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第七話 やって来た災厄

 世界が確実に時を刻む中、ある時期を境に時が止まってしまった哀れな連中がいた。


 世界の最北端に位置する街”クリスタルランド”。一角人(ホーン)妖精種(フェアリー)が統治する寒冷地帯。

 生まれた時から魔力と深い関わりのあるホーンはフェアリーとの相性も良く、何百年という時を共にして来た旧知の仲である。

 街全体を覆う魔障壁発生装置を最初に開発した種族で、当時は技術を独占していたが、”王の集い”発足による技術提供により人族に安全をもたらした。魔族打倒を謳い、人族をまとめ上げた森王レオ=アルティネスの功績は大きい。

 それもこれもエルフという種族の排他主義を嫌った異端児が、王族より生まれた奇跡の結果だ。神に最も近いと思い込んでいる美しき勘違い種族。

 そんなエルフ以上に他の種族との関わりを極力絶っており、ドワーフ以上の引きこもり種族として有名である。


 天高くそびえ立つクリスタルを加工して作られたかのような荘厳な城。半透明で中まで丸見えだと思われそうだが、魔法で光を屈折させているので外から中を見ることは不可能。もちろん中からはしっかりと外が見渡せる。窓はないが、魔法により空調管理が徹底されているので快適である。赤い煌びやかな絨毯が敷かれ、床暖房も完備。年がら年中寒い土地であるため、一般家庭にも床暖房は普及している。

 快適な居住性を求めた結果、まさに引きこもるのに最適な環境を生み出し、休日はほとんどの国民が極力動かないようにのんびり過ごしている。

 エルフ以上に神を信奉しており、ホーン独自の宗教観で超常の存在を崇め奉っている。そのためか神聖魔法に精通したホーンが多く、アンデッドに無類の実力を発揮する。


 今日も多くの国民が祈ったりダラダラしたりしているだろう休日の昼。城の上部から城下町を眺める影があった。

 ソフィー=ウィルム。白の騎士団最年長であり”魔女”と呼ばれたホーン最強の彼女は、ベッドの上で何も出来ずにただぼんやりと外を眺めている。

 長年付き添った義手と義足をミーシャによって破壊され、立つこともままならなくなってしまった。最初こそ古い機種で代用していたが、最新鋭と異なり操作が難しく、段々と面倒になってリハビリも投げ出した。

 今はただ死にゆくのみの存在としてベッドに寝っ転がっている。


 ──コンコンッ


 そんな時ノック音が聞こえた。ソフィーは特に返事もせず放っておくが、ノックの主は返事を待たずにガチャリと部屋に入って来た。


「ソフィー様。お食事をお持ちいたしました」


 現れたのはイザベル=クーン。白の騎士団で”煌杖”の二つ名を持つ人族屈指の魔法使い。

 彼女は神よりもソフィーに心酔していて、ソフィーのためにと日夜尽くしている。努力虚しく、ソフィーの心に響くことはなかったが、イザベルなりに弁えて関わっている。

 最近ソフィーは固形物を食べずにスープばかりを飲んでいる。体を自ら改造したために食べなくても痩せ細ることはないのだが、心なしか目に生気を感じられない。このままでは本当に命に直結しそうな勢いだ。


 それもこれもエレクトラのせいだ。


 力の神エレクトラはソフィーの一度の敗北を許さなかった。ソフィーに与えた力を没収し、縋るソフィーをまるでゴミを見るかのような目で冷たくあしらった。

 それ以降全く姿を現さなくなってしまったのだ。せっかく手に入れた最後の機会を上手く活かせなかったとし、ソフィーは塞ぎ込んでしまった。今もきっと自分を責め続けているに違いない。

 イザベルはソフィーの介護をしながら胸が張り裂けそうになる。常に一線で活躍して来た彼女の昔の姿を思い出し、涙が溢れそうになった。

 最後のひと掬いをソフィーの口に持っていき、空になったスープ皿を持って出入り口に向かう。


「……イザベル……」


 空気に溶けて無くなるほどに小さな声。されどイザベルは聞き逃さなかった。返事をすることなく立ち止まり、振り返る。ソフィーは外を眺めながらまたポツリと呟く。


「……ありがとう……」


 イザベルの頰に一筋の涙がこぼれ落ちた。拭う事も出来ずに震える声で「……はい」と返事をして部屋を後にした。

 また静かになった部屋。ソフィーはうとうとと瞼を重くしていた。このまま意識を手放そうとしたその時──。


『もう一度力を与えてやろうか?』


 その瞬間に目がパチッと開く。低い男性の声だ。先ほどまで特に気配がなかったというのに突如現れた。

 ソフィーの経験で培われた確かな第六感を掻い潜る猛者。間違いない。これは神だ。


「あ、あなた様はいったい……」


 この部屋に居る。しかし実体がない。エレクトラの時とはアプローチの仕方が違う。


『我が名は創造神アトム。貴様らの神だ!』


 その瞬間。ソフィーの目から涙がこぼれた。ボロボロと涙が流れ落ちて枕が濡れる。


「あぁ……神よ」


 本当なら手を組んで跪きたいが、手も足もない彼女には到底不可能な話。ひたすらに泣くことしか出来ない。


「感謝いたします。この出会いに……私の強運に……」

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