3.呪われた運命
-アカ、あとぼー
-ヤダ。そんな気分じゃない。あっち行って
-あとばないで良いから、アカの傍にいる
昼間のショックからすぐには立ち直れるはずもなく、夜になっても部屋の片隅でいじけていた。
無邪気な東雲の誘いも気分が乗らず冷たくあしらう私なのに、東雲は涙を堪えながらも私に寄り添い離れようとはしない。
そんな優しい東雲に少しだけ心が癒され、立ち直れたら東雲が満足行くまで遊ぼうと思う。
「ただいま」
パパが帰って来た。
大好きなパパの声を聞こえた途端、沈んだ気持ちが浮上。嬉しくて甘えようと思い出迎えに行くけれど、それは久しぶりに会うタスクも同じようで私達は鉢合ってしまう。
私を見るなり、満面の笑顔が一気に暗くなり怯えるタスク。
愛する人を私は今傷つけている。
しかもタスクには何一つ落ち度がない。
待ちに待った妹にやっと会えたのに、なぜか妹は自分を毛嫌いしている。
たった十二歳の少年には、残酷でしかない出来事。
愛する人を悲しませるなんて最悪なぐらいわかっている。そんな姿を私だって見ているのが辛い。
ここは潔く諦め末期のブラコンになるか、禁断の恋をするのか、二者一択。
答えをだすには、しばらくは掛かりそう。
「タスク、どうかしたか?」
「……僕、アカツキに嫌われたみたい。出逢うなりすぐに泣き出して、僕の傍に来てくれないんだ」
「嘘だろう? 今までアカツキは人見知りなんてしたことないんだぞ? 」
「あう」
当然不信に思ったパパは私を抱っこしタスクに事情を問うと、ますます悲しそうな表情と声で答える。パパは信じられないと言わんばかりの驚きを見せた。
すると困った表情のママが出てきて、ため息をつく。
「それが本当なのよ。アカツキちゃん、よっぽどショックだったみたい。それからずーと元気ないのよね?」
「僕はアカツキのこと大好きなのに、……酷いよ」
タスクの今にも泣き出しそうな力ない言葉が、胸にグサッと突き刺さる。
確かに私は酷いおんじゃなかった赤ちゃんだ。
このままではタスクに嫌われてしまう。
愛しい人に嫌われるなんて人生最悪……。
でもでも……。
「あ、そうだ。明日は二人でピクニックに行きなさい」
「それナイスアイデアね。二人で出掛ければ、きっと仲良し兄妹になれるはずよ」
『あ(え)?』
何を思ったのかパパがとんでもない事を言い出し、しかもママまでそれに賛同されてしまった。
二人の笑顔がなんだか怖い。
それはタスクも同じで、不安いっぱいに声をあげる。
パパ、ママ、正気ですか?
十二歳と生後約半年の子供二人だけで遊びに行かせていいんですか?
「アカツキちゃん、初めてオレはマイケル。お兄ちゃんのルームメイトだよ」
「あう!!」
「……アカツキ、どうしてマイケルにはそんな嬉しそうなんだよ」
思わぬ人物登場に私のテンションは爆上がり声をあげる。タスクにしてみれば、更なる追い打ちを掛けられシュンとなった。
しかしマイケルは元本命で、今もタスクの次に好きなんだから仕方がない。
マイケル
タスクの親友で未来の選ばれし四人の一人。
サラサラのブロンドヘアーに緑の瞳で、爽やかな笑顔は間違えなく王子様の相性が相応しい。
性格も爽やかで面倒見も良く天然たらしの、夢幻なる願い3ではダントツトップの人気を誇る。
タスクより二つ上だから今は十四歳のはず。
タスクのようにまだ少年で初々しさはあるけれど、それでもすでにイケメンは成立しつつある。
両親の無謀の提案を実行するのにはタスク一人では心細いと思ったらしく、割合近くに住むルームメイトのマイケルに付き添いを頼んだんだね。
この頃はまだ親友にはなっていないはず。
「タスク、落ち込まない。兄らしくしてれば、なんとかなるよ」
「そうなのかな? 大好きな兄になってくれるかな?」
もう大好きです。
異性として愛してます。
だから接し方がわかりません。
声にはならなくても強く返答をするけれど、タスクにしたら私は単なる妹でしかない。
分かっていてもショックである。
もちろん妹のためなら、なんだってしてくるとは思う。
でもね。やっぱりその内出来る彼女の方が大切になってしまう。
「だからなんでそんな悲しそうな顔をするんだよ?」
「うっ………」
いい加減このやり取りが嫌になるけれど、考えたらどうしても泣けてしまう。
第三者であるマイケルはクスクスと笑い、タスクから取り上げ抱っこしてくれる。
「アカツキちゃん、オレの妹になるかい?」
ニコニコしながら冗談であろう問いを問う。
意味が分からずキョトンと首をかしげる。
もし本当にマイケルが兄でその親友がタスクならば、なんの障害もない。
歳が離れているかも知れないけれど飛び級しまくり、親友の妹の立場を最大限に使えばなんとかなるはず。
だけどそれは叶わぬ夢……。
「だったらカリーナちゃんとトレードしてよ!」
「は? 」
冗談を本気にしたらしく飛んでもない条件を言い出すタスク。マイケルには予想外だったらしく、なんとも言えない声を発した。
タスクは真面目な表情でもあり、涙を頑張って堪えている。
もしかして私やらかしてしまった?
「カリーナちゃんはアカツキと違って僕に懐いてくれてるし、素直で可愛いんだもん」
「それ本気なのか? アカツキちゃんに逢うのずーと楽しみにしてたよな?」
「そうだよ。でもアカツキは僕だけを意味もなく嫌ってて、何かあるとすぐ悲しそうな表情を浮かべるんだ。そんな妹欲しくなかった。……僕だってアカツキのことなんか大嫌いだ」
「!!」
私の予感は的中で昨日からの耐えに耐えまくった不満をぶちまけ、ものすごいスピードで空高く飛んでいってしまった。
僕だってアカツキのことなんか大嫌いだ。
何よりも聞きたくない言葉が何度もリピートされ、私の頭は真っ白になる。
しかしこれは身から出た錆。