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第23.5話 遠い地の憂い

 ──ズゥ……ゥンッ


 世界が震える。

 灼赤大陸の高山”サラマンド”の展望台で見えない戦いに目を向ける女性がいた。彼女の名はティアマト。第四魔王”竜胆”を名乗る彼女は竜魔人の長である。


「……何が起こっているの?」


 心がざわつく。この感覚は危険を察知しているのか、それとも抗えぬ何かに怯えているのか。

 灼赤大陸の内輪揉めで図らずも全種族を統治することになったティアマト。就任後間も無くの虫の知らせに天を仰ぐ。


「ああ……ドレイク様。私をお護りください……」


 亡き夫に祈る。彼女には今それくらいしか出来なかった。


 この衝撃は第十二魔王”(くろがね)”にも届いていた。領地を離れ、ヲルト大陸で第三魔王”黄泉”と会っていた鉄は椅子の肘掛けに(もた)れながらチラリと窓の外を見た。目の動きで何かを察した黄泉は声を掛ける。


「……どう見るべきだ?」


「ん?どうとは?」


 黄泉の抽象的な質問に鉄は首を傾げる。


(とぼ)けるな。この心胆から震える恐怖。これはあの女から発せられているものに違いない。妙なのはこの場に居ないというのに恐怖している現状にある。これから何かおかしなことが起ころうとしているのか?」


「違う、そうじゃない……戦いは既に始まっている。それを観測していないだけだ」


 鉄は腕を組んで鼻で笑う。普段なら許せないだろう不遜な態度も気になることがない。もっと別のことが気になって仕方がない。


「……戦いは既に始まって……何故分かる?」


「勘だ」


 根拠も何もない。ただそう感じるからきっと戦っているんだという妄言に近い。

 普段なら一蹴してしまうような返答。だがそれを無視出来ない。


「ふふ……笑えるな……我々がいくら強いとか魔王だとか持て囃されても、アレは全てを超えてくる。俺がただの一魔族に見えるほどの桁違いの力。この世に生まれてきたことを後悔してしまいそうだ」


 鉄の諦めきった雰囲気に黄泉も固唾を飲んだ。


「ミーシャ……お前はどこまで……」


 魔王と呼ばれるのが恥ずかしいと感じる。二柱はお互いの傷を舐め合うように互いに慰める。

 空白となった席を眺めつつ今後の方針を話し合うのだった。

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