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第二十五話 戦闘放棄

 先の戦いを間近で観戦していたラルフとイザベルは、何が起こっているのか全く分からないほどについて行けてなかった。

 サブリミナルのようにチラチラと現れる二人の姿を視認する程度。後は地形が変わったり、衝撃波を魔障壁で防いだりしながらじっと見ていることしか出来なかった。


「これが……最強の魔王との戦い……?」


 白の騎士団とは何だったのか。人間の勝利とは何なのか。それすらも希薄なこの戦場の惨状に言葉を失う。


「ヤベェだろ?誰もミーシャには勝てねぇのさ」


 ラルフはミーシャの貢献を自分のことのように誇らしげにしている。それに対してイザベルはジロッと睨んだ。

 ラルフはイザベルの近くに立ち彼女が自らを守るためだけに使用していたはずの魔障壁の傘にちゃっかり隠れていた。自らを守ることすら人任せ、ソフィーとは戦っていない癖に自分の手柄のようにふんぞり返る。こういう男は心底気に入らない。

 そんな感情を読み取ったのか、ラルフはこれ見よがしに肩を竦めて見せた。


「まぁまぁ、そう怒んないで。俺が嫌いなのはよく分かるよ。けど本当のことだろ?」


「……少し離れろ。馴れ馴れしい」


「そんなこと言うなよ〜。魔障壁が無きゃ俺が吹っ飛ぶじゃん」


「バカ。そのくらい自分でどうにかしなさいよ」


 ラルフは苦笑しながらイザベルの正論をはぐらかす。互いに譲らない二人はミーシャとソフィーの戦いに目をやる。相変わらず戦いは見えない。見えるわけがない。

 ラルフは暇つぶしに会話を続ける。


「……白の騎士団の”煌杖”に出会えるなんてよ、こんな機会二度とないと言える」


「うるさい。集中出来ないから……私の敵であるなら今後も会う機会があるでしょ?」


 イザベルは手を振ってラルフを(あし)らおうとするが、ラルフは食い下がる。


「そんなことないだろ?一角人(ホーン)はただでさえ引きこもりがちの種族なんだからさ」


「……何ですって?」


「事実だろ?今までの行動を考えてみろよ。白の騎士団が二、三人減ってもあんたは出てこなかった。あんたの魔障壁にあやかっているような雑魚の俺が最前線で戦ってた時を思い出してみてもあら不思議、立っているだけで輝きを放っているような角の生えた美しいご婦人を見たことがない。非常に残念なことに俺はあんたの敵のはずなんだけどな……」


 ラルフの言葉にイザベルは呆れた顔でまた睨みつけた。


「皮肉のつもりですか?」


「まさか。ただ少し……いやごめん、皮肉だな。あんたの言う通りだ。ちょっと暇だったからからかっただけで……」


「はっ!暇……?今こんなにも凄まじい戦いを繰り広げているソフィー様に対して……命を賭けるお二方の覚悟を暇とはどういう了見で?」


 先ほどからずっと絡んでくるラルフにはうんざりだが、それ以上に戦いに水を差すような物言いはイザベルの逆鱗に触れる。


「あんたも感じないか?この戦い……不毛じゃねぇかって」


 ミーシャとソフィーの戦いは熾烈を極める。圧倒的力と圧倒的魔力量から繰り出される戦いは長引きそうだ。

 凄まじい攻防を魅せる究極の戦いは両者の魔力が尽きるまで終わることはない。と言ってもこのペースだと長くても半刻で終わりそうなものだが、ラルフは時間の短縮に動く。

 イザベルはラルフの言いたいこと、その真意に目を瞑り反論する。


「不毛も何もこの戦いを終わらせることなんて当人にしか出来ないでしょう?この問答も暇つぶしの一環?だったら今から口に出す言葉には気をつけなさい。死ぬから」


 イザベルは杖を強く握る。魔法を使えばラルフなど簡単に亡きものに出来るのだ。面倒な問答に惑わされたり、煩わされることなどこの場で終わりにしてしまっても良い。 しかし、そうしないのはミーシャとソフィーの戦いを邪魔したくないからだ。

 ラルフに手を出せばミーシャの敵意がイザベルに向く。そうすれば戦いを忘れてこちらに向かってくるかもしれない。そうなればソフィーが背後から襲って一件落着。でも万が一ソフィーが背中を襲うのを卑怯と考えるなら、イザベルも死んで戦いの再開。邪魔にしかならない。

 もしやるにしろもっと確実性が欲しい。ソフィーには生きて欲しいが、賭けに出るには早い気もする。


「おっかねぇなぁ……。けど考えてみなよ、自分の仲間が死んで欲しくないのはあんたも俺も変わりないはずだぜ?俺たちの出会いがここで最後にならないように一緒に止めてみないか?」


「くだらない。無理に決まってるでしょ。……でも何か策があるというなら、聞いてあげなくもないけど?」


 まずは手段から。それを聞かねば話にならない。


「へへっ前向きに話が出来そうで良かったぜ。よろしくな!イザベル=クーン」


「まずは話を聞いてからっ!あんたって一々気安いのよ……」

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