【side アラン】出会い。
オレが初めて嬢ちゃんに会ったのは、そろそろ夏も終わるかといった頃だったろうか。
昼頃ふらっと店に現れた彼女は、割とラフな格好をしていたけれど顔立ちも整っていて、一目でオレらと同じ平民じゃなさそうだってわかった。
まあでも店にくるのは誰でも客だ。
帝都では本物の貴族にもオレの菓子の味は通用した。うまいものに身分の違いなんてない。
この街でだってお忍びで貴族がきてもおかしくはない。
そうは思っていたんだがなんだかその子は様子が違った。
「いらっしゃい! 食べてくかね? 持ち帰りかね?」
いつものように声をかける。うちにくる客は食べていくのが半分、持ち帰るのが半分。
でも食べてく客でもみやげに持ち帰るのも多い。
うまいドーナツを食ってまったりしてもらえればなんだっていいんだけどな。
「じゃぁこの葡萄のマフィンとミルクティーを頂こうかしら?」
「はは。見かけによらず上品なんだなお嬢ちゃん。じゃぁ用意するから好きな席に座って待ってておくれ」
言い方がやっぱり少しすましてて、思わず揶揄ってしまう。
平民を装ってるだけのどこかの貴族の関係者か?
そんな雰囲気が拭いきれない。
「はい、お待ち」
「ありがとうございます」
そう言って微笑む彼女。素直にこうしてお礼を言われたことに驚くとともに気恥ずかしくなって思わず笑顔になっていた。
「美味しい!」
ミルクティーを一口飲み満面の笑みでそう言う彼女。
そんな微笑ましいゆったりとした午後の静寂は、奴等によって破られる。
「オヤジ! いるか!」
と、大声をあげ乱暴にハネ扉を押し開けて、数人の男達がドカドカと店に入ってきた。
冒険者くずれのならず者集団、バックラングのメンバー達だ。
ロック商会のモーリス・ロックのじいさんに雇われこうして毎日のように嫌がらせに押し寄せてくる。
あのじいさん、よっぽどオレに店を畳んで自分の元に戻ってきて欲しいらしい。
こんな搦手でくるのは腹立たしいが、そんな手に乗ってたまるかよ。
しかし、こいつらも昔はちゃんとした冒険者だったんだろうが怪我やなんらかで引退し、食い扶持に困って地下に落ちていった連中だ。どうせ碌な実力があるわけじゃねえ。
多勢に無勢とはいえまだまだこんな奴らには負けねえよ!
そういっていつも力ずくで追い払ってきた。
奴らにしても、今まではそこまで手荒な真似はしてこなかった。
今日はちょっとイキった手下も連れてきているようだが……。
「はは! いつみてもしけてんな。客なんか一人しかいねーじゃねーか。いいかげんこんな店は閉めちまって、この場所開け渡してくんねんかなぁ?」
「あんたらが! あんたらがそうやって乗り込んでくるようになったからお客さんも避けるようになっちまったんだろうが! 従業員もみんな怖がって辞めちまうし! どうしてくれんだ!」
「そりゃぁそうだろうよ。そうなるように仕組んでるんだもんなぁ? なあお前たち」
「だからこんな店、さっさと畳んじまえばいいんだよ!」
「そーだそーだ!」
後ろの手下供がそう声を荒げジリジリ近づいてくる。
負けじと睨み返してやったら、後ろの男の一人が手に持っていたチェーンをむちのように地面に叩きつけた。
床が弾け、タイルが跳ね上がる。
クソ! 直すのが面倒なんだぞ床は!
「なんてことを!」
「なあオヤジ、お前の頭もこうなりたいか!?」
そのイキった手下の男、ニタニタふざけた顔をしながらもう一度チェーンを持った手を振り上げた!
ちくしょうあの角度だとショーケースがやられそうだ。
冒険者稼業で培った技で砕け飛ぶガラスを弾き返すことも考えたが、今それをすると下手したら店内にいるお客の嬢ちゃんに被害が及びかねないと判断したオレは、素早く避け受け身を取る態勢に移行した、その時だった。
光が弾けた。
ハッと見ると、その光がオレに抱きついてくる。
「嬢ちゃん!?」
「ごめんなさい、だけど見てらんなくて」
神々しいまでに輝いてはいたが、それはあの嬢ちゃんだった。
天使のように光り輝き、オレの周囲に結界を張って。
オレはそのまま受け身を取って、嬢ちゃんに怪我をさせないように気をつけつつ床に倒れ込む。
肝心の嬢ちゃんはオレに抱きついたまま、気絶してしまったようだったが。




