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第四十二話 闇を照らす光

 ベルフィアとアルルは二人で同時に魔法を発動させた。イリヤは触手を纏いながら攻撃を待つ。闇に飲まれれば何も無くなるというのに、馬鹿の一つ覚えとはこのことだろう。

 しかし、イリヤの微笑みは途端に終わる。攻撃魔法を予想していたというのに、魔法のベールにタコごと包まれていく。


『なに?これは……魔障壁?』


「よし!」


 ラルフはガッツポーズで喜びを(あらわ)にする。本当は海面に居るイリヤを包むつもりだったが、逃げる彼女を咄嗟の判断で空に排出したのが功を奏した。


『うふふっ、捕まってしまいましたか……ですが』


 タコの怪物は(うね)る触手を魔障壁に這わせる。這わせた箇所にじわっと闇が広がり、魔障壁を侵食していく。どんなに強固で破壊困難であっても、飲み込んでしまえば関係ない。イリヤが常に余裕である理由は、この世界に自分を閉じ込めておく術が無いという自負心と、揺るがすことの出来ない実績にこそある。二重に張られた魔障壁を突破されるのも最早時間の問題。


「ラルフっ!!」「ラルフさん!!」


 二人は叫ぶ。この状況を打開し、全てを解決に導く手立てを持った男の名を。


「おう任せろ!!」


 ラルフはバッと手をかざす。


『おやおや、何をしでかす気ですか?攻撃手段のない貴方には私を何処ぞに連れて行くくらいしか出来ないでしょう?』


「物理攻撃も魔法攻撃も飲み込んじまうお前には何をしても無意味。そう思ってたけど違ってたぜ!イリヤ!!」


『ほう?』


 イリヤは心を浮つかせる。ラルフの自信たっぷりの表情にトキメキを感じたからだ。全てを飲み込み、一つに統合出来る彼女は博愛主義である。

 一つの生物に捉われることなく全てを愛し慈しめるイリヤの心を奪ったラルフ。ミーシャの想いが彼女の気持ちを高ぶらせている。


『不思議なものですね。きっと今の私は危機的な状況化に置かれている。なのにこんなにも彼に期待しているなんて……ラルフ様、どうかこの私を追い詰めてくださいまし』


「言われるまでもねぇよっ!!」


 ラルフは吼える。それと同時に起こったことは、イリヤを包み込んだ魔障壁をさらに包み込む何かだった。

 穴が無数に開いて行く。魔障壁を囲うように幾つも幾つも幾つも幾つも……そしてその一つ一つの穴がワープホールとなって何処かに繋がった時、イリヤの目が眩んだ。


『!!……ああっ!!?』


 全てのワープホールは燦々と輝く太陽を映し出す。雲よりも上空にワープホールの出入り口を作り出し、その全てが太陽の光を取り込むように設置されたのだ。いわば天然のサーチライト。

 太陽は星の表面を照らし、熱を与える。どんな輝きよりも上である光の根源は、暗く澱んだ闇を一掃する。影があることで浮き上がる物体は、影を失うことで形を失い、やがて形状すら忘れさせる。

 イリヤは閉じ込められたのだ。光の牢獄に。


『そんな……こんなことって!?』


 真っ白な視界の中に闇は散開する。闇に閉じ込めたものたちは解き放たれ、徐々にその姿を取り戻す。闇の根源たる黒い点の中から形を帯びて行く物質たち。その中にミーシャの姿があった。根元から形を取り戻すミーシャがとった行動はイリヤを殴る。ただそれだけだった。


 ──グシャァッ


 魔障壁が膨らみ、アルルとベルフィアはかざした杖と槍を引く。その瞬間に魔障壁は弾け、闇に飲まれた生物たちが吐き出された。魚人族(マーマン)、魔獣、魔海獣等、雲の上から勢いよく大量に飛び出す様は見てて滑稽と言えた。

 中でも勢いよく飛び出したミーシャは白絶と白絶の側近であるテテュースを抱えている。ミーシャの無事を確認したラルフは落ちゆくマーマンたちの下にワープホールを作り、海へと優しく落とす。

 この高さから落ちれば液体とはいえ石のように硬くなり、転落死は免れないからこその配慮だった。魔獣はアンノウンの召喚獣だから放置。魔海獣は他の魔海獣の餌だ。


「あ!ブレイド!!」


 アルルの声が響き渡る。そこにはエレノアに背負われたブレイドの姿があった。すぐさま飛んでいくアルル。ベルフィアも「ミーシャ様!!」と急いで側に寄った。ラルフは全てのワープホールを閉じてミーシャの前に現れる。


「ミーシャ!!」


「……ラルフ」


 ミーシャは目を潤ませてラルフの元へと飛んでいく。白絶とテテュースをラルフの立っている床にそっと置くと、ガバッと抱きついた。


「ねぇ……どこ行ってたの?心配したんだから……」


 全てが終わった安堵からか、涙がこぼれ落ちる。ラルフは数日何も言わずにいたことを後悔する。言えなかった、言う暇がなかったのが本心だが、こうして心配されると罪悪感に苛まれる。


「悪かったよミーシャ。ちゃんと説明するから、な?そう泣くなよ」


 ワープホールの先にベルフィアとアルル、そしてエレノアとブレイドが嬉しそうに戻ってくるのが見えた。勝利の凱旋である。

 こうしてイリアとの決戦は幕を閉じた。



『……どう思うミネルバ』


 そんな光景を端から見ていたネレイドとミネルバは冷ややかな目で見ている。


『……動く?』


『いや、()らが今更何をする?放置するのはどうかと思うものの、彼奴等に力で対抗すれば面倒この上ないのは既に証明済み。なれば()らは適度な距離を保ち、修正するのに手を貸すのみ』


 戦うことを愚策と断じ、二柱は見守ることに専念する。それは最近ラルフたちに近づいたバルカンも感じたことだった。


『それで良いんだ。ミネルバ、ネレイド。私も続くよ』


 神との対決。残すはアルテミスとアシュタロト。

 終演は近い。

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