星闇の森。
「で、至急の話というのは?」
「はい。隊長。星闇の森に大量の魔獣が湧いた形跡があるとの報告が上がりました」
「ふむ。仕掛けに反応があったとそういうわけか」
「ええ。今斥候に調べさせていますが、どうやらまたスタンピードが起きそうです」
「よし。では斥候が戻り次第行動開始だ。各自、出撃準備を」
「了解しました。全員に通達します!」
星闇の森は定期的に魔獣が湧く。
しかしそれでも一度に大量に、というのはそこまでの頻度ではなかった。
世界の亀裂、魔素が溢れる魔溜りが魔獣を産む根源ではあるが、通常であれば湧く魔獣も数体、魔溜りの浄化にも聖水で事足りた。
しかしここ数年、その頻度が上がっている。
数十年に一度であった魔獣の大量発生も、この数年のうちにもう既に二回起きている。
今回が三度目だ。
前回の討伐にはかなり苦戦を強いられた。
そのため国には国営の聖女庁の創設と聖女の育成を進言していたが、それもまだ。
錬金術師協会より大量の聖水を買い求め備蓄はしてあるが、それでも心許ない状態だった。
「帝国聖女庁に救援依頼を出しますか?」
「そうだな。魔溜りの浄化には聖女の魔法ほど効果のあるものはない。大至急救援要請を」
とは言っても帝都からここまでには最速で来てくれたとしても丸一日はかかるだろう。
それまではなんとしても持ち堪えなければ。
そう決意する。
ここで自分たちが負けるような事があったら、ガウディの街も、王都ガレリアも、ただじゃすまない。
そして。
魔溜りが浄化できなければ魔獣の大量発生も止められないのだ。
(せっかくセリーヌと会う事ができたんだ。今度こそ、あの子を守りたい。いや、守らなきゃいけないんだ!)
ギディオンの初恋はまだ幼い頃。相手はもうリンデンバーグ公爵夫人となっていたセラフィーアだった。
ませた子供だった自覚はある。
それでも。
その血に惹かれたのか、ひと目で恋に落ち。
彼女が亡くなった後は悲しみに暮れ、帝都の貴族院に進学を決めた。
「ねえギディオン。わたくしの子、かわいいこの子を守ってあげて。お願いよ」
それがセラフィーアの最後の言葉。
傍で抱かれ、寝入ってしまっているセリーヌを守ってと言い残すセラフィーアに、首を縦に振ったもののどうすれば彼女を守る事ができるかもわからずに。
ギディオンは帝都でおのれを鍛え、強くなることを望んだのだった。
しかし。
貴族院を卒業して帰国してみると、セリーヌはすでにほかの男のものになっていた。
放心状態のまま騎士団に入り、せめてこの国を守っていこうと戦ってきたのだったけれど。
やっと、あの人との約束を叶える事ができる。
だから。
負けるわけにはいかない。そう決意をあらたにした。




