マ・ギア
不定期にはなりますが、新章の連載を開始しました。
書き残していた命の水が溢れる聖なる泉の顛末、そしてセリーヌの力の秘密……。
いろいろ紡いでいきます。
よろしくお願いします。
そういえば、ですが、今回書籍になった「まっぴらごめんです!!」とこのお話は同じ世界の出来事で、ちょうどこちらの方が1000年未来のお話となっています。
もしよかったら、お手にとっていただけると幸いです。
よろしくお願いします。
マ・ギア。
それはこの世界に存在するアーティファクト。
魔法の塊?
そんな、不思議な存在。
ギディオンさまが所有しているドラゴンズアイもそう。
普段は彼の右目に融合していて、いろいろと魔法を補助しているらしい。あのドラゴンに変身する魔法もドラゴンズアイの権能なんだっておっしゃってた。
帝国聖女庁にはたくさんのマ・ギアが秘蔵されているんだって。マ・ギアはどれも唯一無二。全く同じものは二つとなく、そしてそのマ・ギアは自分で所有者を選ぶのだとか。
ギディオンさまは、ドラゴンズアイに選ばれた、ってことだよね。
だとしたら、この世界には主を待っている、そんなマ・ギアがいっぱいいるのかも。
あたしも、いつか自分だけのマ・ギアが持てるといいな。
ギディオン様からマ・ギアの話を聞いて、そんなふうに羨ましくなっちゃってた。
自宅の寝室で。
目が冴えちゃって眠れなくなってしまったあたしは、もぞもぞっとベッドから抜け出しガウンを羽織って部屋の出窓のカーテンを開ける。
星がいっぱい瞬いているお空には、まんまるなお月様が煌々と輝いていた。
シンシン振る雪のように、マナが降ってくるのがわかる。
どうしてなのかわからないけれど、こんな満月の夜は月の光と一緒に大気中のマナが降ってくる。
月がこうして煌々と輝く夜は、普段よりいっぱいのマナを感じられて、それを自分の心の中にたっぷりと蓄えて……。
あたしは満足してベッドに帰った。
身体中が心地よいマナを浴び、熱っている。
ああ、なんだか急に眠たくなってきちゃったな……。
次に気がついた時にはもう朝だった。部屋に朝陽が差し込んで眩しい。
「んー。もう朝かぁ。おはようミーシャ」
いつの間にかベッドに潜り込んでいた真っ白な毛玉、子猫のミーシャを撫でまわし、朝の挨拶をする。
「にゃぁ」
と答えてくれる声が、可愛い。
この子は、聖獣、だ。
まだ子猫の姿なのに、その身体の中にはかなりの力を秘めた聖石があるのがわかる。
出会ったのは、ベルクマール。
大公領の聖都カサンドラの、お館の庭の中央にあったグランウッドっていう大樹の根元で丸くなって震えていた彼女を保護して、お部屋に戻ったところでギディオン様に見つかったのだった。
◇◇◇
「その子、普通の猫じゃないね」
あたしの腕に抱かれ丸くなってる白い毛玉をみて、開口一番そうおっしゃったギディオン様。
「え? ギディオン様?」
「そのこから溢れ出てくる聖なるマナ、真っ白なマナを見るとね、普通の生き物じゃありえないってわかるよ」
「ギディオン様、マナの色が見えるんですか!?」
「そうだね、たとえばセリーヌのマナ、魔力紋は虹色に光って見えるよ。全属性のマギアスキル持ちだなって。それで最初から平民の子じゃないことはわかってたんだけどね」
「そっかぁ。そういうバレ方をしてたんだ……」
「ああ、それでも君がセリーヌだってことは気が付かなかったんだけどね。君の髪色が変装だっていうことまではわからなかったな」
そうハハッと笑みをこぼすギディオン様。
「いいなぁ。ギディオン様。あたしも頑張ればギディオン様みたいにマナの色とか見えるようになるのかしら。魔力紋って個人個人で違うのでしたっけ。だったらギディオン様の魔力紋を覚えたら、遠くにいてもギディオン様のことを感じることができるようになるのかなぁ?」
「んー。セリーヌの魔力は特別だし、頑張ればそういう力にも目覚めるかもしれないけどね。私のは少しインチキだからね。私の瞳には、アーティファクトである『マ・ギア:ドラゴンズアイ』が嵌ってるんだよ。そのドラゴンズアイの権能の一つなのさ。魔力紋が見えるのも。その魔力紋を構成しているマナの色が見えるのも」
翼を生やして空を飛ぶのも、ドラゴンに変化するのも、みんなドラゴンズアイの権能なんだって話。
すごいな。そう素直に関心して。
マ・ギアは主を選ぶ。そして、その主が死ぬまでそばを離れることはないのだという……。
「みー」
「あ、ごめんね、お腹、すいたよね」
あたしがギディオン様のお話に聞き入っていたら、腕の中の子猫が弱々しく鳴いた。
寝室のベッドのふわふわなお布団の上に子猫をそっと下ろし、彼女のためのミルクを用意する。
といっても猫用ミルクなんかここにはないし、人用の牛乳だとお腹を壊しても大変だ。
あたしは小さなお皿を用意し、そこにそっとミルクを注ぐ。
といっても、このミルクはあたしのポーション魔法で創り出したミルク状のポーションだ。
これなら栄養満点だし、お腹を壊すどころか子猫の健康にも役に立つはず。
ちょうど人肌くらいの温度で、お味もちょっぴりつけてある。
くんくんしてぺろっと一口舐めた子猫。美味しかったのか、そのまま貪るようにぺろぺろチャプチャプと食べ始めた。
その姿が可愛くてたまらなくて、あたしは上目遣いにギディオン様にねだってみた。
「ねえギディオン様、この子、ガウディのお家に連れ帰ってもいいでしょうか?」
聖獣だというのが本当なら、この子はここ、ベルクマール大公領にとっても大事な存在になるのかもしれない。
御伽話に聞いた大昔の聖女様は聖獣を連れていたという。
魔王を封印したとか浄化したとかそんな話だったかな。
そんな聖女様がいつもそばに置いていた聖獣。
黒猫の子猫の姿が載っている絵本、あったっけ。
色合いは違うけど、最初にこの子を見つけた時、あたしはそんな御伽話の聖獣の姿を思い浮かべた。
ギディオン様から「聖獣だ」って聞かされてもそこまで驚かなかったのも、あたしの中でもそんな予感めいたものがあったからだった。
「そうだね……。明日、太公閣下にお伺いを立ててみようか」
「ギディオン様!」
「はは、大丈夫さ。きっと君の願いなら聞いてくれるよ。それに……、この子はもう、君のマナに同調し始めている」
「え? 同調、ですか?」
「聖獣は聖女のマナで育つからね。多分この子はもう君のマナ以外は嫌がるかも。ほら、ミルクを飲み終わっても物足りなさそうに君の指を舐めてるよ。ほんとに美味しかったんだね。君のマナは」
「みゃあ」
あたしの顔を覗き込むようにみるまんまるな瞳。
ちっちゃな頭をあたしの手に擦り付け、時々ぺろぺろと舐めてくれる。
その姿に心が溶ける。
離れたくない。
そんな気持ちがふつふつ湧いてきて。
あたしは思いっきり彼女の頭に頬擦りし、身体中を撫でまわした。




