甘くてふわふわで。
そんなこんなで人の姿になったり猫の姿になったり割と自由自在に変化するミーシャのハルカは、あたしの行くところにはずっと一緒についてくるようになった。
あたしを守ってくれる?
多分そのつもりなんだろうな。
と言っても帝都に行くのはまだ先の話。
ハルカのおかげ? で、ギディオン様もその時は一緒に行ってくれるって話になった。
っていうか、ハルカが一緒に来るって言ってのにギディオン様が来ないなんて言えなかっただけ?
それだとちょっと申し訳ないなぁ。
とか思いながらも、一緒に帝都に行けるっていうのはすっごく嬉しくって。
ニャァ。にゃ。にゃにゃにゃ。ニャァぁ。
そんなふうに猫の声で歌うように鳴きながら、ハルカのミーシャはあたしの前を歩いていく。
ふふ。
なんだか楽しそうでいいな。
そんなふうに微笑ましく思って。
「おはようございます!!」
「にゃぁぁ!」
朝の挨拶をしてお店の中に入って行く。
ミーシャは早速お店のイートイン席の一番窓際の特等席。出窓の棚のところにちょこんと飛び乗って、外を見ながらすすっと箱座りになる。
「ああセレナおはよう。ミーシャちゃんも一緒かい。最近はお客さんにも大人気だしねえ。ああゆっくりして行っておくれ」
朝の飲み物の支度をして夜まで休むため帰り支度をしていたマロンさんが、そうにこやかに挨拶してくれた。
最初に連れてきた時はちょっとびっくりしていたけれど、ミーシャの人懐っこい仕草にマロンさんもアランさんも、すっかり虜になって。
ジャンだって、ミーシャがニャァって近づいていくと顔がにやけるくらいにはなってる。
イートインしていく常連さんも、もうほんと、ミーシャが座っている近くに座りたがってしょうがない。
ふわふさな毛を撫でてもミーシャは邪険にしないから、余計に人気者になってしまったのかもしれなかった。
「いいの? ミーシャ」
そうこっそり聞いてみると、
「にゃぁ。だってここに来るお客さん、悪い人いないんだもの。セリナだって、そう思うでしょう?」
「そりゃあ、ね。みんなうちのドーナツを好きできてくれている人ばっかりだし」
「にゃぁ。悪い人じゃないのなら、少しくらい撫でられても平気。うん。嫌な人だったらちゃんと嫌って言うし大丈夫」
「そっか。ミーシャ。ありがとう」
あたしはミスターマロンが大好きだし、ミスターマロンに来るお客さんも、みんな大好き。
ミーシャもおんなじように思ってくれるのなら、すごく嬉しいな。
「ああみてくれよセレナ嬢ちゃん! 完成したぜ!!」
「おめでとうアランさん。ふふ。つやつやしてすごく綺麗ね」
「見かけだけじゃないさ。ほら、これ、食ってみてくれ」
「ありがとう。じゃぁいただくわね」
厨房から呼ぶ声に行ってみると、そこには、綺麗に吊るされたタイヤのようなギザギザのリング。
黄色くてほんわかとして、グレーズがツヤツヤで、たまごとグレーズの混ざったようなとっても甘い香りがする。
揚げたてのドーナツを吊るす用の棒に通して、十個くらいまとめてグレーズに浸す。
くるくるっとまわして満遍なく浸したらラックにかけ、すこしおいておくと、こうしてツヤツヤに表面が固まり、フレンチクルーラーの出来上がりだ。
でも、もともと生地がすっごく柔らかいから、途中で千切れちゃったり、揚げている途中ではじけちゃったりで、ちゃんと形になるまでが大変だった。
ほんと、アランさんの研究と努力の末の完成で。
ちょっと感慨深い。
棒から外し、お皿にのせてくれたアランさん。
それを、ちょっとつまんで頬張る。
美味しい!!
「甘くって、柔らかくって、ふわふわで。ほんと美味しいわ!!」
「はは、嬢ちゃんにそう言ってもらえると、ほんと嬉しいねえ」
アランさんの顔も満面の笑みになっていた。




