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【side アラン】これは、ダメだ。

 ジャンの更なる嫌がらせに対抗するためにセレナが作り出した新商品。ふわふわリングとクリームドーナツは大人気となった。

 普通のドーナツはジャンに買い占められてしまう。捨てられてしまうとわかっていて手放すのはやるせないが、今はなんとか新商品の方がお客さんにも受け入れられているからと我慢して。

 それと、ジャンの代理で買い占めにくる手下連中はドーナツのことなんかには興味がないのか、プレーンなドーナツでも構わない様子だ。そちらにはあまり手間暇かけず、パン生地のドーナツに力を入れることでなんとか昼間の店も利益が出るようになった。


 これなら店を潰さなくてもすみそうだ。そんなふうに安堵できるようになった頃。

 きな臭い話が聞こえるようになってきたのだった。


 王都にあるジャンの店はかなりの赤字を出しているという。

 そのせいでモックパン本店の経営にもかなりの影響が出始めている、というのだ。


 これはモックパンに勤める昔の同僚から聞いた話だから、ほぼ間違いはなさそうだった。


 うちがパンのドーナツを売り始めたせいでモックパンの客が減ったのか? 最初聞いた時はそう心配をしてしまったが、どうやらそういう話でもない様子で。

 逆に、うちが人気になるにつれモックパンの菓子パンの売れ行きも上がっているというその同僚。

 問題は、ジャンの店への資金の持ち出しが巨額になってしまい、モックパンの利益をくってしまっているという話だったのだ。


 ジャンの店は古くなったドーナツを廃棄するといった考えがないらしい。

 三日も四日も同じ商品がショーケースに並んでいる。

 そんな話も聞いた。

 油で揚げたドーナツはそう簡単には腐らない。それでも古くなった油は味も落ちるし劣化したものを食べれば腹も壊すだろう。見た目はあまり変わらなくても、味や食感はかなり落ちるからそこで判断ができるけれど。


 これは。

 だめだ。


 オレは元々ジャンのために良かれと思って身を引いたつもりだった。

 だけれど、奴はそんなオレの気持ちを理解するどころか、商人としても職人としても最低な状態に転げ落ちて行ってしまった。

 オレはそんなジャンのことを、オレのせいでそうなってしまったのかだなんて思ってやるほどお人好しじゃぁないけれど、それでも少しは心が傷む。


 モーリスのじいさんに会いに行こう。

 ジャンにガツンと言ってもらわなきゃダメだ。

 いくら孫可愛さに目が眩んでいるのだとしても、これじゃぁほんとにジャンはダメになってしまう。


 オレにはそれが許せなかった。

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