと考えられる。実際、ありとあらゆる生徒の大半が新派閥側に移したと聞く。今日の「杏璃」はあれからずっと不登校なので雲行きが怪しくなっていて不安を隠せないまま翌日を迎える。
「源郎」や「典子」、「魂二」3人はもう新派閥側に寝返った。唯一脱退していない「健太」は、「清子」に泣きついてまですがるほかないのであった。
「(健太:)おかっぱ、頼む。杏璃ちゃんを元気づけてよ。」
1ヶ月の間、無駄な気遣いを続けたせいか彼の体重が70kgまでに落ちていたが、つまらない変化に「清子」は驚かない。
「(清子:)わたくしにすがるヒマがあるのなら、ご自身で考え行動なさいまし。」
「(健太:)...しょせんは生徒会...か。聞き入れてくれないし、もう。あーあ、杏璃ちゃんに相手にされない僕がかわいそうだとは......思わないか?」
「(清子:)...あなたがたはマサオさんではありませんし、杏璃さんは酢乙女さんでもありません。人を知ろうとせずに一方的なラブアタックはどうかと思います。そんなに助けが欲しいのであれば、先生にお願いしてみますかね。」
「(健太:)言い方がムカツクけど、杏璃ちゃんをお願いね。」
「健太」の依頼を受けた放課後、保護者同伴を条件に「清子」は「アレグロ雪郎」に「雅史」の貸出および同行をお願いして帰宅部の集合住宅「杏璃」の号室へと向かった。
「(アレグロ雪郎:)俺と雅史に頼んで、どうしたんだ?俺達は今、敵の本拠地に乗り込むための準備をしてるのにな。出発は20日後(23日木曜日のこと)なんだし、早めに済ませようぜ。」
「(雅史:)杏璃が大変なことになってるのは確かだし、久しぶりに顔を合わせないとね。」
「(アレグロ雪郎:)それよりさ、ダイアナじゃなく雅史なんだい?ダイアナなら解決できたんだろうだし...あ、あの子のことだからうまくいくとは限らないか。」
「(清子:)ダイアナさんや健太さんの力をもってしても解決できませんでしたので。さて、着きましたわよ。雅史さんなら渚さんを喪い、意気消沈している碇さんのような杏璃さんを直せるはずです。」
現在「杏璃」の号室前に立っている。
「(雅史:)杏璃...やっぱ僕しかないか......。それと、鍵が掛かっていて開けられないよ。」
室内に入ろうにも鍵が掛かっていて開けられないのである。
「(清子:)そんなこともあろうかと、合鍵持ってきました。いつも杏璃さんを想っている健太さんに感謝するべきですわ。実際はマサオさんまがいな恋愛事情でしてよ。」
「(雅史:)さすがは健太、いつも杏璃の面倒を見てくれる、彼はそういう人だよ。よし、なんとか開けたし、入ろう。」
3人は号室に入る。室内に入り、目にした光景とは、汚部屋っていうレベルではないくらい深刻なものであった。
「(アレグロ雪郎:)ひでぇな。ゴミ屋敷か?」
部屋中に物が散らかしており、見るに堪えない。
「(清子:)これはあまりにもひどすぎますわね。肝心の杏璃さんは、自室ですかね?開けてみます。雅史さん、ここからはあなたがたおひとりで杏璃さんを元気づけることになりますので、準備はよくて?」
「(雅史:)面会に覚悟はつきものだけど、腹をくくってでも杏璃を立ち直らせてみせるよ。」
覚悟を決めた「雅史」は、向こう側の部屋に1人で入る。そこには「碇シンジ」のごとく無気力な「杏璃」が横たわっていた。まずは堅実に、真剣に慰めることから始める。
「(雅史:)杏璃、こうして話すのも9ヶ月以来になるね。僕がいない間に、大変な目に遭っていることは清子から聞いたよ。君が想っていたあの子のことは気の毒に思ってるよ。...僕を見て、僕しか見てないのはわかってる。あんなに君を気遣っている健太に見向きもしないとはどういう了見なのかな...。」
「(杏璃:)...雅史......くん......。」
