全くの別物。
お店はガラス張りの、なんていうか全体がショーウインドウのような雰囲気で。
窓という窓にかわいらしく飾られた宝石のようなお菓子がいっぱい。
まあこれは蝋細工かな。
キラキラと煌めくようなケーキ菓子やドーナツにマフィン。
甘く甘く、砂糖が粒になって輝いて見えるそんな。
食べれないものだって頭の中ではちゃんとわかっても、それでも美味しそうに見えてしまう、一つの絵として完成されたデコレーションだった。
その奥に見えるイートインスペースまでもが幻想的なお菓子の国に見えてしまう?
なんだか今からあそこで食べるんだと思うとすこし恥ずかしい。
だって、このデコの向こうに見えるんだよ?
ショーウインドウの一部、夢の国の住人みたくみられちゃうかもしれないんだよ?
うう。
自意識過剰かもしれないけど、ほんとダメ。
どうしよう。
「さあ、行こうか」
優しくエスコートしてくれるギディオン様。だけど、なんとなく足が止まってしまったあたし。
「今なら人通りも少ないし、目立たないからね。君の髪をまじまじみられたら噂にもなりかねないし。さっと見て食べて帰ろう?」
ああ、そうだった。
髪の毛を染め直す時間は無かった。
流石に魔法で毛染め薬が出せるだなんていえなくて、とりあえず帽子で隠してる状態だったっけ。
カララン
扉を開け中に入るとドアベルが鳴って店員さんがこちらに気がついた。
「いらっしゃいませ」
「こちらでお召し上がりでしょうか?」
キラキラのショーケースの向こうから、そう声をかけられる。
「はい。食べていきます」
ギディオン様がそうショーケースを覗き込みながら答える。
「ご注文をお伺いします」
メイド服にカチューシャをつけた店員さんが、トレイとトングを持ってギディオン様の動向を注視する。
「じゃぁ、このシュガーとハニーのドーナツと、私は珈琲、君は紅茶でいい?」
「ええ、わたくしはミルクティーでお願いしますわ」
「ではそれで。あとお土産にハニーとシュガー、そしてナッツを二個づつ包んでください」
「かしこまりました」
お会計も済んで席で待っているとやってきたトレイとお土産の袋。
「お待たせいたしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」
そう礼をして戻る店員さん。
所作も綺麗。
どこかの貴族のお屋敷で働いていた人なのだろうか。そんな感じ。
全体的に、お店にもお金がかかってそうだ。
ちゃんとメニューもかかっていたけど、お値段的にはジャンが言ってた通りMr.マロンの二倍くらい。
でも。
あの店員さんのお給料だってお高そうだし、それにこのお茶もかなりの高級茶葉だ。ミルクも良いものを使ってる。
ぜったい元なんか取れなさそうなんだけど?
「ふむ。やっぱり違うね」
「ええ、ギディオンさま」
見た目は全く同じ。
Mr.マロンとおんなじシュガードーナツとハニーグレーズ。
でも。
味は全くの別物だった。
「まずい、とまでは言わないけど、配合が違うのかな? このグレーズは」
「ドーナツの生地も、ずいぶん違いますわ。素材は高級なものを使っていらっしゃるのでしょうけど、味はわたくしはミスターマロンのものの方が好みです」
グレーズも、粉糖も、あきらかに味が違う。
それに。
このグレーズにも粉糖にもあたしの魔力を感じない。
あたしのポーション魔法で増量したグレーズとは明らかに違うのだ。
でも、じゃぁ。やっぱり。
「ジャンは最初っからアランのドーナツを売るつもりは無かったんだろうね。取り上げて、出回らないようにするだけのためにあんなもっともらしい嘘をついたのか。そもそも借金だって架空のものだ。代金と相殺って言えばもっともらしいけれど、ジャンはこれっぽっちも損はしないのだからね」
「バカにしてるわ!」
「うん。本当にそう思う。帰ろうセレナ。私は君の魔力の籠ったハニーグレーズが食べたいよ」
怒りに大声をあげそうになったあたしを宥めるように、優しくそうおっしゃってくれたギディオンさま。
っていうかそれもバレてる?
うーん。どこまでバレてるのかどうかはもうしょうがない。あとでギディオン様を問い詰めるとして……。
うん。
あたし、帰りたい。大急ぎで帰る。
でもってロック商会に一矢報いたい。
もう、ほんと、ゆるせない。
アランさんが丹精こめて作ったドーナツを取り上げ、きっと全部捨ててしまっているんだろうジャンのことが絶対にゆるせないから。




