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第十話 小競り合い

「ヒューマン……やはりそうか……」


 ラルフは納得の頷きを数度繰り返す。


「ねぇ、まだ話すの?疲れてきたんだけど……」


 自己紹介もそこそこに、アルルはマイペースに話に入る。アルルが駄々を捏ねるのも仕方がない。未だ門前で会話を続けている為である。


「中には入れないのか?ここで全て話すよりキングの前で情報を共有した方が手間が省けると思うんだけど……?」


 ブレイドはアルルの気持ちを汲んで提案するが、ザガリガは即座に却下した。


「ソレハ、イクラ、オマエ、タチデモ、ダメダ。ソレヲ、キメルノハ、キング。トオセバ、カカワッタ、ナカマ、ゼンインガ、アブナイ」


 ゴブリン族の非常事態だというのに悠長な事だ。丘を攻撃された以上、個人の感情など捨てて、王として対処に当たるべき事案だ。敵が誰なのかを知れば、相手に対し先制攻撃が出来るというものなのに……。とは言え、一国の王。ヒューマンの小市民ごときと情報の共有など有り得ない事だろう。


「じゃあ、もう良いんじゃない?私たちの役目はザガリガさんの護衛だし、これ以上は余計でしょ?帰ろ」


 あくまで、護衛としてついて来ただけ。長話になりそうなのにお茶もでない。どころか、中にも入れてもらえない。アルルは現在の状況をどうでもいいものだと認識し、相手の事情も察して、ここで別れようと考えている。ブレイドもアルルに賛同し、最後の挨拶にと声をあげる。


「それじゃザガリガさん、俺たちはここで失礼するよ。えっと……あなた方もまた機会があれば……」


 この時、自己紹介がまだだった事を思いだしラルフは焦って、謝りながら答える。


「ああ、すまない。俺はラルフ。こっちは……」


 と言った所で悩む。ベルフィアはまぁいいとしてミーシャはお尋ね者だ。簡単に名前を明かすのはどうかと思えた為に言葉に詰まる。


「どうでもヨかろう。それヨり(ぬし)は何者じゃ?タだの人では無かろう」


 その言葉には明確な敵意が込められている。一介の若者に対して、執拗なまでの警戒である。魔獣にすらここまでの警戒を見せないベルフィアの態度は不自然にすら感じた。


「絡むなよ……だから喧嘩しに来たわけじゃないっつってんだろ?」


「……ラルフ……さん?不思議に思っていたんだが、その人達は魔族じゃないか?」


 ブレイドはベルフィアから視線を切り、ラルフに問いかける。まずは会話が通じる相手に情報を得ようというのだろうが、この場合は逆に相手の怒りを買ってしまう。


「おどれ(わらわ)ノ言葉は無視かえ?腹ノ立つことじゃ!先に殺意を飛ばしておいて失礼と思ワんノか!!」


 その言葉にラルフはハッとする。あの時、門前で喚き散らしていたベルフィアが、突然ピタッと止まったのは、ブレイドがピンポイントで殺意を放った為だった。


「あっ……あれか?大変申し訳ない。魔族だったからてっきり人を襲おうとしているのかと思って……早とちりだった」


 ベルフィアに対してすぐさま謝る。相手にとっても戦闘は本意ではないという事だ。ラルフにしてみれば警戒は当然だとも思う。ブレイドはこう言うが、そもそもの話ベルフィアがラルフの言葉を早とちりして宮殿に突撃しようとしていたのだ。下手したら壊滅していたという事を考えれば必要以上に警戒するのも無理はない。知らなかったとはいえグッジョブだ。


「あぁ?」


 それに対し喧嘩腰のベルフィア。ブレイドとの距離を強引に詰めていく。これはまずいと、間に入り双方に手を出して喧嘩の仲裁に入るラルフ。


「まぁ、抑えろベルフィア。ほら、ブレイドは大人じゃないか。いつまでも子供みたいに騒ぐんじゃ……」


「ねぇ、見てあれ」


 声を上げたのは静観していたミーシャだった。皆の目が向いた先は宮殿に通じる門だ。ぴったり閉じられていた門が開いたのだ。門番の疑問を他所に小ゴブリンが外に出てきた。


「ナ……!アイツ、イキテ、イタノカ……」


 小ゴブリンはザガリガの前にやってきて「ウィー!ウィー!」と何か抗議している。それを信じられない顔で見ていたザガリガは突然牙をむき、小ゴブリンをはたき倒した。さっきまでの小競り合いが嘘のように消え、門番含めた皆がこの二人に注目する。


