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4.飼い主様はご機嫌です

俺は今、何故か静かに机に座っている。


「で、あるからして。クロ様、聞いていますか?」


「あ、はい。すいません。」


そして何故かフィルの隣で怒られている。


「では今日の授業は終わります。予習・復習はきちんとしておいて下さいね。クロ様。」


「は、はい。」


「今日は終わりだね。フィナの所行こうか。」


「いやいやいやちょっと待て!なんで俺がフィルと一緒に勉強してんだよ!」


「なんでって、やっぱり一緒の方がやる気がでるでしょ?」


そう突然、本当にいきなりだったのだ。いつも勉強が始まると、俺とフィナは2人で遊び始めるのだ。が、今日は「クロはこっち。」と連れて行かれた。フィナの方を見ると、メイドの傍らニコニコ顔で手を降っている。どうやらフィナも了承の上らしい。一体どこに連れていく気か、その答えはすぐ分かり、着くなり抵抗する間もなく授業は始まってしまったのだ。


「ペットに勉強させる飼い主なんか聞いた事ねーよ!」


「ダイヤース家のペットなら勉強くらいできないと。」


「お前、マジかよ。」


「それにしても文字は読めるんだね。驚いた。」


「あぁ…まぁな。」


「これなら授業も楽だね。」


「いや、俺は勉強なんかしたくねーの!これならフィナ様と遊んでたほうがマシだ!」


ここで全力拒否して断っておかねーと、これから

毎日勉強の日々だ。椅子に座って机に齧り付くなんて…はは、なんだか懐かしいなぁ。


「まぁ、クロがなんと言おうとフィナの許可が出た限り僕が引き下がるなんてことはないから。一緒に頑張ろうね。」


「…俺、優秀だからお前なんかすぐ追い越しちまうぜ?」


「それは楽しみだね。」


「覚えてろよ。」


※※※


あの雪の日、僕はクロを見つけた。たまたま出かけていた帰り際だった。いきなり乗っていた馬車が急ブレーキで止まったのだ。


「す、すいません。フィル様。」


「いいけど、どうかしたの?」


「いえ、道の真ん中で人が死んでいまして。すぐ出発しますので少々。」


「大丈夫だから、きちんと弔って上げて。」


この国だって、スラム街っていうのは存在するし、家もなく彷徨い歩く人は存在する。それでこの寒さ。凍死してもおかしくない。


(帰りが遅くなるとフィナが心配するけど、まぁ仕方ないか。)


1年前に母が亡くなってから、元気が無くなった妹はいつも僕の後ろをついて回るようになった。それ自体は可愛いくていいんだけど、僕が勉強している時1人閉じこもる妹は心配でならない。

なんとかしなくちゃと思ってはいるんだけど…


「ペットがいたら、フィナも元気になるかな。」


「まだ生きてんじゃねーか。大丈夫か、坊主。」


外から聞こえる声。どうやら倒れているのは子供でまだ息はあるらしい。


「ちょ、フィル様。戻ってください。」


僕は馬車を出て、雪の上に降り立つ。中にいるより少し寒いけど、雪のザクザクする感覚は好きだ。


「ねぇ、君。死んでるの?」


中腰になって倒れてる少年を見下ろす。最初反応はなかったけどツンツンしてたら、顔を上げてこちらをみる。黒い髪に黒い瞳、猫みたいな目をしていて、僕を睨む目は正しく猫そっくりだ。


「き…いな、ろだ。」


「ん?」


その少年は最初なにか言っていたけど、あまりに小さい声でよく聞こえなかった。


「たい、ようみたい。」


でも次の言葉はハッキリ聞こえた。その言葉を最後に、少年は瞳を閉じ何も言わなくなった。


「おーい。おーい。」


死んだのか、気を失っただけなのか。


「まだ生きてますね。ただ出血もしており、早く処置しないと。」


「そう、なら連れて帰ろうか。」


「本気ですか?フィル様。」


「さ、早く帰ろう。折角連れて帰ったのに死んでしまったら意味がないからね。」



『太陽みたい。』

そんな口説き文句もらったら、連れて帰るしかないでしょ。


その時は僕も予想してなかった。最初はフィナが少しでも元気になればいいかなくらいにしか考えてなかったけど、フィナだけでなく僕も救われるなんてさ。



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