バレてるのかな?
せっかくの旅行だというのに、前のように空を飛んでしまっては風情も何もない。
おまけに瞬間移動などということになったら目も当てられない。
「ねえギディオンさま、旅行ってどうやって行くんですか?」
もう直球でそう聞いてみる。うん。なんでも最初が肝心。
ギディオン様がこうしようああしようと決めてから茶々を入れるのは避けたいな。そんな思いもあった。
「そうだね。今回私はちゃんと休みを取って、君と一緒にゆっくり馬車の旅にと考えてたけれど、君はどう? ミスターマロンを何日かおやすみすることになってしまうけれど、大丈夫?」
「ああ、ありがとうございますギディオンさま! アランさんに相談してみます。幸い新しい売り子さんも慣れてきたので、少しくらいあたしがいなくても大丈夫でしょうし」
うん。実はもう、ミスターマロンはしっかり儲かるちゃんとしたお店になっている。
今じゃあたしが働きたいから働いているだけにもなっていて。いなくなってもなんとかなるっていうかいなくなっても何も変わらずお店はやっていけるだろうっていう状態にもなっている。
だから多分、おやすみが欲しいと言えばちゃんとおやすみをくれるだろう。
それで結局あたしなんかもういらない、ってそう思われてしまったら悲しいけれど。
ただ、もし、もしも。
ギディオン様があたしを奥さんにもらってくれたなら。
このままミスターマロンで働くのは厳しいのかな。
寂しいけれど、そんなふうにも思ってはいる。
貴族なんて捨ててしまおうとパトリック様のもとから逃げ出したあたし。
でも。
ギディオン様の奥様になるのだったら、そうも言ってられない。
ちゃんと貴族に戻らなきゃいけないのかな……。
「すみませんアランさん。あたしちょっと旅行に行きたくて、お店を休ませて貰いたいんですけど……」
「ああ……。そうか嬢ちゃん、旅、か。そういやぁ元々旅行中、だったよな……」
午後の賄いをみんなで頂いているそんな時間。
ちょうど昼食の時間が終わりお客さんも少なくなったそんな時間、今日の賄いのメニューはチャーハンだ。白米を炊いてから作るわけだけど、昨日の賄い用にいっぱい炊いた残りだから手間としてはそんなにかかっていない。冷蔵庫の中で硬くなったご飯をいっぱいの玉子を投入した鍋の中でほぐしながら炒める。
お肉だって昨夜の残りを刻んで混ぜ込んでいるからほんと材料費なんてほとんどかかっていない節約賄いだ。
まあ味付けはあたしのポーション魔法で醤油っぽい味にちょっとマヨネーズっぽい味、コンソメ味はもちろん塩胡椒がしっかり効いている。
あたし的にはすっごく好みの味付けに仕上げてある。
美味い美味いといいながらチャーハンをかっこんでいたアランさん、突然のあたしの話に言葉をなくしたかのように、そこまで言って口をつぐんだ。
なんだか表情も暗い。って、もしかしてこれ、勘違いされてる?
「旅行っていっても数日の話ですし、ギディオンさまと一緒に帝国のベルクマールまで行くだけなんです!」
「ん? 隊長さんといっしょに、かい?」
「ええ、ギディオン様にとってルーツみたいな場所なのだそうです。だから、どこかに行ってしまうとかじゃなくてですね、あたし、帰ってきますから」
そこまで早口で言うと、アランさんの表情がすごく明るくなって。
「そっかそっか、隊長さんと一緒に旅行か。よかったなぁセレナちゃん」
「あの隊長さんならセレナを任せられるわね。よかった」
アランさんもマロンさんも二人して、なんだか微笑ましいものでも見るような目でそう喜んでくれた。
もしかして。
あたしが普通の平民じゃないこと、彼らにバレているのかな?
うん。だけど。
もしバレていたのだとしても、そんなあたしをそのまま何にも変わらず働かせてくれたアランさんたちだもの。
本当の事を話したら流石にびっくりくらいはするかもだけど、きっとあたしに対する態度はあまり変えないでいてくれるんじゃないかな? そんな期待もある。けれど。
それでもまだ、話しても変わらないかも、そうは思っても、ちゃんと話す勇気はまだない。
あたしは臆病だ。アランさんやマロンさんの態度が変わってしまったらと思うと最後の最後であと一歩踏み出すことができないでいた。




