新しいドーナツの研究。
あたしの提案に乗り気になってくれたアランさん。
「いっちょう頑張ってみるか。これがうまくいけば2号店でも使えるからな」
そう言って。
もともとものづくりが上手いこともあって、ささっと小さいサイズの試作機を作り上げた。
器具だけじゃなくて生地の研究もしなきゃだから大変だけど、ハンドルのレバーをぎゅっと握るとドーナツ生地がカチャンと一個分カットされ落ちる試作機で、まずは今のドーナツ生地をもう少しやらかく粘度高めにした生地をこしらえ試してる。
片面を揚げひっくり返したところで、裏面がパックリ割れて広がる。
「上手くいかねえな……」
そういうアランさんに。
「これでいいのよ。これはこれでカリッと揚がって美味しいわ」
となぐさめてみる。
それに。
「これは新商品ってことで良いんじゃないかしら? ほら、粘度をあげるためにいろいろ試してバターとかも増やしたでしょう? おかげでカリッとしたところが香ばしくって割れた中の部分は柔らかくって良い香りがするわ。きっと人気のドーナツになるに違いないもの」
「ふむ。そうか。しかし名前は……」
「そうよね。クッキーリングとかどう?」
「クッキーか……。確かに、このサクサクしたところはクッキーの味に似てるな……」
そして今回の目玉。
アランさんのところにやってきたお友達、リュークさんの手土産にあったチョコレート菓子。
チョコレート自体は昔からあったらしいけど、あんまりたくさんは流通していなかったそう。
だけど最近帝都では結構人気で、多く出回るようになっているんだとか。
他の地域からの輸入品だとかいうことだったけど、安く入るようになったということなのかな?
チョコがあるならカカオ豆があるのだろう。そうすればココアパウダーも作れるし、ほっとココアとかも美味しそう。
それに、なんて言ったって、チョコドーナツが作れるもの!
コーティング用のチョコレートはもちろん、ココアパウダーを生地に混ぜ込めば今よりもっと粘度も上がる。
マシンカットで落とし揚げをしてもオールドファッションみたいには割れず、ちゃんとまあるいままのドーナツができるから。
あたしはアランさんに、なんとかカカオを仕入れて欲しいってお願いして、それをドーナツ作りにいかす方法を色々と話した。
そして……。
油鍋、フライヤーの横に支柱を作り、そこに引っ掛ける形の動く腕をつけ、ホッパーを取り付ける。
ホッパーに生地を入れフライヤーの上で動かしながら、ハンドルのレバーをギュッと握るとドーナツがカチャンカチャンと一個ずつ油面に落ちていく。
この時、重ならないように落とすのがコツ。
大体三列三個づつで九個いっぺんに出来上がる。
ベンチでドーナツをカットしていくよりも、揚げるだけなら割とすぐできるようになるだろうから、新しい人手にフライヤーの前に立ってもらって揚げるの専門になってもらっても良いかもだ。
今までだと、ベンチでハンドカットのドーナツをカットしている間と、フライヤーの前に立っている時間を基本一人でこなしていたアランさん。
ジャンがきてからは彼を教えながらだったからもっと大変だったかもしれないけど、最近ではジャンの仕事も早くなって、結構空き時間も増えていた。
まあでもそれでも。
仕込みの時間も仕上げの時間も必要なドーナツ作り。
ジャン一人で厨房を回すのは不安も大きい。
アランさんが帝都に行くのは次の春だそうだ。
流石にそろそろこの地方にも雪が降るかと思われる時期にきて、そんな雪の中を移動する無茶はしないらしい。
だからその間になんとかマシンカットドーナツを軌道に乗せて、新しい人も育てなきゃってそう思ってるんだろう。最近のアランさんはますます寝る間も惜しんでドーナツの研究をしている。
フレンチクルーラーの話もしてみた。
小麦粉にバターを混ぜ、熱湯でさっくり混ぜ切った生地に、大量の卵を投入してミキサーで混ぜる。
そうしてできた卵色の柔らかいふわふわな生地をホッパーに入れ……。
ギザギザのついた金具でシリンダーから押し出し油に落とすことで、車輪のようなギザギザなドーナツが出来上がる。
卵白のおかげでできた大量の気泡が、高温の油で揚げることで急激に膨らみ、ふわふわな食感を生み出すの。
研究熱心なアランさんにはほんと頭が下がる。
あたしのちょっとした話から、ちゃんとしたレシピや器具を生み出せるんだもの。
ふふ。完成するのがほんと楽しみだ。