「(雅史:)君を責めるつもりはないし、君のしてきたことを気にしない。僕がついてるから、どうか立ち直ってほしい。」
「(杏璃:)......どうして引き返した...の......。」
「(雅史:)どうしてって?2人が気がかりだからに決まってるじゃん。つまり、2人を置いてアメリカに逃げることなんて、どうかしてるよ僕とか。なら引き返してまで2人を助けることにしたのよ。」
「(杏璃:)......危険を冒してまで...引き返さなければならなくなったのも......やっぱりあたしの......せい......。あたしの...醜態を......雅史くんの目の前に...さらされてしまう......なんて........幼馴染......失格......。」
「(雅史:)...幼馴染失格とかとんでもない、どれだけさらされても僕はいつだって君の味方でいるから。」
「(杏璃:)......。」
「杏璃」の醜態に「雅史」はどうするのか。
「(雅史:)...健太や立ち向かエーヨ部のみんなが君の復帰を待ってるから、僕はこれでターンエンドするね。」
「杏璃」の部屋をあとにする「雅史」。不毛な結果に終わる。
「(清子:)いかがなされまして?」
「(雅史:)なかなか骨が折れるものだったよ。僕の力ではどうしようにも......。」
「(清子:)一筋縄ではいきません...か。これ以上慰めても時間の無駄になりますかね。長居は無用です、退きましょう。」
「(雅史:)...そっとしておくのも杏璃のためになるからね......。」
いくら「雅史」でも立ち直れるものではなかったので、3人はここを退くことにした。
「(清子:)雅史さんや雪郎先生はもう帰っていいです。」
「(アレグロ雪郎:)やっぱ俺は残るぜ。杏璃が気になるしな。雅史は玄関前で待ちな、一人で歩いちゃあ危険だからな。」
「(雅史:)じゃあ、玄関前で待っとくよ。」
立ち直ることが叶わないからといって、退くわけない。「清子」は「杏璃」に喝を入れるために再び奥の部屋に入る。「アレグロ雪郎」はそれを聞き届ける。
「(清子:)杏璃さん、雅史さんがあなたがたを気遣ってやりましたのに...それをフイにするとは何様ですの?......わたくし個人として、それはいただけませんわ!!」
「(杏璃:)......。」
「(清子:)返す言葉もありませんの?......たかが泥棒児童を喪っただけで意気消沈だなんて、どうかしていますわ。......どうしましたの?返事くらいしなさいよ!!」
「(杏璃:)......。」
「(清子:)......もういい、あなたがたはこんな自己中心的な女だとは思いませんでしたわ。ご自身のことばっかりで、周りが見えていない意気地なしの女なんて、もう知りません!!!!」
「杏璃」の絶望的な醜態に「清子」は激高するほど感情的になり前述のセリフを吐き捨て、この号室を飛び出た。
「(雅史:)き、清子?」
皆の力ではどうしようもない状況に「清子」は涙する。
「(清子:)......うっ(´;ω;`)ウッ...。」
「(雅史:)心配ない。どんなに苦しくても、杏璃は立ち直れるよ。」
「清子」の頭を撫でる「雅史」。まだ室内に残っている「アレグロ雪郎」は「杏璃」に一言かます。
「(アレグロ雪郎:)...いつバサカと接触したかは知らんが、あの子が爆散する光景を目にしただけでそんなに気を落とすのか?揃いも揃ってあれだけ慰めてきたのに、それでも立ち直れないということはもう、碇シンジ並みに骨が折れるほど厳しいわけだ。なんなら、こっちも考えがあるぜ。来週でな。」
いくら励ましても慰めても立ち直れることはなく不毛に終わった。だが、来週から「アレグロ雪郎」の考えをお披露目することになるであろう。




