ミーシャ。
そんなこんなで真っ白なもふもふ子猫はあたしの相棒になったのだった。
名前はなんとなく思いついた名前、ミーシャになった。
チーコ、とか、ミリア、とか、そんな名前もいいかなって思ったんだけれど、なんとなく。
「ミーシャ」
と呼んだら、
「にゃぁ」
とかわいい声で鳴くもんだから、もうあたしの心もメロメロに溶けて。
賢いミーシャは、もうちゃんと自分の名前がミーシャだって自覚している様子だった。
たまに「しろこ」とか「チーコ」とかふざけて呼んでみるけど、そんな時はうんともすんとも答えない。
ちゃんと「ミーシャ」と呼んであげるとかわいい顔をこちらに向けて、「にゃぁ」と応えるの。
撫で回しているとわかる。
ミーシャの身体の中にはかなりのマナが蓄えられている。
こんなに小さいのに。
ううん、小ささなんか関係ない。
人の場合、マナが蓄えられる場所は、魂という名で呼ばれている。
うん。心とか霊魂とか、そういうのと一緒。
人が人たる所以。
そのたましいそのものの中にマナがあるの。
レイスの中の空間は広大だ。
身体の大きさなんか関係ない。
レイスさえ十分に育っていれば、その中にはマナなんかいくらでも貯めて置けるのだから。
きっと彼女の中にあるという聖石もあたしたちのレイスと同じようなものなのだろう。
見かけの大きさなんてきっと関係ないのだ。
この世界にも、「転生信仰」というものがあった。
人が死ぬとその魂は、大霊という場所に還るのだという。
そしてそれまでの記憶や苦しみを浄化され、再び人の子として生まれ変わる。
中には、前世の記憶を完全に無くしていない状態で生まれ変わる人もいて、そうした人のことを「転生者」と呼んでいるのだということだった。
っていうか。
あたしのように異世界のそれも地球の日本からの転生者がかなりいる、いた、という事実は、歴史の本にも記載されているのだという。
もちろん一般的に流通している書籍ではなく、王宮などに秘蔵されている大昔の本だっていうから読んだことのある人は多くないのかな?
まあこれはギディオン様やニーアお姉様から教えてもらった話だけど。
それでもって、なんであたしのような日本人の転生者が多いのか、という話にはいくつかの仮説があって。
その一つが、
「大昔にこの世界と日本が存在する世界に『ニアミス』のような状態があって、そこであちらのグレートレイスとこちらのグレートレイスが接触し一部融合したのではないか?」
という話。
人の住むこの世界というのは、実はエーテルに浮かぶマナの泡なのだ。
これがこの帝国世界の最高学府、帝国貴族院の学者様方が導き出した最新の学説なのだという。
世界というか宇宙空間だよね、これは、マナの泡の表面に存在し、物質はその泡の表面の歪みにすぎない、って。
なんだかそれって、量子論とか超ひも理論に似てない?
あたしはそんな日本人だったころの物理学なんかには詳しくないけど、物質をどんどん細かくしていったら、原子とか素粒子とかになって、それが全てひもの振動で表される、とかなんとか。
重力だって空間の歪み。
だったら?
ひもってそれそのものが空間の歪みってこと?
それと、ブレーン宇宙論とかいうのもあった。
宇宙空間って実は膜の表面にあるの?
だったら、ひもは膜の歪み?
歪みが振動した姿が物質なの?
よくわかんないけど、よくわかんないけど、なんだかそれってとっても興味深い。
エーテルの海に浮かぶシャボン玉のようなマナの泡が無数に存在する世界。
マナの泡一つ一つに、その表面に、世界がある。
そして、そんなシャボン玉はくっついたり離れたりしながら漂って。
そんな情景を、あたしは夢で見たかもしれない。
きっと。
宇宙を創るマナも、あたしの中にあるレイスを創るマナも、きっと元を正せば同じものなんだろう。
グレートレイスは宇宙そのもの。
だから……。
◇◇◇
「じゃぁミーシャ。あたしはそろそろお出かけしてくるね。いいこにしててね」
撫でながらそう言い聞かせる。
「にゃぁ」
わかってるんだかわかってないんだかわからないけど、ミーシャは可愛く答えてくれて、そのままあたしのベッドで丸くなった。
「そっか。ミーシャはおねむだものね」
夜の間お庭に出ていたミーシャ。
どこで遊んできたのか知らないけど、ねこは昼間は寝る時間だものね。
「じゃぁ行ってくる」
そういって部屋を出る。
侍女のレイヤがふんわりとお辞儀をして、見送ってくれた。




