表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/85

【side アラン】父さん。

「アランか……、よく来たな」


「親父さん、あんた、からだ悪いのか? 顔色が良くない。大丈夫なのか?」


 訪ねて行ったら通されたのはモーリスの寝室だった。

 弱々しくベッドに横になるモーリス。

 そう、普段は知り合いに話す時でもモーリスじいさんと呼んでいるけれど、二人きりの時には親愛を込めて「親父さん」と呼んでいたオレ。


 ああ、そうだ。

 モーリスはオレにとって親の代わりのようなもの。

 オレがそう思っているだけでなく、親父さんの方だってオレのことを気にかけてくれていた。

 それは本当は充分わかっていたんだ。


 オレだって、本当の事をいうとジャンに嫉妬していた。

 実の孫であるジャンの方がかわいいんだろ? そう、やけにもなっていた。

 だから逃げたんだ。

 ジャンのため、モーリスのため、モックパンのため。

 そう言い訳をして、愛されたかった自分から無理やりに逃げた。

 自分がジャンに嫉妬しているって事実を認めたくはなかった。

 自分がジャンに嫉妬しているって事実が許せなかった。

 オレにはジャンにもモーリスにも愛される資格なんかない。

 本当は愛されたかったのに。

 それを認めたく無かった。嫉妬しているって罪悪感で押しつぶされて、逃げ出したんだ。


「なに、俺も歳には勝てないってこった。もう長くはないかもしれん」


「なに弱気になってんだよ。親父さんがいなきゃロック商会はどうなるんだよ。モックパンだってそうだ。ジャンのことだって……」


「ああ、アラン。ジャンの父親母親は事故で早死にしちまったからなぁ。子供の頃にはあいつにも寂しい思いをさせちまって、その分甘やかしてしまったって後悔してるよ。お前にはあれの親や兄の役目をさせてしまっていたな。すまないことをした」


「いや、オレのことなんていいんだ。オレはあんたには感謝してる。あんたに拾われて幸せだったよ……」


「なあ、アラン。一度だけでいい。子供の頃のように「父さん」って呼んでくれないか。俺はもうそれだけで満足だ。頼む、アラン……」


「バカ言ってんじゃないよ。ほんとに、どうしようもないな……。父さん、あんたにはもっともっと元気でいてもらわなきゃ困るんだ。そうだ、これ。あんたが好きだったミルクティーとミスターマロンの最新作のシナモンリングだよ。絶対、父さん好みの味だから。食べてみてくれないか」


 オレは土産にと持ってきていた紙袋から水筒とドーナツを取り出してベッドの上に置いた。

 親父にオレが作ったパンのドーナツを食べてもらいたくて持ってきていたのだけれど、でも。


「ああ、ありがとう。身体を起こしてくれるか、アラン」


「ああ、無理するなよ。ゆっくり起きてくれ」


 身体を支えて座らせてやる。ちくしょう。こんなに骨と皮ばっかりになってやがる。

 年齢から来るものなのか、病気なのかはわからない。けれど。

 見た目よりもたぶんずっと衰弱しているんだろうということはわかる。


 なら、でも、だったら。


「ああ、うまいな」


 ゆっくりと噛み締めるようにオレのドーナツを食う親父。

 そしてミルクティーを飲み干して。


「ああ、ばあさんの味だ。お前も子供の頃からこの味が好きだったよな」


 そう言って、こちらをみて笑った。


「そうだよ。今でもオレの店の看板メニューだ。美味くてとうぜんだな」


 オレも、そう笑みを返す。



 そうだよ。まだまだ長生きして貰わないと困るんだ。

 ジャンを説得して店を建て直せるのは親父だけなんだから。


 そうだ。これからは毎日オレがドーナツとミルクティーを届けよう。

 この女神の恩寵が宿ったドーナツを食べて、どうか元気になってくれ。

 頼む神様。

 どうか、父さんを長生きさせてくれ。


 お願いだ、セレナ。君の力を貸してくれ。


 そう、祈った。

需要がどれだけあったのかはわかりませんが、アランsideにお付き合いくださいましてありがとうございます。


前にもどこかに書いたのですが、モーリスとアラン、アランとジャンの関係は、アドルフとセリーヌ、セリーヌとパトリックの関係になぞらえていて、誤解と嫉妬、そんなテーマが内にありました。

それでもって、この二人の場合はこんなふうに和解エンドにしかなり得なくて、最初にけっこうヘイトが溜まってしまった分メインストーリーの中ではここまで書ききれなくってすみません。




この後は少し、ギディオンとセリーヌの後日談を続けます。

ギディオン目線が多くなるかもしれませんけどよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作読み切り短編です!
【推し婚】白い結婚の旦那様と、離縁なんかしたくない私。

電子書籍出版しました!
書報です!!
こちらで連載していた四万字程度の中編(番外追加して現在は五万字くらいになってますが)をプロットに、大幅改稿加筆して10万字ほどの本になりました。 電子書籍レーベルの「ミーティアノベルス」様より、10月9日各種サイトからの配信開始となります。 タイトルは 『お飾り』なんてまっぴらごめんです!! です♪ よろしくお願いします。 新作短編投稿しました! お手にとっていただたら幸いです。 よろしくお願いします。 友坂悠
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