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「ジョゼさん、本当にありがとう。どれだけ感謝してもしきれないわ」


 レアンドルと伯爵は庭にいるリディとノエのところに行き、私は夫人と二人でサロンに残ってお茶会を続けることになった。


「何度手紙を送っても返事がなくて、王都に会いに行っても避けられてしまって……

 もうずっと、このまま会ってくれないんじゃないかと思っていたのよ」


「そうだったのですか」


「そうなってしまった原因は聞いてらっしゃる?」


「いいえ、なにも」


 私が首を横に振ると、夫人のレアンドルよりやや薄い色の瞳が悲し気に揺れた。


「エクトル様……夫はね、竜騎士団長だったお義父様に憧れていたのよ。

 お義父様みたいに、竜に乗って空を駆けるんだって、小さいころから騎士を目指して鍛錬をしていたの。

 でもね、エクトル様は剣も魔法も才能がなくて……騎士になれなかったのよ」


 レアンドルも祖父に憧れて竜騎士を目指したと聞いている。

 バロー伯爵も、きっと同じだったのだろう。

 

「バロー伯爵家は、武門の家柄というわけではないの。

 たまたま、お義父様が才能に恵まれていたというだけなのよ。

 それがわかっているから、誰もエクトル様にお義父様のようになれなどと強要しなかった。

 それでも、エクトル様はとても悔しかったそうで、自分が無理なら息子を竜騎士にしようと決めたのよ。

 そのために、私が妻に選ばれたの。

 私の父も兄もそれなりに腕の立つ騎士で、私も独身の時は騎士をしていたから」

 

 夫人は女性にしては背が高く、背筋がしゃんと伸びていて、女性騎士だと言われれば納得できる物腰をしている。

 きっと優秀だったのではないだろうか。


「幸いなことに、レアンドルには才能があったわ。

 レアンドルもお義父様に影響されて、私たちがなにも言わなくても竜騎士になりたいって言うようになって、エクトル様はとても期待していたの。

 エクトル様だけでなく、私たち家族は全員で期待していたわ。

 もちろんそれだけじゃなくて、可愛がってもいたのよ?

 末っ子のレアンドルは甘え上手なところもあって、家族の中心だった。

 それなのに……あの子は竜と契約できなくて……」


 夫人はぎゅっと手を握りしめ、辛そうに俯いた。


「エクトル様は、あの子に、半端な竜騎士なんて恥ずかしいって……期待外れだったって、言ってしまったの」


「な、なんてことを……」


 契約できなかったことを誰よりも悲しんでいたのはレアンドル本人だというのに、父親がそれに追い打ちをかけるようなことを言うなんて!


 家族に会いたくないと思うようになるのも当然だろう。


「ちょうどその時、レアンドルの姉のマリオンが出産したばかりで、私はそちらの手伝いに行っていたから、止めることができなくて。

 後から話を聞いて愕然としたわ。

 エクトル様も、すぐに過ちに気がついて謝ろうとしたのだけど、それ以来レアンドルは会ってくれなくなって……四年間も、顔すら見れなかったのよ」


 レアンドル……それだけ傷ついたんだろうな。


 前世の私との因縁のせいで、レアンドルには苦労をさせてしまった。

 改めて申し訳なく思ってしまう。


「ジョゼさんがレアンドルと婚約してくださって、本当によかった。

 ジョゼさんじゃなかったら、私たちは和解できなかったかと思うわ」 

 

「私は……私の家族は、いなくなってしまいましたので。

 レアンドルには、まだ諦めてほしくなかったんです」


 フランセットの両親は、王命により公爵位を父の従兄に譲り、領地の端にある小さな邸宅で隠居という名目で幽閉されている。

 ベアトリスは、元々の素行の悪さに加えて城下町で火魔法を使った罪により、「魔力が豊富で子を産める女なら誰でもいい」という辺境の領主に妾として嫁がされた。

    


 その処遇を聞かされた時も、正直なところ「へ~」くらいにしか思わなかった。

 それくらいフランセットの家族は私にとって遠い存在なのだ。

 ロイクや三百年前のメサジュの人々の方がよほど身近に感じるくらいだ。


「ジョゼさん、レアンドルのことお願いしますね」


「はい、大切にします」


「なにかあったら頼ってね。私たちは、もう家族になるのだから」


「はい……あの、お義母様とお呼びしても?」


「ええ、もちろんよ!そう呼んでくださったら嬉しいわ」


 こうして、私とバロー伯爵夫人もといお義母様は仲良しになった。

 元女性騎士だったからか、さっぱりとした気性のお義母様はとても親しみやすい。 

 

 お義母様は子供のころのレアンドルのやんちゃエピソードを教えてくれた。

 私も知り合ってからのレアンドルのことを話すと、お義母様にとても喜ばれた。

 

 士官学校を卒業してからずっと音信不通だったから、竜騎士として立派に働くレアンドルの様子がわかるのはとても嬉しいのだそうだ。

 

 そうしているうちに、レアンドルと伯爵がサロンに戻ってきた。

 ぎこちなかった空気は柔らかくなり、二人とも穏やかな表情になっている。


 それを見て、私とお義母様は視線を交わしながら同時に胸を撫でおろした。


「随分と仲良くなったようだな?」


「ええ、お義母様にレアンドルのことをたくさん教えてもらったの」


「母上、あまり変なことをジョゼに吹き込まないでくださいね」


「あら、変なことって?例えば、あなたが七歳の時に」


「止めてください!そういったことですよ!」


 焦るレアンドルがおかしくて、笑ってしまった。

 七歳の時になにがあったのだろう?

 そのうちこっそり教えてもらおう。


「ジョゼさん……リディもノエも、とてもいい竜だね」


 遠慮がちに伯爵が声をかけてきた。


「はい!とっても賢くて可愛い竜ですよ」


「ジョゼさんのおかげで、レアンドルは竜騎士になれたそうだね。

 ありがとう。本当にありがとう……」


 これは、前世の関係ではなく、単純に私がリディの命をつないだから、という意味だ。

 私の前世のことを知っている人はそれなりにいるが、レアンドルが竜と契約できるようになった理由は竜騎士団の中でもごく少数の人しか知らないのだ。


「ジョゼさん、レアンドルと婚約してくださってありがとう。

 これからも息子のことをお願いします」


「もちろんです。レアンドルは私が守ります!」


「いやいや、逆だろ!俺が守る側だろ!」


 そんなやりとりを、クレマンさんたち使用人がちょっと距離を置いて微笑ましそうに見守っている。

 レアンドルが両親と和解できたのを、心から喜んでくれているのがわかる。


 私たちは手紙を書くことと、また遊びに来ることを約束して、リディとノエに乗って飛び立った。


 往路は緊張と不安を抱えていたが、復路では心が軽く晴れやかになっていた。

 ノエもお出かけが楽しかったようで、ご機嫌な気分が伝わってくる。


 家に帰って二人きりになってすぐ、レアンドルは私をぎゅっと抱きしめた。


「ジョゼ、今日はありがとう」


「行ってよかったでしょ?」


「ああ……あんたにはかなわねぇな。これから一生、かなわねぇんだろうな」


「ふふふ、そうかもね」


 渋るレアンドルを連れ出してよかった。

 本当は、レアンドルもずっと仲直りをしたがっていたのだと思うから。

 私がそのきっかけになれたのが嬉しい。

 レアンドルの役に立てたのが嬉しい。


「また、一緒に行こうな。あんたに見せたいものがたくさんあるんだ」


「ええ、そうしましょうね。楽しみにしてるわ」


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