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第五十一話 前座

 八大地獄が力を振るう中、ゼアルたちも負けてはいられない。

 大量に流れてきた魔族を相手取り、互角以上の戦いを繰り広げる。魔族は人族の五、六倍強いと持て囃されてきたのは何だったのかと言いたくなる情けない惨状だが、相手がゼアルでは魔族も分が悪い。

 神にこれでもかと強化された男は文字通り人間最強の称号を手に入れられるまでに進化した。一振りで三体は余裕で倒し、後方の部下たちが暇を持て余している。魔剣イビルスレイヤーがあろうがなかろうが、神やミーシャを除く全ての生き物に勝利することだろう。


「何だこいつら!!死ぬのが怖くねぇのかよ!!」


 ただ突っ込んでくるだけの考えることをアルテミスに奪われた魔族。正孝はその姿に恐怖しながらも、最近特訓中の剣を振るう。柄を握る手は小刻みに震えていた。そんな正孝の様子を戦いながら見ていたガノンは舌打ちしながらどうすべきかを考える。そして割とあっさり答えを導き出す。


「……操られてやがんのさ。掛かってこい人形ども!俺が手前ぇらの敵だ!!」


 そう言うと全身からオーラが立ち始める。四方八方にいる敵を挑発し、敵意を集める”ヘイトコントロール”。ガノンの誰よりも優れ、唯一誇れる技である。

 だがどういうわけか、ヘイトコントロールを使用中のガノンを無視して目の前の敵に集中している魔族たち。ガノンの自慢は終わりを告げた。


「……?!……馬鹿なっ!?」


 膝から崩れ落ちそうなほどの衝撃に耐えつつ敵の攻撃を防ぐ。想定外の事態。


「ガノンが使えんか……であるならば、小手先の技など最早不要ぉ!!」


 アロンツォは槍を突き出し、魔族の心臓部分を突く。絶命を見届ける前に次の魔族へと移行する。時には討ち漏らし、瀕死の魔族が襲ってくるが、それはナタリアが阻止してくれた。


「ロン!忙しいからって雑なのはいけないわ!もっと気を付けなさい!」


「分かっている!!」


 それでもこの攻撃方法を変えるわけにはいかない。相手は延々と森から湧いてくるのだから……。

 その大半をゼアルが処理している。目にも止まらぬ速さで斬っていく様はカマイタチと言って過言ではない。それも凄まじい鋭利さで、触れるもの皆真っ二つ。為す術なし。

 魔族にとっては不毛とも思えるこの戦いにおいて、一番気持ちを蔑ろにされているのが他ならぬ魔族たちである。逃げることも止まることも許されなず、生きることも否定された魔族たちに逃げ道は存在しない。ただひたすらに死にゆくのみだ。


(これほど不憫なことがあるか?意志など介在しない、怒りに支配された精神。正気を失い、何も分からぬ内に死んでいく。憎んでいた魔族に同情するのは私だけか?)


 ゼアルはそんな風に思いながらも攻撃の手を止めることはない。人族繁栄のためならば、死んでくれた方が世の為人の為である。


「……せめて苦しませずに一瞬で屠る!」


 ゼアルはそう心に決めて、攻撃をし続けた。



 アルテミスはキョロキョロしながら何かを探している。最大目標のラルフがいまだに姿を現していないことに不満をあらわにしているのだ。舌打ちをしながら魔族たちと戦っている八大地獄を眺める。


 誰も彼も感情に逆らうことなど出来はしない。それが例え、魔族であろうが人族であろうが、感情なしには生きていけない。そこが付け入る隙となる。

 アルテミスは見ている。完璧なタイミングを。

 白の騎士団、黒の円卓、そして八大地獄。こんな奴らはどうでも良い。ぶっちゃけゼアルもミーシャもロングマンも、全てが前座に過ぎない。神として抹殺すべきは”次元渡り”を持つラルフ。それ以外は正直どうでも良い。


『あー……中々に焦らしてくるにゃぁ。神を差し置いて高みの見物とは良いご身分だにゃ……』

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