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㉟ エピローグ

 コツコツコツ……


 耳を澄ませると、微かな音が聞こえてくる。


”まだかな”


 ノエが声には出さず心に伝えてきたので、きっともうすぐよ、と返した。


 私たち人間も竜たちも、固唾をのんで静かにその時を待っていた。


 デュラクのスタンピードから約一年後、イヴェットは卵を一つ産んだ。

 イヴェットとブリュノは交代で半年間卵を温め続け、ついに今朝、卵の中から音がするようになったのだ。


 数百年の時を生きる竜は、繁殖力が低く、その生態はあまり知られていない。

 知能が高く個体差も大きいため、私の前世の記憶にあったことも全ての竜に当てはまるというわけではなく、参考にならないことも多いのだ。


 三百年の歴史があるアングラード竜騎士団でも、竜が卵を産んで、その卵が孵化するというのは数十年前のコラリーが初めてだった。 

 そして、記念すべき二例目の赤ちゃん竜が、今私たちの目の前で孵化しようとしている。


 コツコツコツ……


 敷き藁の上で、私が蹲ったのと同じくらいの大きさの白い卵が揺れている。


 イヴェットとブリュノは寄り添いながら卵を見守り、私たちは距離をとってさらにそれを見守っている。


(ジョゼ、体調は?無理はするなよ)


 レアンドルがそっと私の耳元で囁いた。


(私は大丈夫。心配しないで……あ、見て!)


 パリンと陶器が割れるような音がして、卵にヒビがはいった。

 そして、卵は内側から突き破られ、ブリュノに似た青い色がそこから覗いた。


 ヒビが広がり、さらにパリパリと音をたてて卵が割れていき……


「ピィィィッ」


 ついに小さな小さな竜が産声を上げた。


 イヴェットとブリュノは瞳を細めてキスをするように小さな竜に顔を近づけ、私たちは静かに歓喜に震えた。


 おじ様とクロヴィス様がそっと近づいて、イヴェットたちの近くにきれいな水が入った桶や小さく切った果物などを置いた。

 イヴェットが瑞々しい果物の欠片を口にくわえて差し出すようにすると、赤ちゃん竜はぱくっと食べて、


「ピイィィッ!」


 翼をぱたぱたと動かしながら元気に鳴いた。


 可愛い。すごく可愛い。涙が出てくるくらい可愛い。


 ノエからも同じような感情が伝わってくる。

 ノエはきっといいお兄ちゃんになるだろう。


 レアンドルは私を気遣うようにそっと腰に手を回して抱き寄せ、大きくなった私のお腹に触れた。


(もうすぐこっちも産まれるな)


(ええ。きっと仲良く育つわ)


 

 赤ちゃん竜は女の子だということがわかり、メラニーと名付けられた。

 ブリュノに似た青い鱗と、イヴェットそっくりの金色の瞳をした可愛らしい赤ちゃん竜の誕生は、国を挙げての慶事となった。


 私が元気な女の子を産んだのは、それから六日後のことだった。

 リディのように強く賢く美しく育つようにということで、リディアーヌという名になった。


 小さなリディアーヌを腕に抱いて、私の心はかつてないほどに満たされるのを感じた。


「ねぇ、レアンドル。

 私、今わかったわ。

 私たちはきっと、前世の分も幸せになるために産まれてきたのね」



「ああ、そうだな。

 俺たちは、そのために出会ったんだろう。

 ロイクと竜のジョゼの分も、俺たちは幸せに生きよう」


「ええ。私たちなら、それができるわ。

 リディアーヌも、同じくらい幸せにしてあげましょうね」


「もちろんだ。

 世界一幸せにしてやらねぇとな」

 

 レアンドルは私の頬にキスをして、私とリディアーヌをそっと抱きしめた。


 愛しさが涙となって、とめどなく溢れていく。

 

「愛してるわ。レアンドルもリディアーヌも、ずっと守ってあげるからね」


「俺も愛してるよ。ジョゼとリディアーヌの幸せが、俺の幸せだ」


これにて完結です。

最後まで読んでくださってありがとうございました。

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