5.こちらのネコは気遣いもできるのです
今から2時間前のことだ。3週間ぶりに旦那様がお帰りになられたらしい。フィルが勝手に決めたことといえ、ダイヤース家にお世話になるのなら旦那様の許可が必要で、面談も踏まえて挨拶をしに行くと執事長のバートンさんに言われた。
「クロ。」
「はい。悪いな、ちょっと抜けるわ。」
「えぇークロ、いなくなっちゃうの?」
「すぐ戻りますから、フィルと一緒に待っててくれますか?」
「フィナ、まってる!」
「フィナ様は優秀ですね。フィル、そういうことで。」
「…なんと言われようが僕は手放すつもりはないからね?」
「はは、俺にいうなよ。」
※※※
「旦那様、クロを連れて参りました。」
「あぁ。」
「失礼します。」とバートンさんの次に入室する。執務室らしく、椅子に座った金髪の男がいた。そう言えば以前俺はこの人を見たことがある気がする。だいぶ前のことで忘れていたけど。
「君がクロか。話はきいているよ。フィルとフィナがとても懐いているそうだね。」
「いえ、そんなこと。私こそフィル様とフィナ様にはお世話になっていまして。」
「君が来てからあの子達が喜んでいることは知ってる。引き続きあの子達のこと頼むよ。」
「え、は、い。」
印象は良くないと思っていた。勝手に子供が連れ帰った汚い子供だから。でもまさか、頼むまで言われるとは。
(子が子なら親も親だな。)
こんな怪しい奴を簡単に許すなんて、大公家のプライドというものはないのか。
「旦那様、無礼を承知で尋ねたいことがあります。」
「クロ!」
「いいよ、何かな。」
「フィル様とフィナ様にはお会いにならないのですか?」
「…この1年、俺が関わらなくても2人はなんとかやってきた。今は君がいる。もう俺の出番はないさ。」
「フィル様もフィナ様も口には出さないけれど、旦那様が傍にいないことを寂しく思っておられます。私なんかでは到底代わりには…」
「もう、どう接したらいいか分からないんだ。」
フィナの姿はなかったけど、1度家族3人笑いあっているダイヤース家を見た事がある。その光景をみて暖かいなと思っていた。
それなのに、今は…
「もういいだろう。下がってくれ。少し休みたい。」
旦那様の目の下にはクマが出来ている。顔も少しやつれていて、風邪にでも罹ったら簡単におっ死んでしまいそうな気がする。
「申し訳、ありませんでした。」
俺には他人の家族なんて関係ない。それに俺が動いたって、変わらないかもしれない。前だって変えられなかった。もし今回動いて、また変えられなかったら
、フィル達を更に傷つけてしまうかもれない。
「………そうだとしても、やる価値はあるかもしれない。」
決めたのなら後は実行するのみ。
丸く収めるためには、どの方法が1番効果的だろうかとクロは頭を悩ませる。