中国の海洋進出の蓋をしているのが台湾や日本だという地政学的条件は、中国が暴走しかねない現実が迫っている状況で、日本にとって一体どれほどのリスクを孕んでいるのだろう?
ある日、本屋で奇妙な書籍を見つけた。中国を扱った内容だったのだけど、とにかく中国をべた褒めしているのだ。不動産バブルはもう克服しただとか、財政赤字も何の問題もないだとか。
著者を確認してみたのだけど、どっかの外国の人で、日本人でも中国人でもなさそうだった。
僕はそれを読んで、なんとも言えない不吉な心持ちになった。
“――これって、中国経済は相当に危ないのじゃないか?”
そう思ったからだ。
中国の不動産バブルの規模は凄まじく、とてもじゃないけどこんなに短期間で克服できるはずがないし、財政赤字だって悪化し続けているはずだ。問題がないはずがない。
つまり、その本の内容は噓っぱちだと僕は思った訳だ。そして、そんな嘘をつかなくてはいけないという事は、中国の経済は相当に深刻な問題を抱えているのじゃないか?とも同時に考えたのだった。
そしてだからこそ不安になっていた。
国の内部に大きな問題がある場合、外に目を向けさけて国民の批判を避けようとするのは、常套手段。
ならば、中国がいきなり他の国を攻める事すらも起こり得るのじゃないか?
もちろん、正常な判断力があるのなら、そんな馬鹿な真似はしないだろう。各国が国際的な協力関係で強く結ばれている今日は、かつてのような関係が希薄な時代と状況が大きく異なっている。ロシアの事例からも分かるように、暴挙に出れば、自らの国が深刻なダメージを負ってしまう。
――でも、中国が正常な判断力を失ってしまっていたとしたら?
16世紀のポルトガル。17世紀のオランダ。18、19世紀のイギリス。そして、20世紀のアメリカ。
これら覇権国と呼ばれる国家は、いずれも海を支配していた。つまり、近代においては、覇権国家になりたかったのなら、まずは海を制覇しなくてはならないのだ。
そして、2022年7月現在、中国は覇権国家を目指していると言われている。その為、当然ながら、海の支配力の強化を画策している。
が、中国のその海洋進出を邪魔する国の存在がある。それが台湾や日本などといった東アジア、東南アジアの国々だ。中国は「軍事力を用いてでも台湾を手に入れる」と明言までしているが、その言葉の背景には台湾との歴史的な因縁があるばかりでなく、台湾が地政学的に重要な拠点だからでもあるのだ。
「アメリカが台湾を守るとは限らない」などと、時折発言する人がいるが、それはアメリカが中国が覇権国家になる事を認めるようなものだ。まず、有り得ない。
アメリカは、絶対に台湾の地政学的な重要性を理解しているはずだからだ。
そして、重要なのはここからだ。
仮に中国が台湾へ侵攻したとした場合、日本は恐らくは無事では済まない。
台湾は物資の輸送においても日本にとって重要な位置にある。もし、中国と台湾で戦争が起きれば、絶対に化石エネルギー等の輸入量は減ってしまう。そして強調して述べるまでもなく、化石エネルギーの輸入が止まれば社会の運営に支障をきたしてしまう。
再生可能エネルギーの安全保障上の重要性を理解していない人がいる。
もし仮に、再生可能エネルギーの普及によってエネルギー自給率を高める事ができたなら、この脅威は大きく減退するのだ。
原子力発電を電源に期待する声もあるが、原子力発電所は安全保障上のリスクが極めて高い。例えば、関西の水源は琵琶湖だが、その琵琶湖の直ぐ近くには原子力発電所がある。放射性廃棄物が琵琶湖に漏れただけで関西圏は一気にピンチに陥ってしまう。
ロシアがウクライナ侵攻で原子力発電所を狙ったのは記憶に新しいが、実は日本の原子力発電所の近くの土地を中国は買っている。つまり、容易に攻撃できる状態にあるのだ。
また、ウラン資源の重要な輸入先の一つはロシアで、ロシアは日本を敵視している。社会の生命線であるエネルギーを、日本を敵視している国に握らせようとするのはいくらなんでも平和ボケが過ぎるとしか思えない。
安全保障と言うと、軍事力にばかり注目する人が多いが、エネルギー供給に対するリスク管理の方がより重要だ。エネルギー供給が断たれたなら、日本は戦わずして負けてしまうのだから。
もちろん、これは確実に起こる事ではない。“リスク”というのは、本来は“不確実性”という意味だ。つまりは予防だ。
が……
中国で一部の人の預金が引き出せない事件が起こりデモも発生している。詳しくは知らないが、銀行が無断で使い込んでしまい、返す事ができなくなってしまったのだそうだ。
また、「いつまで経っても建設が終わらない」と、不動産のローンの支払いを拒否する人々が出始めてもいるらしい。こちらは不動産会社が、彼らの支払った金を使い込んでしまい、建設の為の資金が不足している事が原因だという。
そして、この二つには、いずれも中国のトップ。中国共産党が絡んでいるのだとか。
問題の根はまだまだ深そうだ。
果たして、本当に中国が暴走しないと言い切れるのだろうか?
少なくとも僕の目には、日々、中国という国のリスクは大きくなっているように思える。