権能解放!
「ふむ。予想以上にでかいな。これではやはり手持ちの聖水では焼石に水か」
え? ギディオン様?
「応援を待つしかないか……」
はうううう。
魔溜りからは今でもどんどんと魔獣が溢れ出てきている。
いくら前線で食い止め撃退したとしても、これだけ次から次に湧いてくるのではいつか限界がきそうだ。
やっぱり元を断たなきゃダメ、なんだろうけれど……。
「応援って、来るのです?」
「ああ。帝都に救援要請を出してある。緊急用の魔具で連絡しているはずだから、早ければ一日、遅くとも数日のうちには……」
あああ。
そんなにも……。
ちょっとだけ絶望感に襲われて。
ううん、ダメ。しっかりしなきゃ。
あたし、少しでも助けになりたいってそう決めたはず。
みな、頑張ってるんだもの。そんなみんなに回復魔法と身体強化バフをかけ続けるくらいの気持ちでいなきゃ。
「ギディオン様。あたし……」
そう決意を言いかけたところで、天空から響き渡る声が聞こえた。
「清浄なる碧よ。聖なる金色よ。御身の力をここに。権能解放! キュア・ピュリフィケーション!!」
金色の嵐が舞う。
錦糸のような金色の髪に、真っ白なキトンからはすらっとした手足が覗く。
背中には四枚の白銀の羽根がふうわりと羽ばたいて。
そんな美しい天使が月明かりに照らされて。
幻想的な景色。まるで夢のようなそんな光景が広がっていた。
掛け声と共に漆黒の魔に降り注いだ金色の光は、しかしその魔を全て消し去るまでは至らなかった。
まだ、半分以上残ってる、そんな感じ。
「ニーア。来てくれたのか」
「ええ、ギディオン。帝国聖女庁聖女宮筆頭聖女ニーア・カッサンドラ。要請を受け参上いたしましたわ!!」
聖女様!?
天使のような姿のこの人が……。
「それにしても早すぎないか? どう考えても大急ぎでも丸一日はかかると思ってたんだが」
「そうね。部隊はまだ道中よ。わたくしはあなたの魔力を感じて跳んできたんだもの!」
ああ。空間転移。
SF小説なんかでよくある超能力。空間と空間を繋ぎ文字通りその間を跳んでしまう、そんなワザ。できる人、いたんだ。っていうか、できるんだ。そんな真似。
この、天使のような翼をはやした人が聖女様なのかな。
それも、ギディオン様とずいぶんと親しげだ。
「ねえ、その少女は誰?」
「ああ、この子はセリーヌだよ。セラフィーア様の」
「ん? だって、そんな赤い髪に茶色い瞳で? セラ様の娘なら、きっと白銀の髪を受け継いでいらっしゃると思っていたのに」
「はは。訳あって変装してるんだ。でも、この子は白銀の髪で間違いないよ」
「ふーん」
聖女様、ふわんとあたしたちのそばまで飛んできて、あたしの顔を覗き込んだ。
「素質はありそうね。貴女からは膨大なマナを感じるわ。それに貴女、これが見えるんでしょう?」
聖女様が人差し指を立てるとそこに集まってくる金色の光の粒達。
ふわふわと舞うように指の先で踊っている。
「キュア……」
「そう。ギア・キュア。このこたちはわたくしたち聖女にとっては大事なお友達なのよ。ギア・キュアとの親密度が高ければ高いほど、わたくしたちは高度な聖魔法が使えるの」
聖女様、一段と顔を近づけ、そして離れる。
「貴女ならできそうね。時間がないわ。ねえ、貴女、キュアを呼んでみて」
「え、あ、はい。キュア、お願い!」
あたしはギディオン様の腕の中から抜け出し、自分で風を呼んで空中に浮かぶと、そのまま両手を前で合わせてキュアに願った。
ふわふわとあたしの周りに集まるギア・キュア。
金色のその粒子はあたしにまとわりつくように円形に広がる。
優しい気で周囲が満ちてきた。
「うん。合格。それだけキュアに好かれていれば十分ね。マギアスキルもかなり高そうよ。じゃぁ、貴女、わたくしに力を貸してくれない?」
え?
「聖女、さま?」
「わたくしのことは、そうね、お姉様って呼んでくれればいいわ。お願い、セラ様の娘ならできるはずよ」
そう可愛らしく微笑む彼女。
「わたくしの力ではもう一回さっきの聖魔法を放つのが限界だけれど、それではこの漆黒を消し去ることはできないの。だから貴女の力も必要なのよ」
そう言ってあたしの手を握る彼女。
「わたくしと一緒に唱えてね。『清浄なる碧よ。聖なる金色よ。御身の力をここに。権能解放! キュア・ピュリフィケーション!!』 よ。いいわね。心の奥底からあの漆黒を消し去るよう祈るのよ!」
手を繋いだまま眼下に見える魔溜りを見据える。
「じゃぁいくわよ!」
「はい、お姉様!」
「「清浄なる碧よ。聖なる金色よ。御身の力をここに。権能解放! キュア・ピュリフィケーション!!」」




