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第二十四話 進行

 眩しい朝日の照らす山の上。ブレイド達の小屋の中に日の光が差し込む。ラルフは目が覚めると、引っ付き虫と化したミーシャとそれに倣って引っ付くウィーを退かして日の元に出ていく。二人に挟まれろくに寝返りも打てない状況で、体がガチガチに固まってしまっていた。危うく床擦れを起こすところだと危険を感じ、どうにかしなければいけない事を考える。


「おぅ?ラルフ早いノぅ」


「おー、おはよベルフィア……あぁぁ……」


 朝の挨拶と共に欠伸が出る。体を伸ばして、ボキボキ骨を鳴らす。


「お前は本当に寝ないなぁ。やっぱさ、たまには俺が夜番するぜ」


「そんなこと言うて、ミーシャ様ノ抱き枕役がきついノじゃろう?全く……困っタやつじゃ。役得と思って享受すればヨいノじゃ」


 バレてる。


「マジな話……休まなくて大丈夫なのか?」


(わらわ)は体ノ操作が出来ルからノぅ。まぁ……まず、あり得んことじゃが、絶対寝なければならん時は半身ノみ眠りにつけル。そちと違ってノぅ。もしもノ時でも(わらわ)なら問題ない」


 何て奴だ。ミーシャだって寝ないとダメなのに、ベルフィアには三大欲求の内、性欲と睡眠欲がこれっぽっちもない。ベルフィアに三大欲求を設定するなら食欲、戦闘欲、あと何でもかんでもミーシャなのでミーシャ欲だろうか?などと、自分でも何考えているか分からなくなって来た頃ブレイドが柵の外からひょっこり顔を出した。


「ん?俺より早起きの奴がいる」


 ブレイドは日課の木こり作業をして、木の束を担いで持ってきていた。頭二個分以上飛び出した木の束に内心驚きつつ、朝の挨拶をする。


「おはようブレイド!朝から精が出るなぁ!」


「ん?ああ、ラルフさんおはよう」


 柵の内側に入ると、重い荷物をドサリと置く。この急勾配を登るのには一人では無理と思える量を担ぎ上げ持ってきた事に感心する。


「……毎日こんな量を持ってきているのか?」


「いや、毎日ではないかな、流石に……。ちょっとばかし体慣らしをしとこうと思って」


 そう言うと体を伸ばしたりストレッチを始める。汗をかいている様子もなく、疲れてる様子もない。


(やっぱヒューマンとは違う……か)


 本人は気にしているから口が裂けても言えないが、ハーフという言うのは身体能力が底上げされているのだろう。ベルフィアはブレイドの置いた薪に近寄り、グイッと片手で持ち上げた。


