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『あれ?どうしたの、ジョゼ』


『なにか忘れ物でもした?』


『あ、レアンドルもいる!仲直りできたの?』


 二人で厩舎に入ると、竜たちがわらわらと寄ってきた。


「レアンドルとは仲直りできたから、大丈夫よ。

 イヴェットに相談があるの」


『来ると思ってたわ!

 でも、相談の前に!レアンドルは、姉さんにちゃんと謝ったんでしょうね?』


「謝ってくれたわよ。私も許したわ。ね?」


「あー……竜たちの言葉は俺にはわからねぇが、なにを言われてるかはだいたい見当がつく。

 ジョゼ、もう一度謝らせてくれ。本当に悪かった。

 イヴェットにも、せっかく大切なことを教えてくれたのに、礼すら言ってなかったな。

 遅くなっちまったが、ありがとうイヴェット」


『わかればいいのよ!

 姉さんが許したんなら、しょうがないから私も許してあげるわ!』


 イヴェットはツンと顎を反らした。

 

「イヴェットも許してくれるって」


「そうか……よかった。ありがとうな、イヴェット」


 二人で首のあたりを撫でてあげると、イヴェットは機嫌良さそうに金の瞳を細めた。


『それで?レアンドルの中にある、姉さんの欠片をどうにかできないかって相談に来たんでしょ?』


「その通りよ。なんとかする方法がわかる?」


『私も初めてのパターンだから、手探りでやってみるしかないけど、きっとなんとかなると思うわ!」


「なんとかなりそうだって!」


「本当か!」


 ぱっと顔を輝かせた私たちだったが、イヴェットはふんっと鼻息を噴き出した。


『言っておきますけど、私はあの時ちゃんとこのことも伝えようと思ってたのよ?

 なのに、レアンドルったら姉さんに八つ当たりしちゃってさ。

 だから、レアンドルがちゃんと謝るまで教えてあげないことにしようって決めてたの!』


 通訳してあげると、レアンドルはまた情けない顔で頭を下げた。


「悪かったよ……もうあんなことしねぇよ」


「イヴェット、レアンドルもちゃんと反省してるから」


『わかってるわ。だから、手助けしてあげるのよ。

 私が、姉さんとレアンドルの両方の魂に干渉して、レアンドルの中にある姉さんの欠片が、姉さんの元に戻るように促してみるわ』


 私とレアンドルはイヴェットに言われるままに片手を繋ぎ、繋いでいない方の手をイヴェットのエメラルド色の額に置いた。


『私の魔力に集中しててね』


 ふわり、とイヴェット魔力が私とレアンドルを包み込んだ。


 他の竜たちも、私たちをぐるりと取り囲んで興味深げにじっと見守っている。


 イヴェットの魔力は私とレアンドルの魔力をそっと引き出し、三種類の魔力が私たちがつくった円の中で混ざり合った。

 やがてそれはするりと私たちの体の中に吸い込まれ、元々あった魔力に溶け込んだ。


「これで終わりなのか?なにも変わった気がしねぇんだが……」


 レアンドルは自分の胸に手をあてて首を傾げた。


『今は、レアンドルの中にある姉さんの欠片が通る道筋ができただけ。

 まだ元に戻ったわけじゃないわ』


「そうなのね。じゃあ、これからどうすればいいの?」


『姉さんとレアンドルが体を繋げれば、自然と欠片が姉さんの方に移動すると思うわ』


「え?それって」


『平たく言うと、性交ね。

 本当は子供をつくるための行為だけど、人間はそれ以外の目的でもするんでしょ』


 押し黙った私に、レアンドルは怪訝な顔をした。


「イヴェットはなんて言ってるんだ?」


「ええと……」


 ジョゼになった私だが、意識や感覚まで竜になったわけではない。

 フランセットとして十七年生きてきた記憶もちゃんと残っているし、人間としての一般常識に従って今も生きている。

 私は竜だった前世の記憶があるだけの、人間の女の子なのだ。


『姉さんとレアンドルって、本当に魂の形がそっくりだわ。

 せっかく人間同士になったんだし、番になっちゃえばいいじゃない!』


『こらこら、イヴェット。落ち着きなさい。

 人間には複雑なルールがある。そんなに簡単にはいかないだろうよ』


『そうだよ。ジョゼとレアンドルは、まだ会ったばっかりなんだから』


『でも、二人は相性バッチリなはずよ。きっといい番になれるわ!』


『それはそうだけど、気が早すぎるよ』


 なんだかノリノリのイヴェットを、ブリュノや他の竜たちが宥めている。

 

「どうしたんだよ?俺には言えないようなこと言われたのか?」


 私は改めてレアンドルを見た。


 ロイクと同じ黒髪と赤い瞳。逞しく鍛えられた長身。

 前世ではいつも朗らかな笑みを浮かべていたが、今はどちらかといえば野性味に溢れた凛々しい顔立ちをしている。

 

 フランセットの時は第三王子殿下と婚約していたし、ジョゼになってからも誰かを異性として意識したことはなかった。


 私が、この男と……


「……できるかできないか、じゃないわ。やるしかないのよね」


 そうしないと、レアンドルは永遠に半端な竜騎士のままなのだ。


 私は決意を固め、レアンドルの剣だこがある大きな手をぎゅっと握った。


「レアンドル!私と、シしましょう!」


「?なにをするんだ?」


「赤ちゃんをつくる行為よ!」


「はぁ!?」


 赤い瞳が零れ落ちそうなほど見開かれた。 


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