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第四十一話 イリヤ戦

 ビュルッビュルッ


 ラルフは闇の神イリヤと対峙した。と言ってもワープホール越しからそっと覗き込む程度。相手の触手攻撃をワープホールを閉じることで躱して、ヒョコヒョコとモグラ叩きのように顔を出したり引っ込めたりしている。


『うふふ……面白い戦い方を致しますねぇ。少し楽しくなってきました』


 イリヤは苛立つということを知らない。ラルフの突飛な行動も彼女の中では遊園地のアトラクションだ。


「俺にはこういう……っ!戦い方……っ!しかで……っ!しか出来ないからな。おっ!……全然……っ!喋らせて……っ!くんないじゃん……っ!」


 とにかく逃げるラルフと追うイリヤ。両者は一歩も退かずに攻防を続けている。

 そんな二人を空から眺めるベルフィアとアルルの姿があった。ラルフの挑発が上手くいったのだと感心している。


「やはり奴にはそこはかとなく他者を苛立タせル才能があルヨうじゃな……」


「流石ですね。それではラルフさんが注意を引いてくれている内に準備をしちゃいましょう」


 アルルは魔槍を振り上げて魔力を溜め始める。


「待てっ!」


 その行動をベルフィアが止めた。アルルは驚いて槍を胸元に引き寄せた。ベルフィアの視線の先を目で追うと、イリヤがキョロキョロしているのがここからでも見て取れた。


「も、もしかして魔力を感知して……」


「うむ、大いにあル。少し離れルべきじゃ」


 ベルフィアはすぐに踵を返して飛び始めた。アルルはイリヤとベルフィアを交互に見ながら困った顔を見せる。


「……ラルフさん、すいません」


 アルルは申し訳なさそうにラルフに謝罪をしつつ離れていった。


『……なるほど、ラルフ様は囮ですか。この私に対してどのように攻撃を仕掛けるつもりなのか見ものではありますが、少々窮屈ですね。ここは一つ退避して様子を見ましょうか』


 イリヤは触手攻撃を一旦ストップして潜行を開始する。急に攻撃の手が止まったことに驚いたラルフは焦る。


(しまった!アルルとベルフィアは何をしているんだ!?)


 二人の行動の遅さに憤るものの、ラルフは空を見上げかけるのを自制する。イリヤがこちらを凝視している。何か気付いたと見るべきだろう。作戦の変更を余儀なくされる。


「……もうここしかねぇ!!」


 ラルフは手をかざす。特異能力をイリヤに向けて発動した。


 ──ゴォッ


『?!』


 その瞬間イリヤの体が下に落ちた。海に穴が出来たのだ。タコの怪物ごと吸い込まれるイリヤ。掴むところも無ければ我慢することも出来ない。排水口に飲まれるスライムの如くスルリと穴に通過する。


 出口は……空。


『私を海から引きずり出した?』


 海水と共に排出され、雲の上から落ちていく。ラルフは下にいて眺めている。ただ海から空に上げただけのようだ。照りつける太陽に焼かれるタコの怪物。


『ああ、陽の光に直接当てることで私の力を半減させようとしているのですね。うふふ……浅はかな……』


 そんなラルフを可愛いと思ってしまうのはミーシャの高ぶる気持ち故か。影を纏うシャドーアイ程度の存在なら如何とでもなるかもしれないが、闇の化身たるイリヤにただ陽の光を浴びせる程度で何か変わるはずもない。もしそんなことを本気で考えているなら、陽の光の下で戦っているのを失念しているではないか。これを浅はかと言わずして何になるのか。


「それはどうかノぅ?」


 イリヤの目はその声に反応し、吸血鬼の姿を視認する。何度も戦いを挑んできた吸血鬼の姿を。


『ふっ、貴女でしたか』


 ベルフィアは強い。確かにこの世界に二つと無い凄まじい存在だが、ミーシャとは比べると弱い。いや、エレノアやブレイドにも劣る。イリヤの中では雑魚の部類だが、しつこさは一人前だ。


「そノ余裕。いつまで続くかノぅ?アルル!!」


 そう言うとベルフィアは杖を振りかざす。その名前に聞き覚えのあったイリヤはアルルと呼ばれた女性も視認した。


『ああ、ブレイド様という少年の記憶にありますね。魔法使いですか』


 アルルも槍を振りかざし、魔法を発動させる。


『何が来ようと同じこと。私には通用しません。どうぞお好きに為さってください』


 イリヤの余裕。それは次の瞬間に驚きに変わった。

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