2.名付けられたネコ
久しぶりの食事に、サンドイッチはキツかったが残すのは気がひけた。どうしようかと迷っていたら、「無理しなくていいんだよ?食べれない分はメイドが持って帰るから。」とそいつは言った。
「だって捨てるなんて勿体ないでしょ?だから綺麗に残ってる奴は使用人たちが持ち帰れるようにしてあるんだ。」
金持ちの奴は、恵まれすぎた奴は衣食住に困らない。だからこそ色々な物を粗末に扱っている。そう思っていた。いや大半がそうだろう。でもどうやらこいつは違うみたいだ。俺のこともそうだ。明らかに金持ちで、俺よりいい身分のくせに1度足りとも俺に怒鳴ることや見下したような発言は…多分なかった気がする。気になる分はあったけど。
「お前、貴族だろ?それに上位貴族とみたんだが。」
「そう言えば僕の挨拶してなかったよね。僕はフィル。フィルロード=ダイヤース。よろしくね。」
「ダイヤースって。なるほど次期公爵というのはお前のことか。」
この国は王家と4つの大公爵家が中心となり、国が成り立っている。大公爵家のその1つがダイヤース家なのだ。
「はは、そんなお偉いさんとは思わなかったな。で、俺をどうするつもりだ?」
「フィナー。このネコさん帰るとこがないって言うんだ。だから家で飼おうかとおもったんだけど、どうかな?」
「ネコさんとずっといっしょ?」
「フィナが望むなら。ほらネコさん好きでしょ?」
「わーい!フィナ、ネコさんといっしょがいい!」
「そうかそうか。それなら良かった。という訳だ。」
「は、え?マジで言ってる?」
「マジマジ~どうせ帰るとこないんでしょ?ならここに居た方がよくない?衣食住には困ることないよ?勿論帰る所があるなら、仕方ないから家まで送るよ?」
帰る所…
俺にはもう帰る所なんてなかった。だから、なんて言っていいか分からなかった。
俯く俺をみて、察したそいつはにこやかな顔で言った。
「じゃあ決まりだね。クロ。」
まぁ、食物の大事さを知ってる奴に悪い奴はいねぇはずだ。行く所もないし、しばらく世話に…
「ってクロってなんだよ!」
「え、名前だけど。黒髪だし瞳も黒いし、ピッタリじゃない?それとも呼んで欲しい名前があるの?」
「…いやいいよ。クロで。」
「でもなんかカッコつかないよね。クロだけじゃ。そうだ、クロロードにしよう!クロロード=ダイヤース。変かな、フィナ。」
「クロ、かわいいー!」
「よし、決まりだね。」
「ちょっと待て!ダイヤースって。大丈夫なのかよ!」
「ペットも家族の一員でしょ?」
本物の猫や犬ならともかく俺は実質人間なんだが。まぁ、まぁいいか。こいつらが勝手に言ってるだけで大公様が納得するわけねーしな。
と自分を納得させていた。
「じゃ、昼食も終わったことだし僕達は戻ろう。フィナ。」
「ええー。クロとあそびたい。」
「クロはね、怪我してるだろ?だから少し休まないといけないんだ。怪我が治ったらいっぱい遊ぼう?」
「…うん、わかった。クロ、はやくげんきになってね?」
「ありがとう、ございます。フィナ様。元気になったらいっぱい遊んでくださいね。」
「うん!」
ちなみに俺が壊したあの花瓶。後日、値段を聞いたのだがアレで500万Gするらしい。青ざめく俺に対して
「大した物じゃないし、それにペットに請求なんてしないから安心して。」とニコニコしながら言われたが、やっぱり貴族と平民では価値観が相当違うらしい。
大公家というのは、大公爵家の意味であり、公爵家より位は高いです。