女神のカケラ。
城壁の上には人が歩けるような通路が設けられているようす。
豆粒くらいにしか見えないけど、どうやら警邏の衛兵さんもいるみたい。
「あたし達、見つかっちゃわないかな」
「うん。そこのところは大丈夫。あたしが一応認識阻害の魔法を展開してるから」
はうう。
ハルカって、本当にすごい魔法使いさんなのかも。
こうして普通に空中浮遊しながら、普通に他の魔法も使ってる? ってことだもんね。
「ハルカって、ほんとすごいのね」
「えへへ。そうなのよ、あたしは大賢者、だったからね?」
大賢者!!
それってそれって、伝説の中でしか出てこないような、そんな存在!!?
「大賢者、って……」
「賢者よりはすごいって意味よ?」
「賢者、よりは、って……」
今は、もっぱら最高位の魔法使いは聖女様とか大聖女様とか呼ばれてる。
たぶん、研究が主な魔道士よりも、聖女庁の方が政治的に力があるからだろうけど。
でも、賢者って存在は伝説やおとぎ話には出てくる、かな。
そもそも賢者って存在が、魔法を極めた人っていう意味の称号じゃ、無かったっけ……。
「すごい、のね……ハルカ……。
「もう、だから言いたく無かったんだけどな。そんなに恐縮されちゃったら、悲しいよ? あたしは確かにその昔、勇者パーティとして魔王と戦ったメンバーの一人だったからさ。大賢者、ラギレス。歴史の本の片隅にくらいは残って、ない、かなぁ」
「う、ごめん、わかんない……」
「そっか。もう5000年以上経ってるものね。しょうがないかなぁ」
「5000年って……」
「うん。今の、帝国ができる前の話よ」
え?
「もしかして、魔道王国マギレイスの時代?」
帝国ができる前にあったという伝説の王国。まだ神が身近にあった頃。アーティファクトが溢れていたという、そんな時代は神話になっている、けど……。
「はは。マギレイス、かぁ。あたし、前々前世でマギレイスの王女様、してたこともあったわね……」
ええ??
だって、でも、そうしたら……。
神話時代の、そんな存在……。
ハルカは、もしかして、神様?
「うーん。あたしはあたし。あなたとそう変わらないわ。っていうか、あなただって……」
ふっと、空が割れた。
空間が、裂けた?
そこから、銀色に輝く、彫刻のような男性がぬっと顔を出す。
時間が、固まったような気がして、あたしはその姿から目が離せなくなった。
「ふむ。清浄な気を感じてきてみれば……。そこにいるのは、女神ラギレスの、カケラ、か?」
「マクギリウス!! どうしてあんたがこんなところに現れるのよ!!」
「ふむ。この世界には色々とつながりができてしまったからね」
ええ?
マクギリウス!!?
もしかして、伝説にある大精霊マクギリウス、様?
帝都の名前の由来となった、大精霊様がどうして!!
「ああ。ここは、空気が心地よいな。この泉が、そうか。ここであればこうやって女神のカケラが二つも揃うのも、わからなくもないな」
「どういうことよ!?」
思わずそう叫んでいた。
女神のカケラが、二つって、言った。
マクギリウス様と言ったらキュアやバアルたちみたいな精霊の、上位の存在の大精霊だもの。
嘘を言っているわけじゃない、のはわかる。でも。
なんだか、あたしがあたしじゃ無くなってしまうかのような、そんな漠然とした不安が心の奥底に押し寄せる。
「女神の、カケラ、ねえ。まあ、この世界にあたしのカケラが散らばっちゃったのはあたしの責任ではあるけれど、でも、あたしのカケラを宿しているからって、セリナはセリナ、だわ。この世界にちゃんと生きている。一人の人間として。だからさ、あなたも無粋なことは言わないでおいて?」
「なんと。それでは、あなたは女神の写し身、そのものか。悠久の時の果てに、こうして復活なさったと、そういうことでしょうか」
「ふふ。わかってくれたのなら嬉しいわ。そう、あたしが復活できたのも、実はここにいるセリナのおかげなんだけどね。世界に散らばってしまったあたしのカケラを、色濃く受け継いで生まれたセリナ。彼女のおかげ、なのよ」




