第三話 木こり 2
小屋に戻る際中、さっき居た切り場に戻って切った木を担ぐ。全部持っていきたい所だが、救助した人がいる手前、手が空いていないのも失礼かなと思って軽く持って行く事に。とは言っても山道を登る事を考えれば、ホブゴブリンには信じられない量だった。
「……ソンナニ、モッテ、ヘイキ、ナノカ?」
「慣れてるから」
それだけを言うとさっさと登っていく。置いて行かれない様にホブゴブリンも登る。険しいという程ではないが、走って逃げていたから体力を使い果たし、限界といった感じだった。ハァハァッ息を吐きながら、休み休み登る。しばらく進むと小屋が見えてきた。
「もう少しだから、気張ってくれ」
男は歩く速度を落として彼に合わせる。小屋の周りに建てた柵を越えると荷物を下ろした。安全だという証明だろう。彼ももう歩けないと座り込んでしまった。
「お疲れ。飲み物でも出すから待ってて」
「タノム……」
息を整えながら辺りを見渡す。柵で囲んだ小屋の周りは綺麗に整地されていて自給自足で生活しているのか、畑がある。実がついていて、既に熟成している物から収穫したばかりで何もなっていないのもチラホラ、目立つほどしっかり実が生っているのに荒らされた形跡がない事から、魔獣は入っていないと言う事が何となく分かった。小屋に入るとすぐ声を出す。
「おい、アルル。まだ寝てるのか?もう朝だぞ」
中には他に人がいるらしく、声が聞こえる。朝と言っても、やっと空が明るくなりだした頃で日の出もまだだ。ホブゴブリン的には寝ているなら「そのまま寝かせとけ」と思った。知らない奴が増えてもこんがらがるだけだし、今はそうでなくとも他の事で頭が一杯だからだ。小屋から木で作ったコップを持ってホブゴブリンに差し出した。中にはなみなみと水が注がれていた。それを見てもぎ取るようにコップを受け取り、一気に喉に流し込む。喉が乾いて仕方がなかった。水を飲んだことで落ち着いたホブゴブリンは助けてくれたヒューマンが味方であると認識する。
「マダ、オレイモ、イッテナカッタ。アリガトウ、カンシャスル」
男にコップを返し、感謝を述べる。
「良いさ、困った時はお互い様だ。物のついでに何があったのか聞かせてくれないか?」
ホブゴブリンは躊躇うが、力になってくれそうな人物だと信じ、一拍置いて話し始めた。
「オレタチノ、オカガ、ヒューマンニ、オソワレタ。オレイガイ、イキテルカ、フメイ」
片言ではあるが、分かりやすいように簡潔にまとめて話してくれた。
「ゴブリンの丘が襲われたのか?それもヒューマンに……」
そんな兆候はなかった。自分の知る限りどの国も丘付近で駐留しているような軍はいなかったし、中隊規模の動きも感知していない。少数精鋭で一気に壊滅させたというのか?となれば白の騎士団か、または裏の人脈か。それなら人数もいらない上、日数もいらない。
「理由は何か分かるか?」
「フメイ。サイキンハ、アラソイ、ナイ。ヒトト、ゴブリン、ナカヨシ、ダッタ……ノニ」
国の関係は彼の主観だが、聞く限り良好だった。何らかの逆鱗に触れたか、若しくは土地を求めたか、いずれにしても常軌を逸している。
「それで?何処に行く気なんだ?」
おおよそ検討はつくが一応聞く。
「キングニ、オアイ、スルタメ、キュウデン、イク」
やはりゴブリンキングか。宮殿の方角からかなり外れている。護衛もなく魔獣に襲われたせいでもあるだろうが、もし違ったら恥ずかしいという気持ちがあった為に確認したかった。予想から外れてなかったので、頭の中でルートを構築する。
「近くまで送ろう。また魔獣がいたら危険だ」
彼の提案はホブゴブリンには”渡りに船”だ。戦闘能力があまり無い為、護衛をしてくれるならこれほど嬉しいことはない。ホブゴブリンは彼の好意に甘える事にした。
「ゼヒ、オネガイ、スル。キュウデン、マデツレテ、イッテ、クレナイカ?」
「分かった。用意するから待っててくれ。……と、良かったら朝飯にしないか?食って力付けてから行こう」
男はニカッと笑って小屋に戻ろうとする。
「……オマエ、ナマエ、ナンテ、イウンダ?」
男は立ち止まって、肩越しにホブゴブリンを見る。
「ブレイド。しがない木こりさ」