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「みんな、おはよう!」


 私はジョゼとして竜の厩舎で働くようになった。 

 朝、厩舎に行くと竜たちがわらわらと寄ってくる。


『おはよう!』


『ジョゼ!お腹空いた!』


『今日はレニーの実が食べたいなぁ』


『私も!私もレニーが食べたい!』


「すぐご飯にしましょうね。

 レニーの実は昨日持ってきてもらったばかりだから、まだたくさんあったはずよ」


 竜たちの鼻や頬を撫でてあげながら、体調に問題がないかなどを確認するところから私のお仕事が始まる。

 

 今ここにはイヴェット以外にも十五頭の竜がいる。

 人間なのに竜の気配がする私はとても珍しがられ、それからとても懐かれた。


「おはようジョゼ」

「おはよう」


「エドモンさん、ガエルさん、おはようございます!」


 同僚になった厩舎員もやってきた。

 私にここでの仕事を丁寧に教えてくれる、頼れる先輩たちだ。


 皆私の本当の身分を知っているのに、ただのジョゼとして扱ってくれるのが心地いい。


「今日も皆元気そうです。あと、アシルとドロテはレニーの実が食べたいそうです」


「そうかそうか。じゃあ、朝食にいれてやらないとな」


 三人で食事の準備をして、竜たちが食べている間に厩舎の掃除を始める。

 

 食事もそうだが、寝床の敷き藁にも竜それぞれの好みがある。

 その日に食べたいものがあったり、気まぐれにいい香りにする木の葉などを敷き藁に混ぜてほしい気分の時もある。

 私はそれを正確に聞き出せるから、仕事が捗って助かると感謝されている。


 食事が済んだ竜たちは、それぞれ好きに運動場で寝ころんだり戯れたりして寛ぐ。

 それからしばらくして、おじ様たち竜騎士がやってくるのだ。


「おじ様、皆さん、おはようございます!」


「おはよう、ジョゼ。竜たちは変わりないか?」


「はい、今日も皆元気いっぱいです!」


 毎朝この報告をする時、おじ様は青紫の瞳を細めて頭を撫でてくれる。

 子ども扱いされていると思いつつも、嬉しくて照れくさくて、くすぐったいような気持ちになる。


 その後、竜騎士と竜たちは、王都の上空とその周辺を飛び回って警邏したり、少し離れたところにある森まで魔物を狩りにいったりと、それぞれの任務に分かれていく。


 今日はおじ様は剣の鍛錬をする日のようで、他の騎士と木剣を打ち合っている。

 そうなるとすることがないイヴェットは、厩舎の外でごろりと寝ころんで日向ぼっこを始めた。


 気持ちよさそさそうに目を閉じていたイヴェットの近くを箒で掃除していると、イヴェットは金色の瞳をぱちっと開いて首をもたげた。


「どうしたの?」


『ブリュノとコラリーが帰ってくるわ』


 ブリュノというのはイヴェットの番になった竜で、コラリーはふたりの間にできた娘だ。

 

 遠方にそれなりに強い魔物が出現したとのことで、要請を受けて討伐に向かっていたのだが、それが終わって帰ってきたようだ。

 私が竜騎士団に来たのはブリュノたちが出立した後だったので、会えるのを楽しみにしていた。


 ラピスラズリのような深い青の鱗の竜と、イヴェットより少し濃いエメラルド色の竜が草原に降り立ち、それぞれの背中から竜騎士が一人ずつ降りてきた。


「団長、ただいま戻りました!」


 青いブリュノに乗っていたのが、竜騎士副団長のクロヴィス・ベルトン様だろう。

 こげ茶色の髪と紫の瞳で、優し気な印象だ。


「お帰り、クロヴィス。首尾はどうだった?」


「上々でしたよ。コラリーだけでケルベロスを二匹も討伐しましたからね」


「ほぅ、それは上出来だ。頑張ったな、コラリー」


 今回の遠征は、まだ若いコラリーの訓練と婿探しも兼ねていたと聞いている。

 どうやら婿は見つからなかったようだが、訓練は上手くいったようだ。


「ところで団長、そちらのお嬢さんは?」


「ああ、これはジョゼだ。いろいろあって、今は厩舎で働いてもらっている。

 ジョゼ、クロヴィスのことは知っているか?

 ……ジョゼ?どうした?」


 その時の私には、おじ様たちの声は全く届いていなかった。

 私の目は、コラリーから降りてきた若い竜騎士に釘づけだった。


 どくん、と私の心臓が跳ねた。


 あれは……

 

 あれは……間違いない。


------私の愛しい子!


 心が歓喜に震えるのと同時に、私は弾かれたように駆けだした。

 そして、真っすぐに黒い騎士服を着た胸に飛び込んだ。


「ロイク!」


 竜であった前世では発音できなかったが、ずっと呼びたいと思っていた名を、人間になった今なら呼ぶことができる。

 それがとても嬉しい。


「ロイク!ロイク!会いたかった!また会えるって、信じてたわ!」


 ロイクの瞳が驚きに見開かれた。


「え……あんたは」


「私は、ジョゼ!」


「ジョゼ?」


「あなたがつけてくれた名前よ!ああ、顔をよく見せて!

 黒い髪も赤い瞳も、昔と同じね。でも、顔立ちはあんまり似てないのね。

 背は昔より高いかしら?それから」


「ジョゼ!落ち着け!」


 おじ様は困惑顔のロイクと、嬉しくて周りが見えなくなっている私を引きはがした。


「こいつがロイクなのか?」


「はい!間違いありません!私のロイクです!」


 満面の笑みで頷く私。


「人違いだろ?俺はロイクって名前じゃねぇ」


「ロイクを私が見間違えるはずがないわ!あなたは私のロイクよ!」


「あ~、待て待て。

 ちゃんと最初から説明しないと、話が通じないだろ」


 またおじ様に制止された。

 

「おまえら、今日はもう帰るだけだよな?

 ちょっと長くてややこしい話になるが、つきあえ」


 クロヴィス様とロイクは、困惑しながらも頷いた。


 

 


「きみは公爵家の令嬢で、前世で竜だった時の記憶があるというのか?」


「はい、そうです!」


「しかも、英雄ロイクの竜だったジョゼだと?」


「そうです!」


「その上に、レアンドルがロイクの生まれ変わりだって……?」


「レアンドルはロイクです!魂が同じですから、間違いありません!」


「団長……さすがに、話を盛りすぎでなのではありませんか」 


 クロヴィス様は、長々と説明をしたおじ様に、疑いの目を向けた。


「レアンドルが英雄ロイクの生まれ変わりだっていうのは、俺も初耳だったんだが……

 それ以外は本当なんだと俺は思っている。

 実際、ジョゼは竜と会話ができるからな」


「竜と会話、ですか」


「まぁそれは、ジョゼを見てたらすぐにわかるだろう。

 それより、レアンドル。おまえは、ロイクの生まれ変わりだって自覚はあるか?」


「あるわけないでしょう。

 前世のことなんて、一つも覚えてませんよ」


 レアンドルは、腕にぴったりと貼りついている私にまだ困惑した顔をした顔を向け、それからはっとしたように目を瞠った。

 

「……まさか、そのことが俺が竜と契約できない原因なんてことは」


『あるわよ!』


 突然キュルルルッと高く鳴いて会話に加わったイヴェットに、竜騎士たちは目を丸くした。


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