「お?ふふっ凄いノぅブレイドは。そノ体躯で持ってきタとは思えん。見かけにヨらず強いノぅ」


「あんたもな、ベルフィアさん。吸血鬼だって聞いてます。絶滅したと聞いてましたから、まさか会えるとは思いませんでした」


 ベルフィアは強いものに興味を持つ。ブレイドを認め、構うのも当たり前だ。


「ラルフじゃこれノ半分も持てんぞ。ノぅラルフ」


「うるせー」


 ラルフは倉庫に戻っていく。ブレイドたちの小屋はブレイドたち専用の寝床なので、倉庫に寝袋を出して間借りしたのだ。


「なんじゃラルフ?せっかく起きタノにまタ寝ルんかい?」


 ラルフは振り返って答える。


「寝ないよ。二人を起こす」


「じゃあ俺もアルルを起こします。皆で朝食にしましょう」



 朝食を食べ終えたラルフ一行は、ブレイドの小屋を後にし、急ぎ廃坑を目指していた。


「ブレイドって料理上手よね」


 ミーシャは既に胃袋を掴まれていた。確かにブレイドの飯は美味い。


「アルルが作らないから、俺がやるしかなくて……」


「……てことは私のおかげか!んっふふぅ~♪」


 ブレイドはガクッと肩を落とす。


「俺もそう思うぜ。そのレシピを伝授してくれ~」


「……からかってます?」


 ラルフの冗談交じりの物言いにブレイドも困った様な半笑いだ。


「ウィー!」


 ウィーが()けそうになり、それをラルフが支える。


「ほらほら、危ないから俺と手をつなごう」


 歩幅の違うウィーは皆より足を速く動かさないといけないので人一倍忙しそうだ。


「ズルいラルフ!私もつなぐ!」


 ミーシャは子供の様に手をせがむ。「分かった分かった」と言って手をつなぐとミーシャは嬉しそうにニコニコ笑った。いつもの光景だが、ブレイド達には新鮮だった。


「親子みたいだな……」


「いいな~、私達も手つなごうよ」


 といって腕を組むアルル。


「アルル、これは違うだろ……」


「いいじゃん」


 アルルは鼻歌交じりに寄り添って歩く。ベルフィアはその二人を見てやじる。


「色気付きおって、まだ早いんじゃないかい?」


「そんな事ないもーん」


 ブレイド達と合流して、より一層賑やかになったラルフ一行は、イチャコラしながらも着実に歩を進める。山をかなり下った頃、縄を巻いた木を見つける。


「なんだありゃ……」


「こいつは俺が巻いたんです。注意してください。ここから、一気に魔獣が強くなります」


 ブレイドの声に真剣さが戻ってくる。アルルが寄り添っているので見た目は何とも言えないわけだが……。ベルフィアはフンッと鼻を鳴らす。


「何を言っとル。昨日は魔豚ノ為にここまで降りてきタじゃろうが。なんちゅうこっちゃない」


 即座にラルフが反発する。


「そりゃお前は「別に……」って感じだろうが、俺とウィーには死活問題だ。この警告は素直に感謝だぜ」


 「ああん」という顔をしてラルフを睨む。全く……美人が台無しだ。


「魔豚って、あの!?」


 ミーシャは舌を出してぺろりと口周りを嘗め上げる今日のお昼ご飯をもう考えているような顔だ。


「すいません。獲ってる暇ないです。あいつらある程度の傷を負うと一目散に逃げるので倒すのも大変なんですよ」


「そう……」


 見る間にしゅんとするミーシャ。


(わらわ)にお任せください。ミーシャ様ノ為に魔豚を狩って御覧に入れましョう」


 ベルフィアはミーシャに頭を垂れるが、「いい!今日は我慢する!」と意固地になってしまった。一度自分の意見が通らないとこうなる傾向にある。ミーシャは体は成熟していても心はまだまだ子供だ。”子供”と口にしたらそれこそ拗ねるので冗談でも言わないようにしている。


「その代わりと言っては何ですが、長期保存用に調理した豚のハムがありますので、そいつをお昼に食べましょう」


 それを聞いたミーシャの反応は著しかった。ムッとした顔から花が咲いたようにパァッと明るくなった。


「良かったなミーシャ」


「うん!」


 本当にあの魔王はどこに行ったのか、完全に鳴りを潜めてしまった。しばらく歩くとウィーが周りをキョロキョロ見始めた。それに気づいたラルフは辺りを見回しウィーに訊ねる。


「どうしたんだ?」


 チラッとラルフを見た後、草むらに指をさす。魔獣がこちらを見ている姿が見えた。


「あんな所にいたのか……ウィーは森で生活してたから、魔獣をいち早く察知したらしい」


「ほんとだ。殺気がないと気付かないものね」


 ある程度の距離を空けて窺っているので、このパーティーに近付くことも怖くて出来ないのだろう。襲ってくる魔族達より野生の魔獣の方が力量差を理解していると言う事に他ならない。


「ほぉ、やルもノじゃな。索敵能力は(わらわ)達ヨり上と言う事か、有用性がでタノぅ」


 ブレイドはその魔獣を遠目で確認すると、


「あれはアイアンベアですね。豚より少し弱いですが、その爪は岩を割くと言います。来ないとは思いますが、注意してください」


「あー、言われてみればアイアンベアっぽいな、この距離でわかるのか、凄いな……」


 ブレイドは歩を止めず説明する。


「少し前ですが、何度か狩りました。そのままじゃ肉が固くて食えないですが、鍋にしてホロホロになるまで煮込むと出汁も出て、結構美味いです」


 ラルフは驚く。「食えたのか?あいつら……」

 ミーシャも目を輝かせる。さっきまでその辺にいる程度の雑草的生物が輝く食料に見えた。


「自給自足は、取り敢えず食べられるものは食べてみようってなりますからね~。ブレイドったらなんでも獲ってくるし……」


 その度に毒のある生物か、寄生虫はいないかなどをアルルが魔法で徹底調査し、食べる方法を模索するという。


「寒い時期は奴等の巣を探して寝ているとこを襲うと楽に狩れるので、季節限定ですが重宝します」


「そんな狩り方をするのは、この辺じゃ君らくらいだろうな。寒いとこは知らないが、野盗でも魔熊は避けるぞ…強いし、でかい割にブレイドから知るまでは可食部も少ないと思ってたしな……」


「ハッ!冒険が足りんノぅ。人類ノ歴史はまだまだ浅いと言う事じゃな。精進せいラルフ」


 ベルフィアはラルフの曖昧な常識を人類史という大きな一括りにした後、ラルフを叱責する。叩ける所が見えたら容赦なく拾うのがベルフィアのいやらしさである。「へいへーい」とテキトーに返すラルフ。いつもの光景である。

 そんなルーザーズから200mくらい離れて見ているジュリアは、ウィーに強い警戒心を抱いた。


(ナンダアノ ゴブリン……コレ以上近付イタラ奴ノ索敵ニ引ッカカル……遮蔽物ノ多イ森デ、息ヲ殺シテモ意味ガナイトハ……経験ニナイワネ)


 アイアンベアが偶然通ったおかげで、バレずに済んだが、ウィーの索敵にいち早く引っかかったのはジュリアだった。ウィーは森の中で弱い自分を守る為、感覚器官が他のゴブリンより優れている。森の中でも100m先くらいなら何がいるか分かる。監視対象にされてるならその二倍。殺気を感じればさらにその二倍の範囲の敵を察知できる。遮蔽物がなければ、1km以上の知覚を可能にする。

 やったことはないし本人に自覚がないのが難点ではあるが、そうしてこの軟弱なゴブリンはどこにでも隠れて、今まで生き延びてきた。ジュリアはそれ以上に感覚器官に優れているので索敵妨害も可能だが、下手に妨害すると逆に気づかれるリスクがある。ある程度の距離を取るのがこの場合は有効と判断する。そして、それよりまだ遠いルーザーズの前方2km地点。一つの影が降り立つ。


 黒いレザーパンツ、黒いレザージャケット。黒いチョーカーと黒の革靴の全身黒装備。サラサラの黒髪は肩口まで伸び、前髪も長い。スラっとした長身で、細身。女らしい起伏も男らしい骨格もしていないエルフの様な、しかしこれといった特徴のない中性的な存在。肌の露出が手の先と顔しか出ていない為、性別不詳。

 それはエルフェニアに召喚された”守護者(ガーディアン)”と呼ばれる、丘の破壊に唯一参加しなかった存在。五人の中の唯一の良心と思われる中性。


「なるほど……あれが”(みなごろし)”か……」

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