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2.悲劇的な出会い

「アカツキちゃん、ママとお散歩?」

「あー」


 ベビーカーにいる私を近所のおばさんがのぞき込む。おばさんはたちまち微笑み問うから、私も最大級の笑顔を浮かべ返答する。

 赤ちゃんだったらこれで百点満点。


「お兄ちゃんを迎えに行くのよね?」

「あら、そうなの。良かったわねアカツキちゃん。タスクくんは秀才で三年飛び級してるのよ?」


 ママが代わりに答えてくれると、おばさんはすでに知っている詳報を教えてくれる。

 それはとっても誇らしいことだった。


 私の兄は秀才でイケメン。

 性格も良いらしく、運動神経も抜群。

 そんな非の打ち所がなさそうな兄のおかげで、私がちょっと秀才になってもそれほどは注目されないだろう。

 普通の人だったらぐれる原因大なことでも、私にとっては大万歳。

 確かに女神にはみんなに崇められていい気分になるとか言ったりもしたけれど、よくよく考えたらそんなに注目の的にはなりたくないんだよね?

 秀才の兄に花を持たして、私はそんな兄を引き出させる霞。

 能ある鷹は爪を隠すような人物になりたい。

 ……それって策士というか、腹ぐろになるか。

 案外どSキャラになるのも悪くない?


「きっとアカツキちゃんもタスクくんみたいな秀才になりそうね? 今度タスクくんと遊びに来てね? バイバイ」

「あーあ」


 根拠のない過剰な期待をされてしまい、私の視界から消え足音も徐々に遠ざかっていく。


 大人の皆さん知ってますか?

 子供に過剰な期待を掛け続けると、プレッシャーに負けてやさぐれてしまいますよ。


「アカツキちゃんは気にしなくて良いのよ。お兄ちゃんのように頭がよくなくても、心優しい素直な女の子に育ってくれればママは嬉しいわ」

「あー」


 ママは優しく言ってくれた。


 この人はちゃんと子供心が分かっているようで良かったと思う同時に、少しぐらいは期待して欲しいという矛盾した気持ちを抱いてしまう。

 でもこれで少なくてもどSキャラになるのは辞めて、素直な良い子になろうと思った。



「ママ、ただいま」


 とにかく元気の良い男の子の声が聞こえた。

 台詞からしてお兄ちゃんであることは間違えないけれど、まだ駅に着いてないはずだから早すぎるような?


「お帰りなさい。早かったわね?」

「だって早くアカツキに会いたかったから、一本早い電車で帰ってきたんだ」

「あらあら。アカツキちゃんはみんなの人気者ね? はい、この子があなたの妹のアカツキよ」

「☆○◇★」


 ママに抱かれいよいよ感動の対面と言う感動のシーン。

 なのに私はお兄ちゃんの顔を見た瞬間、かつてない程の巨大な雷の衝撃を受け一気に血の気がサーッと引く。

 赤ちゃんらしくない表情にママとお兄ちゃんだけでなく、周囲にいた人達も驚きまじまじ私を見つめだす。

 この状況を何とかしなければならないのに、そんなこと私が知っちゃことではない。

 巨大過ぎるショックに倒れそう。


 だってお兄ちゃんは、黒髪短髪で赤い瞳。

 まだあどけなさが残り今はまだ可愛いけれど、私はこの顔を知っている。

 

 前世の私が本気で愛した二次元キャラであるタスクの幼い頃の姿だったから。


「わ~ん」


 産声よりもさらに大声で泣いたのは言うまでもない。





 夢幻なる願い



 世界に災いが起こる時、異世界の少女が召喚され四人の守護者が選ばれる。そして五カ所の寺院を巡り災いを払う。

 そこでさまざまな経験を重ねていくうちに少女はやがて恋に落ちて……と言う良くありがちな設定の乙女ゲーム。

 ただ乙女ゲームには珍しい本格RPGでもあり、単純にゲームとしても評価が高い。

 約五年周期で新作が発表され、前世の私が死ぬ数ヶ月前に5が発売されている。


 私は3が発売される少し前に存在を知った。全作好きだけれど、やっぱり3は別格。

 タスクがいるから、そう思えるのかも知れない。


 タスク

 選ばれし四人ではなく、主人公を狙う闇の組織を追っている賞金稼屋。

 影のある冷たい男性だけれど、それは二年前に彼女が組織に殺されたから。攻略していくと面倒見が良い優しい人だって事が分かる。

 彼女が殺される前までは魔法学園の教師で、優秀な人材だった。


 そんな彼と私が出逢ったのは、まだ短大生だった頃。

 事前の情報の段階では、親友の方に気になっていたんだよね?

 それで親友を攻略してやっぱり好きだなと思っていたはずなのに、彼を攻略していてある恋愛イベントで一気に持っていれた。


 彼とは犬猿の仲でその日も激しい口論となり喧嘩別れするけれど、主人公は巷で流行っていた誘拐犯に誘拐されてしまう。

 絶体絶命の主人公を救ったのは、今まで見せたことがない必死の声を出している彼だった。

 そして主人公を抱き締め、


 すまない。迷惑を掛けたって構わないから、オレの傍で能天気に笑ってろ


 初めての甘い台詞とスチルを見た瞬間、私は本気の恋に落ちた。


 それからもう十年の月日が経とうとしているのに、私の恋の炎は消えることはなく今でも世界で一番の愛する人。

 なんで彼が二次元キャラなんだろと本気で悩んで円形脱毛症になってしまい、何も知らない両親からは仕事のストレスだと勘違いされて心配されていたぐらい。



 もし来世と言うものがあるとしたら絶対に彼と同じ世界の住人になると決めていたのに、なんであの女神はこんな酷い運命を与えたのだろうか?

 よりにもよって彼の妹なんてありえない。


 努力すればすべてが報われる幸せな人生が送れるはずじゃなかったっけぇ?

 それともあれか?

 この世界は兄妹でも結婚が可能とか?

 そんな設定なかっ……そもそも彼に妹がいなかった。


 おっちょこちょい女神、いい加減にしろ。

 私はあんたのおもちゃじゃない。

 今度もし会えたら、ぶっ飛ばしてやる。


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