漆黒の中に落ちていく。
ドドドドとした衝撃があたしの体をゆすっていった。
丸くなってアウラの結界に閉じこもり、じっと我慢していたおかげか熱線はなんとか防げたみたいだけれど、そのままもっと上空に打ち上げられた、らしい。
と、いうのも、身体を襲った衝撃はやはりかなりのもので、半分意識を失いかけたあたしは自分がどうやらかなりの上空に吹き飛ばされていたことに気がついたのだった。
結界はすでに剥がれて無くなっていた。
衝撃が収まり落下を始めたあたしはその体に当たる風の勢いに負け、どうにかなってしまいそうで。
ジェットコースターで落下している時のようなものすごい荷重をその身に感じて身動きがとれない。
ああ。あたしはこのままあの漆黒の魔獣の塊の中に落ちていってしまうのだろうか。
意識がかろうじて残っているのに、身体との接続が切れてしまったかのようにいうことをきかない。魔法で、風の魔法で、と思ってるのに集中して念じることも、自分の魂のゲートからマナを放出する程度のこともできない。コントロールができない!!?
焦れば焦るほど何もできない自分が情けなくなって。
もうダメ。と、そう諦めかけた時だった。
ドン
衝撃があたしを襲う。
ああ、もう、おしまいなの?
一瞬そう思ったけどどうやら様子が違ってて。
「このバカ! どうして大人しく街に帰っててくれなかったんだ!」
そう怒鳴る声が聞こえる。
あたしの身体がぎゅっと何かに抱きしめられている?
びっくりして、やっと意識と身体が繋がったみたい。あたしはゆっくりと目を開けると、目の前にはギディオン様のお顔。
暗くてよく見えないけど、そのお顔は怒っているような、安堵しているような。でも、あたしのことを心配してくれたのがわかる、そんな表情に見えて。
「ごめんなさい。でも、黙って待ってるだけなんてできなくて……」
あたしをぎゅっと抱きしめる力が強くなる。ギディオン様がなんだか泣き出しそうなお顔になって。
「無事で、よかった……。ほんとうに、よかった……。君まで失ったらと思うと生きた心地がしなかった……」
そう、声を絞り出すように、おっしゃって。
「君の魔法のおかげで騎士団はなんとか踏みとどまれている。それは感謝している。だけど、無茶はダメだ」
背中に竜の翼を生やし、頭にもなんだか竜のツノみたいのが生えているギディオン様。
っていうかここは空中?
空中でキャッチされ、魔獣の塊の奥まで飛んできたのか。
「ごめんなさい。ありがとうございますギディオンさま。あたし……」
「うん。君に黙って待ってろだなんて言ったのがそもそも間違いだったのかもね。ミスターマロンで最初に見たのはアランを庇った君だったもの。後先考えず飛び出してしまうのが君、なんだよね」
「そんな、あたし、そんなに考えなしじゃありません!」
「ふふ。ごめんね。でも、そんな正義感のかたまりみたいな君を私は好ましく思ったんだったよ。忘れてた。それと、君は気がついているかどうかわからないけど、今自分のこと「あたし」って言ってるよ。てっきり町娘を演じるためにそう言ってるのかと思ってたけど、それが君の地なの?」
あああああ。
顔がほてって熱くなる。
そっかあたし、ちゃんと「わたくし」って取り繕うのも忘れてた。
「ごめんなさい……、そうです……」
「はは。いいよ落ち込まなくて。ほんと君の感情の色はコロコロ変わって見てて飽きないね。そういうところもかわいいよ」
ギディオン様、そんなふうにあたしを揶揄っていたお顔が急に真剣なものに変わる。
「どうやらここが時空の亀裂。魔素が溢れる魔溜りか。魔獣を産み出している根源だ」
眼下に広がる漆黒の水面。
いつのまにか頭の上にあった月の明かりが、その漆黒の湖を照らし出して。
あれが、魔溜り? ものすごく深く魔素が溜まっているのを感じる。
あんなもの、どうやってなんとかするっていうの!?




