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第十八話 謂れなき罪

 その日、森王に激震が走った。


「ゴブリンが謎の勢力に襲われた?それは……丘の件か?」


「はい。犯人を見つけ出し、強襲するも、圧倒的強さに撤退したとの情報が……」


 それで思い付くのは”守護者(ガーディアン)”達だ。しかし、彼らはこの国にとどまり、自由気ままに過ごしている。わがまま放題なので放逐したいほど面倒だとクレームに近い報告が上がるくらいに。


「彼奴らは一歩も外に出してはいない。ならば、その犯人というのは……いったい……」


 森王は困惑しているが、部下の報告は続く。


「それが、魔族を連れたヒューマンのチームらしく戦ったゴブリン達すら困惑したのだとか……。敵側に被害を出せない程の異常な強さだったようでして、為す術なく撤退との情報もあります」


 そのチームに思い当たるのが一つ。


「それではまるで”(みなごろし)”のチームのような……」


「首謀者はゴブリンの丘で常駐していた、監督官のザガリガ。そして、ヒューマンのラルフ。ザガリガは裏切り者として処分したそうですが、話では他にも味方がいたようで、全部で五人」


「五人?ラルフと言う名にも覚えがあるが、確か、三人と聞いている……この何日かで、仲間を増やしたと言うのか?」


 森王は思考の渦に囚われる。裏切られ、一度は孤立した魔王が味方を増やし、変な誤解を背負いつつどこかに向かっている。無論、裏切り者への報復が主な目的ではあろうがそれにしては、寄り道をしているようにも思える。そして、ゴブリンから誤解とはいえ首謀者にされたラルフ。ラルフ(これ)の存在が明らかに異質。ヒューマンだというが、何故、彼の魔王が生かし、共に旅をするのか。最初に聞いていた三人の内の最後の一人は”魔断のゼアル”からの情報では吸血鬼だと報告がある。尚更、ヒューマンは生きていられないだろう。


「ラルフ……何者なのだ?」


 ともあれ、今回の件が”守護者(ガーディアン)”から完全に外れたのは重畳。その上、”(みなごろし)”の大体の居場所が分かった。更に、丘の事件の責任をそのチームが勝手に背負ってくれた。


 災い転じて福と成す。


 この状況に奇妙な偶然を感じずにいられない。まるで、誰かが彼の魔王を殺せと云っている様な……。森王は背筋に冷たいものを感じるが、何故だか不思議と笑みがこぼれる。


「今こそゴブリンと手を取り合う時。”守護者(ガーディアン)”を呼べ。我らも動くとしよう」



 ゴブリンの丘の悲報は遠い彼の地にも届いていた。

 ”鉱石の産地”とも呼ばれる岩山地帯。その名も”グレートロック”。ここに住む最も有名な種族はドワーフであり、”鋼王(こうおう)”ヴォーガンソンが地主である。普段は身の丈の半分くらい長い王冠を被り、魔羊の厳選された羊毛を用いた赤いマントを羽織っている彼だが、公の場に出ることの無い時の服装は綺麗に仕立てたオーダーメイドのシャツにオーバーオールを履いて、作業員の様な恰好をしている。長く、綺麗によく手入れされた茶髭に、太く凛々しい眉毛。ごつい顔に隠された優しい目を持つ彼こそドワーフの中で言う”王の中の王”。

 元から鉱石を掘り当てる嗅覚に優れ、同胞たちからの信頼も厚く、平民から長にまでなったたたき上げである。外交の手腕も華々しく、ドワーフが認知され、他種族に一目置かれる様になったのも彼のお陰とされている。そんな彼の元にエルフェニアの長、”森王”からの伝書が届く。その内容は彼の心をかき乱した。


「なんて事をしたんじゃヒューマン!!」


 書斎で仕事をしていた鋼王は乱暴に机を叩いた。拳を握り締め、力みすぎて掌が破れても、手に血が滲み、大事な書類に血の跡がついてもその怒りはとどまる事を知らなかった。


「……鋼王、気をお鎮め下さい……」


 老齢の家臣が白髭交じりの髭をいじりながら落ち着くよう促す。


「……この報告を見て落ち着けじゃと?」


 普段柔和な顔立ちの鋼王は怒りに震え、鬼のような形相でギョロリと家臣を睨む。伝書を机に叩きつけ、サッと後ろを振り向く。向いた先にはドワーフの英知が集約された武器やアクセサリー類が壁一面に飾られている。その真ん中の方にゴブリンの横顔が印された一本の剣がひっそりと、だが、目立つ位置に飾ってあった。ここにある武器やアクセサリーのほとんどが目指すべき到達点と言われ、鍛冶職人には用途により、手本として貸し出している。その中の一本にあのゴブリンソードがあるのだ。


「これを見ろ……これらは全てが儂らが逸品と定めた到達すべき道じゃ。失伝こそしとらんが、ここにたどり着けた者など未だおらん……。それを、一昔前は金槌すらまともに使えなんだあのゴブリンが到達したんじゃ」


 掌が破け、血を流す右手をゴブリンソードにかざす。血がしたたり落ちる手を伸ばせど尚届かないその技術に、恋焦がれ試行錯誤の果てにグレートロックの長になった。外交を重ね、ゴブリンの丘へ赴ける日も近いと思っていた矢先、その技術は失われた。


「許すまじ……」


 鋼王は予定されていた公務を全て取り止めにし、魔晶ホログラムを起動する。


「”集い”の王たちよ!ドワーフ族”鋼王”ヴォーガンソンの名において緊急招集をかける!」


 鋼王の怒りは頂点へと達した。戦争の時は近いーー。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いっす けど もうちょい主人公どうにかして!弱すぎ、死んじゃうよ まあサトリいるからなんとかなるだろうけど [一言] まじでザガリガ、ごみクズだな つーかルーザーズひたすら運が悪いな…
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