「ナンデ、オマエノ、ヨウナ、ヤクタタズガ、イキノコル!!シネバ、ヨカッタンダ!!」


 その言葉は同胞に投げかけるような言葉ではない。襲撃して来た敵にこそ投げかける言葉だ。


「な……何すんだザガリガ!?お前やっていい事と、悪い事があんだろうが!!」


 ラルフは小ゴブリンに寄り添って、その小さな体を起こしてあげる。ザガリガは興奮しながらラルフを睨みつける。


「カンケイ、ナイダロ……」


「ある!俺たちがここまで連れてきたんだ!……お前達は仲間じゃないのか?」


 ラルフは寂しい目でザガリガを見る。それを見て一旦冷静になるが、小ゴブリンを見て今度は冷淡に見下した。


「フンッ、コンナヤツ、ナカマデモ、ナンデモ……」


 といった所で、体に怖気(おぞけ)が走る。心胆から冷える様なこれは、明確な殺意だ。


「ラルフの言う通りだ……お前何のつもりだ?」


 それを容認しないのはミーシャだ。裏切りは許せない。特に目の前で起こった事はミーシャの触れてはいけない逆鱗だ。その圧を感じ取ったこの場の生き物は委縮し、いままでどこ吹く風だったアルルすら警戒する。


「ま……待ってくれミーシャ……これじゃまともに話が出来ない。気を静めてくれ」


「話し合いなど無駄じゃ……やはり蛮族ヨノぅ……」


 ミーシャがやる気になればベルフィアも即座に加勢する。忠義が厚いのはいい事だが、ここではやめてほしい。そこにブレイドがザガリガとミーシャの間に立つ。何故動けたのか。何故動いたのか、その光景は不思議でならなかったが、何故だか絵になった。


「ザガリガさん、早く宮殿に行け。ここは俺が預かる」


「!?ちょっとブレイド!!」


 流石にアルルも驚きを隠せない。ザガリガはそれを確認すると一目散に門に走り始めた。


「おどれ……!」


 ベルフィアが動こうとするのをミーシャが止める。


「……ミーシャ様?」


「我が前に立つと言う事はどういう事か分かっているか?ブレイドとやら……」


 魔王ロープレに入った。こうなったミーシャは言った事を曲げない、実直で自分の正義に忠実な頑固者へと変貌する。ブレイドは腰に差した剣を取り外し、足元にそっと置いた。斬りかかって来るものと思っていたミーシャは一瞬呆気に取られてきょとんとした。その後すぐに表情を元に戻しふんぞり返る。


「……何のつもりだ?」


「生き残るために体を鍛えてきた。どんな魔獣と戦っても、最後には俺が生き残るようにって……」


 ブレイドは屈んだ状態で、ミーシャを見上げる。


「あなたに勝てる未来が思いつかない。だから、俺は初めて命乞いをする。ザガリガさんを許し、俺たちを見逃してくれ」


 そういうと剣を両手に持ち、掲げる。


「金銀財宝の類は持ち合わせていないが、こいつは名の知れた逸品。こいつを売ればひと財産稼げる。これで……どうか……」


 頭を下げて上納品のように手渡す。ミーシャは無造作にそれを取り、鞘から引き抜く。逸品というだけあってよく手入れされた素晴らしい剣だ。ラルフはこれをどこかで見た記憶があった。


「これは……まさか……おい、ブレイド。お前これをどこで……」


 ブレイドは喋ろうとしない。ミーシャは抜身の刃をブレイドの肩に置く。


「答えよ。ブレイド」


 一瞬言い淀むも、ミーシャの圧に押されて答える。


「……家宝だ」


 アルルもその言葉に様子を変える。おっとりとした掴み処のない女性は暗く、影のある女へと変わった。俯いて現在の状況から目を逸らす。


「……ところでこれは何なの?ラルフ」


 凄んでいたミーシャは途端にきょとんとした。


「俺も文献の挿絵でしか見た事ないが、こいつは七つあると云われる伝説の武器の一本。怪魔剣”デッドオアアライブ”だ……」

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