ニーアお姉様。
寝そべるようにゆったりとお湯に浸かる。
あたしの隣にはお姉様。
たゆたゆと揺れるお湯は気持ちがいいしお姉様とお風呂ご一緒するのはとても嬉しいのだけど、さっきの会話が気になってなんだか落ち着かない。
ついつい隣のお姉様のお顔を覗き込んでしまう。
「あー、いいお湯ねー。生き返るわー」
気持ちよさそうにそうおっしゃるお姉様が、ちらちら見ているあたしに気がついた。
「ん? セリーヌ。どうしたの?」
そうこちらを見て微笑む。
う。このお顔はわかってる? わかってあたしを揶揄ってるのだろうか。
「お姉様、奥様、なのですか?」
「ええ、そうよ。貴女はまだ小さかったしきちんとお会いしたことはなかったかもね」
ん? 小さかった?
「ギディオン様の、奥様、なのです?」
「え? あははは。そっち?」
「そっち、って……」
いきなり笑い出したお姉様に、ちょっと膨れてみせる。
「ふふふ、ごめんねぇ。あまりにも貴女の勘違いが可愛くって、ついつい笑ってしまったわ。ほら、もう拗ねるのはやめて。そんなにほっぺた膨らましてるとかわいいお顔が台無しよ」
そう言ってあたしのほっぺたを指でつつくお姉様。
「もう、やめてくださいお姉様。わたくしそんなに子供じゃありません」
「ほんとごめんねぇ。あまりにもかわいかったものだからつい。わたくしはね、貴女のお母様の姪にあたるの。と言っても貴女よりもお母様の方に歳は近いのよ」
え? ええー?
「貴女のお祖父様、前皇帝陛下の孫にあたるわ。つまりは貴女とわたくしは従姉妹同士ってわけかしら」
従姉妹……。お姉様が従姉妹……。
「で、わたくしの旦那はジョアス。ギディオンはわたくしの息子なの」
え、え、え!!?
「と言っても、ギディオンの生母は別のお方ですけどね。ギディオンを産んでそのままお亡くなりになったキャロライン様。わたくしはその後ジョアス様と結婚した、後妻ですから」
はう。もう複雑すぎて訳がわからなくなってきた。
「まあそう言うことね。わたくしも聖女のお仕事が忙しくてなかなかこちらには来れなかったし、セラ様とは親しくしていましたけど貴女と直接お顔を合わせたことはほとんどなかったから、覚えてらっしゃらないでしょうけど」
そうこちらを見るお姉様。
「ふふ、でもね。貴女がこんなにもかわいらしく育ってくれてわたくしも嬉しいわ。ね? これからも本当の姉妹のように仲良くしましょう?」
「お姉様。こちらこそよろしくお願いします。すごく嬉しいです」
♢ ♢ ♢
お風呂あがってお着替えして。
綺麗にドレスアップしたお姉様はとても綺麗で。
こうしてみると髪の色は違うけれどあたしがお姉様にお母様の面影を感じていたのも納得できる。
それくらい、よく似ていらした。
いつもの聖女の衣装じゃなくて貴族っぽいドレスだから余計にそう見えるのかも。
あたしはベルクマール家の侍女のお仕着せを着せてもらった。
髪も目ももとに戻してあるけど、お父様に会えるまではウイッグをつけていくことに。
茶色のウイッグとメガネ。これであたしだって気が付かれないかも。
リンデンバーグ家までは馬車に乗っていくことに。
前触れなしで押しかける。なんとか中に入れてもらえればこちらの勝ちだ。
流石に王太子妃の名代と帝国筆頭聖女の二人を断ることなんてできないだろう、から。




