マジカルレイヤー。
「ところで、そこのあなた? あなた、セリナを悲しませた自覚はあるの?」
「いや、帝都行きを反対するつもりも、悲しませるつもりも、なかったんだ」
「ふーん。じゃぁあの大きなため息は、何?」
「ああ。わたしの継母、帝国聖女庁筆頭聖女のニーア・カッサンドラって女性がいるんだけれど、彼女からもセリーヌを帝都に連れてきてほしいって要請されていてね……。それをどう躱わそうかどう断ろうかと、ちょうど悩んでいたところだったんだ……」
ギディオン様?
ニーアお姉様があたしを帝都に? どうして……。
なんだか悩んでいるような表情のギディオン様。
どうしちゃったんだろう……。
「ニーアお姉様はなんであたしを帝都に行かせたいの? 何かあるんです?」
「う……」と、口をつぐんだギディオン様。
「ふむふむ。じゃぁあたしがついて行ってセリナを守ってあげよう」
「え? ハルカ?」
「ふふ。驚かないでね」
あたしの膝にいた猫のミーシャの姿のハルカは、そのままヒョンと床に降りるとまるで人間のように2本足で起き上がった。
そのまま、前あしを天に掲げる。
「マジカルレイヤー!!」
ミーシャの真っ白な、ううん、白銀のマナが彼女の全身から吹き出し、まゆのように丸く膨らんだ。
そして……。
そのまゆが、しゅるるると縮んで。
そこにいたのは真っ白な絹のような光沢のあるワンピースで身を包んだ、美少女、だった。
◇◇◇
「ミーシャ!!? ううん、ハルカ? ハルカなの!!?」
「うふふ。そう、これがあたしのハルカとしてのマトリクス。日本人だった頃のあたしだよ?」
日本人っぽい顔立ちだけど、栗色の髪に目もクリンクリンで大きい。まつ毛も長い。
肩までのサラサラの髪は子供っぽく見えて、それこそ中学生くらいにも見えるけど……。
「ハルカ、って……、中学生だったの!!?」
「バカね、そんなわけないじゃない。これはね、ハルカのマトリクスではあるけど、そりゃあ色々変えてるわけよ。だって元々この魔法、魔法少女になる魔法なんだもの」
「魔法、少女、って……」
「あら、あなたの時代にはやってなかった? テレビで、変身して戦ったりする魔法少女アニメ。まあ同じ日本って言っても年代の差やパラレルの差なんかもあるけど」
はっきり覚えてないけど、やってた。アニメ。子供の頃は夢中になって観てた覚え、あるわ……。
「わかる、けど、そりゃぁ魔法少女は知ってるけど、でもだからってそんなの……」
「あはは。うん。これはね、まあ必要に迫られて開発したあたしオリジナルの魔法だからね。正体を隠す変装みたいなもの?」
変装?
それなわあたしだって髪を染めたり目の色を変えたりくらいならしたけど……。
「あたしの元々のセリーヌ・マギレイス・ラギレスっていうのはね、結構な有名人だったのよ。だから、正体を隠して好きな人とデートしたりとかもしたかったからね、こういう変身魔法を考えたの。あ、でも基本はマナのレイヤーよ? ほら、魔法で火傷や怪我しないように皮膚の上にレイヤー貼るでしょ? その応用ってわけ」
「皮膚の上にマナのレイヤー、ですか?」
「あらあら、ギディオンさんの方が食いついてきた? っていうか、レイヤー魔法くらい使うでしょ? 魔法の基本、じゃない?」
「いや、聞いたこともありません、でした……」
「そうなの? セリナ、も?」
「うん、ごめん、わかんない……」
学院でも習った覚え、なかったかも……。
「たとえば、魔人とか魔獣は本体が魔石で、その表皮は魔でできたガワだって話は今のこの世界でも通用する?」
ああ、それなら……。
「ええ、それはわかります。魔人や魔獣は生物ではありませんし」
「まあ、その生物とかどうかはこの際置いておいてね。それを言ったら人だって、本体は魂なんだから。レイスと魔人の魔石にはそこまで違いはないのよ? そもそもグレートレイスから別れた魂は、魔人にだって転生するんだもの」
え??
「ごめんね、ちょっと脱線した。たとえばさ、強力な熱魔法を使おうと思ったら人の身じゃ危ないって思わない? ちょっと触れたらじゅわって燃えちゃうものね。人間ってひ弱だから。それを防ぐのがマナのレイヤーなのよ」
「ああ。なるほど……」
「そっか、あなた、ドラゴンズアイを持ってるのよね。だったらドラゴニアの魔法使えるわよね? あれもマジカルレイヤーの応用なのよ?」
そっか、ギディオン様がドラゴンに変身した魔法。あれがそうなの? マジカルレイヤーって。
「ふふ。元々ドラゴンズアイにドラゴニアの権能を教えたの、実はあたしだったりするからね」
そう言って笑うハルカ。
ほんと、ハルカって何者??




