オムライス。
ふわふわたまごでもなく、本当に普通のノーマルなオムライス。
形も日本でありきたりにあったものと全く一緒の流線型。
真ん中にかかっているのはトマトケチャップだ。間違いない。それも、酸っぱさもなくて美味しいケチャップ。
で。
銀色のスプーンで掬うと、中から艶々のケチャップライスが出てきた。
チキンライス、だけど、これ、焼いたんじゃなくって炊いている?
お米がふっくら艶々で、味も染み込んで。炊き立ての感じがとっても美味しい。
思い切って口に運ぶと……。
これもまた、絶品なお味だった。
塩加減もケチャップの加減もあたしの好みにぴったりで、とても美味しくて……。
かかっている玉子も薄くてもしっかり焼けてて、おまけにどこにも焦げたあとがない。
苦味が一切ない美味しい玉子焼き。
上にのせたケチャップと混ぜながら食べると、もう美味しさが倍増だ。
「これ、すごく美味しいです……」
懐かしくて美味しくて、あたしが作った素人オムライスなんかとは比べ物にならないくらい美味しくて。
「うん。美味しいよね。私も久々に食べるけど、こんなふうな味だったんだね。ああもちろんセリーヌのオムライスも美味しかったよ?」
ギディオンさまはそうおっしゃってくれたけど、まあほんと完全に負けてる。
ううん、負けたことなんかどうでもいいの。
これだけ美味しいオムライスが食べれたことが、本当に嬉しくて。
メニューには他のオムライスの名前もあったから、もっといろんなバージョンのもあるのだろう。
その辺も食べてみたいなぁ。
まあでもそうも言ってられないのはわかってる。
こちらにいる間中お食事をここでだけだなんて、ギディオンさまは嫌だと思うし。
でも、帰る前にもう一度だけでも食べにきてみたい。
お腹が膨れて幸せな気分に浸りつつ、あたしはどうやってギディオンさまを口説こうかな、なんて思い浮かべていた。
「失礼。お口に合いましたかな」
「ああ、ジェフ。ありがとうとてもおいしかったよ」
「そう言っていただけると甲斐があると言うものです。勇者様に食べていただいてうちの料理も喜んでいることでしょう」
真っ白なコックさんの服に身を包んだ男性があたし達の席のすぐそばに立って、ギディオンさまに話しかけてきた。
っていうかこのお料理を作ったシェフ?
ギディオンさまとお知り合いなの?
「本当に美味しいからね。こちらに滞在中にもう一度くらいは寄りたいなって思ってるよ」
「それはそれは。とても光栄ですよ、勇者様」
「その勇者様って言うのはやめてよ。君にそう言われるとちょっとくすぐったい」
「はは。じゃぁギディオン、で、いいか?」
「いいよ。ジェフ。その方がしっくりくる」
途端に破顔するジェフさん。
お顔の口髭がとってもダンディーだけれど、もしかしたらまだお若いのかしら?
なんだかギディオンさまと仲が良さそうで。
「そちらのお嬢さん、は?」
「ああ、紹介がまだだったね。私の婚約者、セリーヌだよ」
「はは。おまえそういえばまだ独身だったんだな。俺なんてもう二人も子供がいるって言うのに。お嬢さん、俺はジェフ・タカスギ。先祖代々この店を守ってるこの国一番の料理人さ。君の婚約者様は奥手だけど誠実だからね、末長くよろしくね」
タカスギ?
まるで日本語みたいな発音……。
「どうしたの? セリーヌ。ポカンとしちゃって」
「え、いえ。セリーヌ・リンデンバーグと申します。よろしくお願いしますわ。それより、このオムライスとっても美味しいですね。これはどなたの発案なのですか?」
「はは。オムライスが珍しいのかい? 誰の発案かって言ったらうちのご先祖様かな」
「そう、ですね。とても珍しいので……」
「まぁ確かにこれはこのあたりだけでしか食べられていないみたいだからね。そもそもそれでなくとも米を炊いて食べる習慣があまり帝国内でも普及してこなかったせいもあるかな」
「ああでもセリーヌはこれと同じ料理を私に作ってくれたんだよ」
「それはすごい。君こそ誰に習ったんだい?」
真っ直ぐにこちらを見るジェフさん。
どうしよう。




