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20.マイケルがシスコンだったら?

「お兄様、ごめんなさい。私お兄様が大好きです」

「カリーナ、どこに隠れてたんだ?」


 フレディがお兄ちゃん達に気付かれないよう私達を元のサイズに戻してくれる。

 カリーナは一目散に、マイケルの背後から飛び付き可愛らしい告白。

 突然の出来事にマイケルは驚き、少し嬉し恥ずかしそうな表情を浮かばた。お兄ちゃんはキョロキョロと辺りを見回し私を見つけると、表情がパッと明るくなりムギュッと抱きあげる。

 いつもより強めなのは、私に嫌われると言う恐怖。


「アカツキ、ごめんなさい。淋しかったんだね?」

「うん。でも私もごめんなさい」

「良いんだよ。今からお兄ちゃんのたくさん遊ぼうね」


 私も悪かったからそこはちゃんと謝り、喧嘩はしてなくても仲直りのようなものをする。

 しかしたくさん遊ぼうねと言うけれど、課題はもういい……。マイケルの鋭い視線がお兄ちゃんを睨み付ける。

 やっぱり許されないらしい。

 これにはお兄ちゃんも笑顔がさっと消え、変な汗を流し固まる。


「カリーナ。オレ達明日で課題を終わらせるから、いい子にしてろよ」

「はい。では私も残りの宿題を急いで終わらせます」


 今度は拗ねることがなく素直に納得するカリーナは、自分のやるべき事をちゃんと分かっている様子。

 嬉しそうにピョンピョン跳び跳ねている姿は目の保養。

 この分だと私に残された自由時間は、明日の夕方ぐらいまでになる。

 それまでサクラ達を救出出来るだろうか?


「いい子だ。という訳でタスク、缶詰になって明日までに終わらせるぞ」

「え、僕はこれからアカツキと遊ぶんだけど」

「駄目。食事と寝かしつけるのは許可するが、それ以外は明後日まで我慢しろ」

「イヤだ~。アカツキ助けて」


 本気で嫌がるお兄ちゃんだけど、最低限のことだけ許され後はすべて却下。

 それでも必死に抵抗し私に助けを求めるお兄ちゃんを、マイケルは首根っこをつかみ引きずって別邸へと連行される。


 さすがにここまで来ると、愛する人とは言え少々情けない。

 イヤかなりかも知れない。

 でも嫌いになれないのは本当に愛してるからなんだろうな。


「羨ましいです。お兄様も少しはタスクさんのように激甘になって欲しいです」

「え、そう?」

「はい。では私は着替えてくるので、終わったら夕食の支度をしましょう」


 二人がいなくなると本気で羨ましがるカリーナに思わず素で反応してしまうけれど、幸い突っ込まれることなくそう言って二階の自室へと戻っていく。

 兄と違って鈍くて助かった。


 それにしてもマイケルがお兄ちゃんのように激甘ね。


─オレの可憐で可愛い最愛のお姫様。ケーキを食べさせてあげるから、俺の膝に座りなさい。

―今夜は何を読んで欲しい?

―カリーナはオレのすべてだ。カリーナの彼氏になりたかったら、オレを倒してみろ。


「アカツキ、何想像してるんだよ。ヨダレが出てる」

「うっ、妹に激甘なマイケルを想像してたらつい」


 つい妄想が暴走する私を現実に引き戻してくれるフレディ。腕でヨダレを拭きながら、内容を軽く話す。


「確かにそれは美味しいかも」

「でしょ? でもそんなことなったらフレディは殺されるかもね?」

「そそうだよね?」


 激甘なマイケルはフレディにとっても美味しい妄想でも、それは悲劇の幕開けでもあるんだと思う。






「今夜のメニューはハンバーグです。愛情込めて作りましょう」

『は~い!!』


 フレディのお料理教室が始まり、生徒役の私達は手をあげ元気いっぱいに返事をする。

 良く考えなくても七歳と三歳に夕飯作りを任せられるはずもなく、フレディが主に作り私達が手伝う形になった。メニューは簡単であろうハンバーグ。

 窓から差し込む日差しはまだガッツリ昼間の太陽だったりするけれど、出来上がる頃にはいい時間になるだろう。


「ではまず野菜を洗ってから、お嬢様は私と一緒にニンジンと椎茸をみじん切りに、アカツキは玉ねぎをおろし器でおろしましょう」

「それって私にボロ泣きしろってこと?」

「玉ねぎですから仕方がありません。タスクさんが怖いので、包丁は絶対に禁止です」


 与えられた役目が少々不満で意地悪い問いを投げ掛ければ、当たり前すぎる答えが返ってしまい何も言えなくなる。

 ニンジンをおろし器でと言うのもありではあるが、包丁で玉ねぎをみじん切りにする方が危ない。


 玉ねぎに苦戦するカリーナは萌えること間違えなしだったのに、今日のとこはポニーテールでメイド服の劇萌え姿で我慢しよう。

 本当に可愛い。


「カリーナお姉ちゃん、どうしたの? 顔が真っ青だよ」


 疚しさ大爆発の視線でカリーナを見ると、顔が真っ青になり表情が死んでいる尋常ではない姿があった。


「フレディ、どうして、ハンバーグに椎茸を入れるのですか?」

「お嬢様、好き嫌いないけません。そんなことばかり言っていたら大きくなれませんよ」

「椎茸を食べなくても大きくなれます」


 病気なのかと心配したのは束の間で、椎茸が相当嫌いらしく頑固して拒否続ける。

 確かにカリーナの言うとおり椎茸なんか食べなくても支障はないとけれど、この場合嫌いを要因するのは教育上よろしくない。


「それを言ってしまったら、お菓子もそうじゃありませんか? むしろ太る原因? 女の敵?」

「あそれ言えてる。一度食べると止まらない蟻地獄」

「うん、うん。体重計に乗ったら恐ろしいことになってるんだよね?」

「二人とも一体何を話しているのでしょうか?」

『え?』


 なぜか駄目な大人の女性あるあるネタが取り上げられ盛り上がっていく矢先、不満ありまくりのカリーナの声で会話にブレーキが掛かる。

 再びご機嫌斜めのカリーナが、口をへの字にさせて睨んでます。

 喜怒哀楽が豊かで更に萌えだと思う私は完全な馬鹿なんだろうか?


「私にも分かるように説明して下さい」

「……お菓子を食べたかったら、椎茸も食べて下さいと言うことです」

「!! アカツキちゃんは嫌いな食べ物はないのですか?」


 迫力ある言葉で簡単な回答を迫られるもフレディの機転で話の筋は元に戻った。逆に窮地に立たさされたカリーナは、またもや私に話題をふる。

 きっと私の嫌いなものを聞いたら、反撃に出るつもりだろうけれど、


「ない。みんな好き」


 残念ながら私には転生前の幼い頃から嫌いな食べ物はないので、首を大きく横に振りちょっと得意気になって答えてみる。


「……う~んとみじん切りにして下さい」

「かしこまりました。ですがもし椎茸をそのまま食べたらマイケル様が誉めてくれますよ」

「アカツキちゃん、食材を愛情込めて洗いましょ」


 三歳児には負けたくないと言う気持ちはあるらしいけれど、まんまで食べる勇気はまだないらしい。

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