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 私が飛行訓練をするようになってから、念のためということで私にも竜騎士と同じ黒い騎士服が支給された。

 正式に竜騎士になったわけではないが、竜に乗る機会がこれから増えるだろうから、対外的にも騎士服を着ていた方がいい、ということなのだそうだ。

 以前は女性の竜騎士もいたそうなのだが、今は男性だけしかいない。

 この黒い騎士服を着る女性は、現在では私だけなのだ。 

 そう思うと、なんだか特別な存在になったようで少し嬉しい。

 

 私の飛行訓練は順調だった。

 最初の数回はレアンドルと二人乗りだったが、すぐに私一人で飛行する許可が出た。

 飛行距離も伸び、王都からかなり離れたところまで行けるようになった。


 人間になった今も、飛ぶのはとても楽しい。

 竜たちも私を喜んで乗せてくれる。

 竜騎士団で雇ってもらって本当によかったと日々思っている。


「レアンドル!鞍の確認お願い!」


 私は今日の相棒となるドロテに鞍を装着し、レアンドルを呼んだ。

 飛行は私一人でも大丈夫だとお墨付きを受けたのだが、鞍の装着は命に係わるからと、必ずレアンドルに確認してもらうことになっている。


「うん、大丈夫だ。ちゃんと装着できてるな。もう行けるか?」


「ええ、いつでも行けるわ」


 今日は、王都から北東にある山まで飛ぶことになっている。

 山の頂き付近にある高原には希少な薬草が生えていて、私の飛行訓練も兼ねて採取に行くことになったのだ。

 今までで一番の遠出で、楽しみで昨夜は眠れなかったくらいだ。

 

「よろしくね、ドロテ!」


『任せといて!』


 ドロテに跨り、艶やかな茶色に金が混ざった美しい鱗を撫でると、元気のいい返事が返ってきた。

 

『薬草の生えてる場所は僕が知ってるから大丈夫。お仕事は早く終わらせて遊ぼうね』


「ありがとう、ユーグ。頼りにしてるわ」


 明るいオレンジ色のユーグは何度も高原に行ったことがあるということで、今回のレアンドルの相棒に選ばれた。

 私だけでなく、ドロテとユーグも張り切っている。


「出発するぞ。ユーグ!」


『はーい!』


 レアンドルの号令で、私たちは王宮から飛び立った。

 運のいいことに今日は快晴で、絶好の飛行日和だ。

 あっという間に王都上空を抜け出し、森や草原や宿場町を下に見ながら北東に飛ぶ。

 目的の山の麓まで、馬車でなら五日はかかる距離だが、竜に乗ったら数刻で着く。

 遠くに小さく見えていた山がぐんぐん近づいてきて、目的地がもうすぐだということがわかった。

 

『ジョゼ!降下するよ!』


 手綱をぐっと握りしめた私を乗せたドロテは、先行しているユーグの後についてゆっくりと高度を下げ、草原に降り立った。


『到着!』


「お疲れ様!ありがとうね」


 私はドロテから降りて、その額を撫でた。

 竜たちから鞍を外してあげてから、私とレアンドルは薬草採集を始めた。


『薬草は、あっちの日陰になってるところにたくさん生えてるんだよ』


 ユーグに教えてもらったところに行ってみると、本当に目的の薬草が群生していた。

 二人でせっせと採集して、昼前には目標の数を揃えることができた。


「ユーグのおかげで早く終わったわね」

 

「そうだな。じゃ、俺は昼飯つくるから、あんたは竜たちの相手してやれよ」


 これが、私が今日の遠出を楽しみにしていた理由の一つだ。

 ついにレアンドルの料理を食べる機会がやってきたのだ!


 できればレアンドルの手際を見ていたかったが、竜たちは私と遊びたいとウズウズしながら待ち構えている。

 私は自分の欲求より、頑張って飛んでくれた竜たちを優先することにした。

 私が放り投げた水球を口でキャッチするという遊びをしたり、野花で花輪を編んで首にかけてあげたりしていると、いい匂いが漂ってきた。


「できたぞ。手を洗って来な」


 言われた通りに手を洗うと、熱々の具だくさんスープが入った器を渡された。

 ワクワクしながらスプーンで掬って口に運んだ。


「……美味しい」


 材料は、この前のデートの時に市場で買った乾燥した茸と肉、それから薬草を採集していた時に見つけた食べられる野草だ。

 絶妙な塩加減なのだが、これは塩漬けの乾燥肉から溶けだしたものだそうだ。

 新鮮な野草の風味も加わり、とても美味しい。


「俺の料理の腕は悪くねぇってことがわかったか?」


「よくわかったわ……悔しいけど、本当に美味しいもの。完全に私の負けだわ」


 美味しくて食べるのが止められないのがまた悔しい。

 そんな私にレアンドルも満足そうで、それもなんだか悔しい。


 こっそり料理の特訓をしなくては。

 ある日突然美味しい料理をつくって、驚かせてやるのだ。


 私はスープと香ばしく焼かれたパンを食べながらひっそりと胸に誓った。


 レアンドルは食後の後片付けも手際が良くて、私が手を出す隙もなかった。

 遠征する時は野営も珍しくないので、これくらいはお手の物なのだそうだ。


「あんたが一人で遠征なんてありえねぇから、行くとしても絶対に誰かと一緒だ。

 こういうのは、一緒にいるやつにまかせりゃいい」


「それもそうかもしれないけど」


 なんだか納得いかなくて口を尖らせていると、


『ジョゼ!』


 ドロテが走ってきた。


『知らない竜がいる!』


 ドロテの示す方向の空には白い雲しか見えないが、どうやら野生の竜の気配を察知したらしい。


『あれ、なんか様子がおかしくない?』


『そうだね。僕がちょっと話を聞いてくるよ。ドロテはジョゼたちをお願い』


 ユーグはさっと飛び立った。


「どうした?なにかあったのか?」


「野生の竜がいるって。でもなんか様子がおかしいらしいの」


 野生の竜。誰とも契約を交わしていない竜。


 もしかしたら、レアンドルと契約できる竜かもしれない。


 私は胸が高鳴ると同時に、心の底が冷えていくような心地がした。

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