6.オタクは強し
「君は転生者だよね? 湊川 暁さん」
「あなたは一体何者?」
「最初に名乗ったよね? ボクの名前はフレディ。将来の選ばれし四人のうちの一人。そんでもって前世は君と間違われて殺された」
彼からの信じられない真実を打ち明けられてしまった私は、驚きのあまり開いた口が塞がらず呆然と立ち尽くす。
もし本当だとしたらお兄ちゃんがタスクだった時以来の衝撃的な事実なんだろう。
そもそも前世の私に間違われて殺されたって、あれは無差別通り魔じゃなかったの?
殺されるべくして殺されたとすれば、まさかあのドジ女神の差し金とか?
でもそんなことドジ女神は言っていなかったけれどどうして?
考えれば考えるほど疑問は次々と浮かび上がり、キャパオーバーを起こしそうだ。
フレディ
緑色の短髪で女性のような外見のハーフエルフ。
カリーナの執事みたいなポディションでテコンドーの有段者。
面倒見が良く生真面目で、他人にも自分にも厳しい好青年。
歳はゲーム中で三十歳だから、今だと二十歳。ハーフエルフだからなのか若く見える。
フレディルートになるとカリーナとはライバル関係になりいろいろあるんだけれど、最後には分かって貰えて祝福されるんだよね?
フレディを落とした時はこういうのも意外にありだなと思ったけれど、全クリして見ればやっぱり私はフレディの相手は断然カリーナ派だった。
もちろん転生者と言う突拍子のない設定はない。あったらもう少し好感度がアップしていたはず。
そんなフレディと出会ったのは、二時間ぐらい前だった。
別荘に着いた私達をマイケルの父親から島の管理を任せられている夫婦は暖かく迎えてくれた。彼の言う通りその時息子として紹介され、滞在中のお世話係として一緒に行動することに。
それでテラスで楽しいランチをした後、お兄ちゃんとマイケルは課題。カリーナは宿題をすることになり、何もない私は彼に預けられたしばらく遊んでもらって今に至る。
私はなにか選択を間違っただろうか?
「そんなに警戒しなくても大丈夫。ボクと君はこれから秘密を共有する仲間なんだからね?」
「私を恨んでないの? だってあなたは」
「でもそのおかげでボクはフレディになれた。大好きなカリーナの傍にずーといられるからね」
明らかに私のせいで殺されたんだから絶対恨んでいそうなのに、フレディは本当に嬉しそうにラブラブな台詞を言いい私の頭をポンポンする。
オリジナルと違って随分親しみやすい。
私が二次元キャラのタスクを愛していたように、この人は二次元キャラのカリーナを愛していた。
だからフレディになることを望んで、ドジ女神に叶えてもらった。
私は努力すれば思い通りに出来る素晴らしい人生を確約されている。
でも……。
「その手があったか」
「え、ひょっとして君も“夢幻なる願い3”のファンだった?」
「うん。タスクを愛してます」
「それは残酷すぎる現実だね?」
三年の月日を越え分かった自分の失態に落ち込んでいれば、真相を知ったフレディから笑みが消え同情をされてしまう。
オタクでないと分からないこと。
初めて私の気持ちを理解してくれる人に、警戒心はさっと消え好感度が上がる。
フレディとなら異性の親友になれるかも知れない。
「やっぱりそう思うよね? だけどどうしてあなたは私と間違えたんだろう?」
「湊川 暁と暁 美奈。名前が似てたからと言ってたよ。あの女神はおっちょこちょいだよね?」
「笑ってそう言えるあなたを尊敬するよ。え、暁 奈美? ひょっとして女性?」
「うん。ボクの前世は女子大生。女性が女の子キャラを好きになるなんておかしい?」
すっかりフレディに心を許し素朴な疑問を呟けば、まさかまさかの女性だったことにびっくりする。
しかしそれはただびっくりしただけで、女性が女の子キャラを好きになるのはあり得る話。
特にカリーナは萌えキャラだったから私ももし男だったら、主人公より落としたいと思っていた。
それに会話からして百合と言う訳でもなさそうで、心は男性男性と言うこともなさそう。
多分だけど。
「そんなことないよ。だけど男に転生することに抵抗はなかったの?」
「まぁ確かに男性にはあれが邪魔でいろいろと大変だけれど、それなりに楽しくやってるよ。前世のボクは男っぽくて同性にもモテてたしね? でも彼はちゃんと男だった」
前半の台詞は聞かなかったことにしよう。
思わず危ない妄想しかけてしまった。
「そうなんだ。無事にカリーナを落とせると良いね」
気づかれないよう気を取り直し、フレディの恋を全面的に応援する。
私のせいで前世は不幸な結末にさせてしまったんだから、私にはフレディの幸せを応援し助ける義務がある。
オリジナルとはかなり性格が違うけれど、カリーナの愛はそれ以上なのだから問題ないだろう。
「ありがとう。ボクもアカツキとタスクのこと応援するよ。例え禁断の恋だとしても、二人の愛が本物ならそれでいいと思う」
「そう言ってくれると嬉しいな。だけど私はもう大好きなお兄ちゃんの幸せを守るって決めたんだ。……サクラを絶対に死なせない」
かすかに頬を赤く染め嬉しいことを言ってくれるフレディに、私は強く首を横に降り三年前誓った決意を初めて口にする。
前世が同じ世界でこの世界をよく知っている人だから、少なくてもバカにはされないだろう。
サクラ
組織に殺されてしまったタスクの元カノ。
彼女は組織の工作員でタスクを仲間にする命令に従い近づいたけれど、タスクと過ごしているうち愛してしまい組織に逆らおうとした。でもそれを組織に気づかれ、裏切り者として殺されてしまった。
彼女を助けたりしたら、その後のゲーム本編はどうなるか分からない。
でもお兄ちゃんの幸せを守るためには、サクラの死を何が何でも回避してみせる。
「アカツキ、君はなんて良い子なんだ」
「え、ちょっと?」
私の決意にフレディは心打たれたのか、いきなり私を抱き頬をスリスリしてくる。
今の私は自分でも惚れ惚れするぐらいの可愛い幼女。そんな健気なことを言えば、女の子好きならたまらずネジが数本飛ぶのは当たり前。