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第四十八話 雄叫び

 魔族の軍勢は日を追う毎に増していく。最初に来た魔族はもう五日も何も食べていない。虫が(たか)っても無反応のところを見ていると死んでいるのではないかとすら思える。魔族は人族のようにヤワではないので、五日程度なら飲まず食わずでも平気で動く。ただ彼らも餓死するので、これ以上の無茶は出来ないのだが……。


「奴らがただの置物のように思えてくる」


 白の騎士団の一人、”天宝”のナタリア=マッシモ。アロンツォの妹である彼女は兄に並ぶ最高峰の槍使いだ。木の上で待機し、魔族の様子を窺っていた。ナタリアの手に握られた宝石が光を放つ。


『大丈夫か?』


 そこから聞こえる声はゼアルの声。握られた宝石はツインズと呼ばれる無線機。ゼアルたちは少し離れて、偵察を買って出てくれたナタリアと連絡を取り合っている。


「問題ないわ。それにしてもなんて数……西の大陸に総攻撃を仕掛けようなんて何を考えているの?」


 エルフたちがここに移住したことを踏まえれば、エルフ掃討作戦を仕掛けようとしているのか。はたまた居住区域ジュードに戦争を仕掛けるのか。そのどちらでも無いのか。疑問は増えるばかり。


『気になっているようだな。奴らの狙いはラルフだ』


「何?それって、あの小汚い男よね?」


『ああ、そうだ。確実に殺すには数の暴力とでも言いたいのだろう。安易だが、一番手っ取り早い』


 けど大雑把すぎる。とりあえず兵士を駒として扱いたいという何者かの意識が紛れ込んでいるようだ。十中八九神の仕業であると推測する。


「ともかく、今は嵐の前の静けさってとこかしら?」


『いや、ナタリア。既に始まっているようだぞ』


 ナタリアは「え?」っと顔を上げる。直後兵士たちはパカっと口を開けて叫び出した。



『にゃはははっ!どうにゃどうにゃ?これが神のカリスマという奴にゃ!!』


 アルテミスは軍勢が綺麗に整列するのを空高く見守りながら声高らかに笑う。隣には苛立ちを見せながら舌打ちをする第三魔王”黄泉”の姿があった。


「チッ……何がカリスマだ。お前が操っているだけだろうが……」


 息の続く限り笑っていたアルテミスは黄泉の言葉に即座に反応した。


『ちょっ……何を言うにゃ!ほんのちょびっと借りただけにゃ!本当にゃらお前を黙らせてやっても良かったにゃよ?そうして意識があるのはウチが温情を掛けているからにゃと気づくにゃ!』


「くっ……何が神だ!テキトーを具現化しただけの下等な存在だろうが!」


『ほーん?下等とかほざく割にはウチに何も出来ない見たいにゃね。黙って平伏してろにゃ』


 吐き捨てるように言い放つと、地上を見下ろす。アルテミスが手をかざすと、先程まで微動だにしなかった魔族の軍勢が地響きが鳴る程に叫び始める。

 それは鬨の声ではない。怒り狂う怨嗟の雄叫び。

 芯から冷え切るような狂気にまみれた叫びは黄泉の心を萎縮させた。


「な……なんだ?これは一体……?!」


『ウチは五感の神。五感とは即ち触覚、味覚、視覚に聴覚、あと味覚?……ううん、そんなもんじゃないにゃ。ウチは感情そのものを掌握することが可能にゃ。怒りをちょちょちょーっと弄ってやればこの通り。怒りに任せた攻撃は通常の三倍の破壊力を有することが出来るにゃ。どうにゃ?すごいにゃろ?』


 ケラケラと笑いながら黄泉を引っ張る。


「なるほどな……この俺が動けないのも、その五感のせいだというわけか」


『うん、感覚を奪ったにゃ。最初からウチに全部貸してれば、こんな面倒なことをしなくて済んだにゃ。全てはお前のせいにゃ』


「このくそっああぁぁぁ……っ!!」


 黄泉は唐突に舌が回らず、口の感覚も無くなった。アルテミスがこれ以上の会話を切ったようだ。最早「ハガハガッ」と声にならない呻きを出すぐらいしか出来ない。


『まぁ見てるにゃ。お前の部下の本当の力をにゃ。全軍、この大陸のありとあらゆる生き物がお前らの敵にゃ。殺せ』


「「「オオオォォォオオォォッ!!!!」」」

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