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11.パーティー①

「ん、美味しいね。これ。」


俺の手はフィルにつかまれ、つまんでいたローストビーフもフィルの口の中に消えていく。


「な、何を!」


「スイム、これは僕のだよ。この先クラスメートになるんだろうから仲良くするのは構わないけど、餌付けされるのは困るなぁ。クロも、ダイヤース家のペットなんだから、僕達以外の者に過剰に懐いちゃダメだよ。分かったね?」


「承知致しました。フィル様。」


「さてそろそろ催し物が始まるんじゃないの、スイム。準備しなくていいのかい?」


「あ、ぁ。そうだね。ではまた。」


スイムとその取り巻き。周りの野次馬もそそくさと消えていった。フィルが現れた時のスイムの驚いた顔は傑作で、少しは気も晴れた。


「フィル様、もしかしてずっと様子を伺ってましたね。」


「何かやってくれるだろうなぁとは思ってたからね。でも本当に突っかかるとはね。予想を裏切らないよ、スイムは。」


「何故そのような…」


「だって、みんなにこの先クラスメートになるであろうクロのこと紹介しておきたかったし、それに牽制にもなるかなって。」


フィルが、俺との未来を考えていてくれることは嬉しい。だけど、ずっとフィルの傍には居られない。いつまで居られるかと問われれば、何も言えないけれど、それでもいつかダイヤース家を出ていく日が来る。


「フィル、俺は…」


「ん?」


「皆様、本日は私の誕生パーティーに参加いただきありがとうございます。私の友人も祝福してくださいまして、今日はそのお祝いに演奏を披露してくれるとのことです。まずお1人目。リナ=カルメン様でございます。」



壇上に上がった白色のドレスを着た女の子はフルートを聞かせてくれた。早いテンポだが、しっかり音をだして、息遣いも完璧だ。俺でさえ聞き入ってしまったのだ。他の人は更に感動しているだろう。


「リナ様、素晴らしい演奏ありがとうございました。では次お2人目。フィルロード=ダイヤース様。」


「じゃ、行ってくるね。」


隣りにいたフィルは、壇上に立ち、スポットライトを浴びている。皆の視線がフィルに集まる中、フィルは堂々とした様子でヴァイオリンを弾き始める。

フィルはピアノもできるが、ヴァイオリンもできる。しかもその腕は、大人が聞き惚れるほど。


スポットライトの光を浴びて、フィルの金色の髪もキラキラ輝いているように見える。


「やっぱすげーな。」


調子乗るから絶対言わねーけど、あいつはなんでもできる。それに人を惹き付けるカリスマ性というものを兼ね備えている。誰もが認めたくなるのだ。フィルロード=ダイヤースという人間を。


(俺も、お前みたいだったら何かかわってたのかもな。)





『全部、全部お前のせいだ!』


もう6年も経つのに、あの日あの人に言われたことはいつまでも俺の記憶から消えてくれない。忘れたいのに、忘れるどころか最近頭をよぎる回数が増えた。

きっと、フィルが眩しいから。明るくて眩しすぎるから、自分のダメな部分が、黒い部分が余計ハッキリ見えてしまうのだ。


「クロ?大丈夫?」


壇上で演奏をしていたフィルがいつの間に隣りにいた。どうやら俺が考え事をしている間に、演奏は終わってしまったらしい。


「申し訳ございません。フィル様の演奏が素晴らしいすぎるせいで、余韻に浸ってしまいました。」


「はは、それは嬉しいなぁ。」


「では最後にクロロード様、お願い致します。」


スイムが俺の名前を告げると同時に、照らされるスポットライト。皆の視線はこちらに向かってくる。


「んー、スイムはどうしても君に恥をかかせたいらしいね。クロ、この前フィナに聞かせていたあれ弾いてあげて。」


「お、い、あれって、あの童謡のことか!流石にそれはヤバいんじゃないのかよ。」


「適当に弾いてすぐ戻ってくればいいよ。」


「お前、本当適当だな。」


ちなみに俺がフィナに聞かせていたというのは、ネコ轢いちゃったという童謡だ。でもあの時フィルは居なかった気がするんだが、どうして知ってるのだか。


「どうなっても知らねーぞ。」


半ばヤケクソに壇上に上がる。


「皆さんが彼を知らないのは無理もありません。彼はフィルロード=ダイヤース君に拾われたペットということで、本日パーティーに参加されました。クロロード君とは初対面でしたが、流石フィルロード君のペットと言わざるを得ず、少し話しただけで彼は私の心を掴んでいきました。さぁ、フィルロード君のペットは、どんな素晴らしい曲を聞かせてくれるのか、楽しみです。」


(こいつ、本当にクズ野郎だな。)



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