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6.ネコに教えられることもあります

流行病で妻が亡くなった。どれだけ優秀な医師を、高価な薬を用いても効果はなく、呆気なくこの世を去ってしまった。


『ごめんなさい、ルシアン様。』


そう最後に言葉を残して。


それからのことはよく覚えてない。けど母や父が色々仕切ってくれたのは覚えている。その間、何もする気も起きなくて、ひたすら部屋に篭って、彼女のことばり思い返していた。


『ルシアン様、このねお花が蕾をつけたの。』

『今日はルシアン様のために刺繍をしたのよ。受け取ってくれるかしら。』

『ルシアン様のように素敵に健やかに育ってくれるといいんですけど。』


2週間ほどそんな毎日を送ってふと気づく。そう言えば、あの子達は今、どうしているのか。


ようやく自分から部屋を出て、あの子達を探した。あの子達は庭で、楽しそうにお喋りをしていた。


(なんだ、俺なんかいなくてもあの子達は大丈夫なんだ。強いな、俺なんかより。)


それからは仕事に復帰した。今まで俺の代わりに仕事を引き受けてくれた父には感謝でいっぱいだ。


『ルシアン様、休憩にお茶しませんか?』


仕事をしていても、彼女に似ているあの子達をみても思い出してしまう。もう彼女に会うことはできないんだって。休憩がてらお茶に誘ってくれる彼女の声を聞くことも…




「た、大変です!旦那様!!」


「ん。どうかしたか。バートン。騒がしいな。」


「フィル様が、フィルロード様が2階から転落してしまって…」


「なに!」


バートンに案内された庭に、血だらけの息子が倒れていた。


「フィル、フィル!バートン、医師はまだか!」


「今、お呼びしておりますがまだ。」


「死ぬな、フィル。いや、だ。頼む、死なないでくれ。フェリーナ、頼む、この子はまだ連れて、いかな、いで。」


俺はバカだ。フェリーナの件で分かっていたはずなのに。いつ死ぬかなんて誰にも分からない。だからこそ後悔のない日々を送らなければいけないということを。なのに、この1年俺は子供達を放置するばかりで、なにも…


「フィル、ごめん、な。頼りない父親で、ごめん。前していた約束もまだ果たしてなかったな。ちゃんと、今度はちゃんと守るから、だから…」


今更ながら思い出したことがある。彼女が流行病にかかる前の話。フィルが剣術の練習を頼んできたことがあった。その時は、早急に片付けないといけないことが山ほどあって、また今度なといって話を終わらせてしまったのだ。妻が死んでからは、そんな約束したことさえ忘れていたのに、何故今になって思い出すのか。


「父さんが、父さんが苦しんでいたのは知ってたよ?母さんに似ている僕達を見ることが辛いっていうのは知ってたよ?だから、父さんの悲しみが癒えるまで我慢しようって、フィナと決めたんだ。きっと時間が解決してくれるって。でもそれじゃダメだったんだよね。僕達がしないといけないことは我慢じゃなくて、きっと…」


「フィ、ル?」


倒れていた息子が目を開けて喋っている。意識を取り戻したようだ。まだ間に合うかもしれない!


「喋るな!後で後でちゃんと聞くから。今は。」


「ごめんね。こうでもしないと父さんとまともに喋れないかと思って。本当は転落なんてしてないし、これも血じゃないんだ。」


「言っている意味が、よく。」


「申し訳ございません。旦那様。全ては私が考えたイタズラでございます。フィル様は今は真っ赤に汚れていますが、怪我などは1つもございません。」


フィルとフィナがよく懐いている使用人、クロはそう言った。


「イタズラって、君は自分が何したか。」


「どんな処罰でも後ほどお受け致します。でもこれで旦那様にもご理解いただけだと思います。旦那様は、自分が消えてもいいとお考えではありませんか?」


「そん、なこと。」


否定できない部分があった。だってもし今自分が死んだら、彼女に会えるのにって。暇な時間は彼女を思い出してしまうから嫌いだ。だったら仕事で追われていた方が楽だった。そんな俺の考えをクロは見透かしていた。


「フィル様が死ぬかもしれない。その時旦那様は死なないで、そう言いました。旦那様、フィル様やフィナ様も、旦那様にそう願っていることを忘れないで下さい。旦那様が思っているのと同じように、フィル様やフィナ様が奥様を思っていることを忘れないで上げてください。旦那様が奥様の傍に居たいと思うようにに、フィル様、フィナ様が旦那様の傍に居たいと思っていることを理解してあげてください。

親が身近にいなくても、子供は勝手に育ちます。自立心だって磨かれます。

だからといって、自分は傍にいなくていいなんて思わないであげてください。声に出さなくても、大抵の子供は心の中で親を望んでいるのですから。」


フェリーナが居なくなって悲しい。寂しい。でもそうだよな。子供達は母親を亡くしてるんだ。悲しいに決まってる。寂しいに決まってる。


こんな子供に言われるまで気づかないなんて。


「ごめんな、フィル。今までほったらかしにしておいてごめん。こんなダメで頼りないやつだけど、これからは変わるから、だからまだ父親にならせてくれないか?」


「僕の、僕達の父親は父さんしかいません。」


「………あり、がとう。」


その日の夕食、いつもは俺とフィルとフィナ3人でとるのだが、今日は1人増えることになった。


「その、パパも一緒に混ざって、いいかな?」


そう問いかけられたフィナは、凄く嬉しそうに「うん!」とうなづいていた。





「クロ、ありがとうね。クロのおかげで、父さんとも久々に話せたよ。」


「別に。庭で転んでいたフィルに嫌がらせで、ウサギの血をかけただけだ。礼を言われる筋合いはねぇ。」


「ふふ、素直じゃないね。」


「いや、フィルに言われたくねーよ!」


別ベクトルでフィルは素直ではない。そう断言出来る!でもそう言ってもこいつは納得しねーんだろうな。


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