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 私たちの結婚式は、レアンドルの実家を訪れてから三か月後に城下町の神殿で行われることになった。

 まだフランセットに申し訳なく思っているらしい王妃様が手を貸すと申し出てくれたが、そこは丁重に辞退した。

 

 レアンドルの家族も、レアンドルがバロー伯爵家を継がないことを了承してくれた。

 私はもう公爵令嬢ではなく、騎士爵位を持つ竜騎士の妻になるのだ。 

 平民に毛が生えた程度の身分でしかない私は、もうおじ様以外の王族とは直接関わるつもりはない。


 だからこそ、私はあまり派手なことはしたくないと思っていた。

 レアンドルは、とにかく早く結婚できれば、他はどうでもいいと言う。


 そんなわけで、竜騎士団関係者と、レアンドルの家族と親戚、限られた友人たちだけを招いて、小規模で堅苦しくない式を挙げることになった。


 私たちの結婚式の準備のために都に出てきてくれたお義母様と、メイドの友達と、同じ神殿で結婚式を挙げたというクロヴィス副団長の奥さんにそれぞれ助けてもらいながら準備を進めた。

 とはいっても、だいたいお義母様が主導であれこれと手配してくれたので、私はドレスのために採寸されたくらいなのだが。

 レアンドルの方も、お披露目会で着ていた礼装用の軍服を着るだけなので楽なものだ。

 


 充実した穏やかな日々を送り、ついに結婚式当日を迎えた。


「ジョゼ!なんてきれいなんだ!

 やっぱりレアンドルに嫁にやるのはもったいない。今から考え直さないか?」


「もう、おじ様ったら!なにを言ってるんですか」


 純白の花嫁衣裳に身を包んだ私を、父親役のおじ様が迎えに来てくれた。

 今日のおじ様は王族にしては地味な礼服姿だ。

 それでも高貴なオーラみたいなのが溢れだしているので、私が横に並んだら霞んでしまいそうだ。

 実際、着つけを手伝ってくれた友達は全員ぽーっとした顔で見惚れている。


「ジョゼ。これからも、俺はきみのおじ様だからな。

 なにかあったら、レアンドルの次に俺に頼るんだぞ」


「はい、おじ様。ありがとうございます!」


「俺がきみの後見人になったのは、状況的に俺が一番適していると思ったからだったんだが、今ではそうしてよかったと思っているよ。

 竜騎士団に来てくれて、俺の娘になってくれてありがとうな」


「お礼を言うのは私の方です。

 今の私があるのは、おじ様のおかげなんですから。

 私、おじ様が最初の家族だと思っています」


 おじ様はくしゃっと笑って、いつものように私の頭を撫でようとして、慌てて手を引っ込めた。

 今の私の水色の髪は、友達の手により複雑に結い上げられているのだ。

 

 夜会で倒れた私の身元を引き受けてくれて、竜騎士団で居場所をくれたのはおじ様だ。

 おじ様がいなかったら、私は今頃どこかの修道院にでも入れられていたかもしれない。

 

 そうなっていたら、私はレアンドルと出会うことはなく、レアンドルは本当の竜騎士にはなれなかっただろう。


 おじ様がいてくれてよかった。


 いつか赤ちゃんができたら、おじ様にも抱っこしてほしい。


 私はおじ様にエスコートされて、しずしずと神殿の中に足を踏み入れた。

 

 集まった多くの人々の視線を一身に浴びながら、私は愛と豊穣の女神像が祀られた祭壇の前で待つレアンドルに向かって歩いた。


 お義母様や友達が涙ぐんでいるのが見える。


 私はおじ様の腕を離れ、レアンドルが差し出す手を取った。

 剣だこのある、ごつごつした大きくて温かい手。

 私の大好きな手だ。


 私たちは手を繋いだまま女神像の前に跪き、神官様が朗々とした声で唱える祝詞を聞いた。


「……今日ここに誕生する新たな夫婦に、神々のご加護があらんことを」


 祝詞が終わると、私の手を握っているのと反対側の手が、私の頬に触れた。


「ジョゼ、きれいだ……このまま連れ去って、誰も知らないところに閉じ込めてしまいたいくらいだ」


「やだ、そんなことしたら、レアンドルを守ってあげられなくなるじゃない」


 赤い瞳がたっぷりと愛情の光を湛えている。


 あとは、誓いのキスをすれば結婚式は完了となる。


「ジョゼ。愛してる。一生俺の側にいてくれ」


「私も愛してる、レアンドル。ずっと側にいるわ」


 レアンドルの顔が近づいてきた。


 私は目を閉じて、その瞬間を待った。


 もう少しで唇が触れ合う。


 その直前に、バンッと大きな音がした。


 さっき私とおじ様が入場してきた神殿の正面の扉が乱暴に開かれた音だ。


 慌ただしく駆け込んできたのは、王族直属の近衛の制服を着た騎士だった。


「竜騎士団長!いらっしゃいますか!」


 なにかとても良くないことが起きたのだと私にもわかった。

 レアンドルにも、参列している竜騎士団関係者にも緊張が走る。


「何事だ!」


 おじ様は即座に竜騎士団長の顔になり、その騎士に駆け寄った。


 騎士は、ただ短く告げた。


「スタンピードが発生しました!」


 それだけで十分意味が伝わった。


 あちこちから息を呑む音や、小さな悲鳴が響き、幸せな祝福に満ちていた空気が一変した。


 よりによって、こんな日に!


「聞いたな!竜騎士団員は全員緊急招集だ!急げ!」


 もちろん、そこには新郎であるレアンドルも含まれる。


「ジョゼ、すまねぇ。俺は行かなくちゃ」


 ならない、といいかけたレアンドルの口を、私はかなり強引に私の口で塞いだ。


「これで!私たちは正式な夫婦になったわ!」


 女神像と神官様の前で誓いのキスまでしたのだから、私たちの婚姻は成立した。

 もう書類などは提出してあるし、この瞬間から私たちは夫婦になったのだ。


「だから、私も行く!連れて行って!」


「ダメだ!あんたは、竜騎士じゃねぇだろ!」


 血相を変えるレアンドルだが、私は引き下がるつもりはない。


「私は魔法が使えるわ!

 置いて行っても無駄よ。ノエに乗って追いかけるから!」


「ジョゼ!」


「今度こそ守るんだから!絶対に、絶対に死なせたりしないんだから!!」


 ロイクみたいに!

 あんな死なせ方、絶対にさせない!


 私が意志を曲げないことを悟ったレアンドルは悲壮な顔になった。


「ジョゼ」


「行きましょう!竜たちのところへ!」


 私はレアンドルを引きずるように立ち上がらせ、青い顔をしている参列者に向き直った。


「皆様!今日は私たちのために集まってくださってありがとうございました!

 急ではありますが、私たちは行かなくてはなりません。

 ご安心ください!必ずレアンドルと生きて戻ってまいります!」


 私たちは声援や無事を祈る声を背中に、神殿を後にした。


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