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第42.5話 幕間─二柱の雑談─

『どいつもこいつも役立たずにゃ……』


 アルテミスは憤慨し、歯止めの効かないところまで来ていた。

 イリヤをも下したラルフたちはこの世界最凶の病原体。取り除かなければ今後の世界の在り方が変わるのが推測出来る。

 加えてネレイドとミネルバ、そしてバルカンは戦うことを放棄した。どうせなら一回戦ってくれるなら、結果がどうであれ溜飲は下がっただろう。が、その期待は無駄に終わった。


()くにゃる上は、魔族に力を与えて(みなごろし)の討伐を……』


『まぁその方が無難ではあるよねぇ。人族ではどうしても限界があるし、ゼアルでもダメだったからね』


 神が思う最も英雄に近い存在、ゼアル。そんな彼はあろうことかラルフを要所要所で助けてしまう。自分との戦いの中で勝負を決めたいと言うわがまま。完璧主義でこだわりの強い男なのだ。

 全てを合理的に考える虫のように希薄な精神を持った男ならとっくにラルフは死んでいたかもしれないが、そんな奴は英傑になることなど出来ない。せいぜい裏社会でただ生きているだけの生活を送っていることだろう。


『というか自分でやらないの?あのアトムでさえ体を張ってミーシャとやり合ったのに……』


『もちろん自分でやるにゃよ?魔族は単なる囮にゃ』


『へぇ〜。無い知恵を絞って戦おうって言うの?凄いじゃんアルテミス。僕見直しちゃったよ』


 アシュタロトは手を叩いて喜んだ。アルテミスは得意満面に踏ん反り返ったが、何かに気付いたように眉をへの字に曲げた。


『ん?無い知恵って言ったかにゃ?』


『そんなことよりもマクマインだよ。もう何日帰ってきてないの?僕もう飽きちゃったなぁ……』


 マクマインに能力を与え、歳を感じさせない若々しい肉体を手に入れた彼は、ラルフを殺してくると言ったきり。喜びのあまり何処かに羽を伸ばしているのかもしれない。こんなことなら一緒について行くんだったと頬を膨らます。


『ジュードだったよにゃ?確か。ちょっと遠いし徒歩だったしで無理じゃ無いかにゃ?』


『えぇ?だってあの魔道具を使ってるんだよ?ひとっ飛びじゃないか……』


「うむ、その通りだ。お陰ですぐに戻ってこられた」


 二人の会話に割って入ったのは噂のマクマインだった。


『マクマイン!もう……寂しかったよ』


 アシュタロトは嬉しそうに体を揺すっている。


『で?どうだったにゃ?』


 マクマインはアルテミスの問いに首を振る。アルテミスはため息をついた。


『いや、何でにゃ?ラルフは訳無く殺せるはずにゃ。難しいことは考えず、ただ剣を振るだけで……』


「試したさ、言われるまでも無くな。しかし奴には何故か私の特異能力が効かん。(みなごろし)が邪魔出来ない状態になっていたから攻めたが、見事に(から)め取られてしまったよ」


 兜を脱いで脇に抱える。顔に多少の疲れが出ていたが、何かを発散したようなスッキリとした面持ちだった。


『あーっ!ラルフの異空間に閉じ込められてたなぁ?それで遅かったんだ』


「ふっ……分かるか?あの能力は厄介だ。何とか封じる手は無いか?」


『あるにはあるけど、力を与えた神との交渉次第かな。特異能力が効かない理由もサトリの加護だろうね。彼女がラルフを殺しても良いって思ったら力を取り上げてくれるんじゃないかな?』


 アシュタロトは足をプラプラ遊ばせながら唇を尖らせた。まず無理だと確信している顔だ。


『異空間を経由して出入り口を自由に決められる。まさに次元渡りの能力そのものにゃ。にゃからあれほどイイルクオンの住人に特異能力を与えてはいけないと……』


『はいはーい今更今更。私たちもゼアルとマクマインに能力与えたし、もうサトリを悪く言えないんだよねぇ』


『それは……そうにゃけども……』


 モゴモゴと言葉を濁したアルテミスは何かに気付いたようにハッとした顔を見せた。


『待つにゃ。今さっきマクマインは(みなごろし)は邪魔が出来にゃいって……』


「うむ。この私に対応すら出来ていなかった」


『ってことはミーシャには加護が無いってこと?サトリにしては珍しいことをしてるね。……いや、今彼女の側に居ないのか……』


『チャンスにゃ!!今ここで叩けば(みなごろし)は殺せるにゃ!!』


『さぁ、どうかな?君が単体で行っても返り討ちだろうね。それより魔族を懐柔してミーシャと戦わせる最初の策で行きなよ。いくらか勝率は上がるでしょ』


『にゃぁ……やっぱりウチをバカにしてるにゃろ?』


『僕はそんなにひどいやつじゃ無いさ。助言は的確にしないと失礼だろ?』


 アシュタロトはニヤニヤ笑って冗談めかして笑う。気分を害しながらも、結局アルテミスは魔族のところへと出発した。誰に協力を仰ぐのか一切告げずに……。


 マクマインは待つ。ラルフと戦えるその時まで──。

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