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第三十八話 話し合い

 暗闇を漂う。もう数日経つが、一向に出入り口を開ける気配はない。マクマインは辺りに散らばっていた缶詰などを開けて飢えを凌いでいた。


「奴め……一体いつまで開けぬつもりだ?」


 ラルフの能力は手軽に開けて持ち運び可能な倉庫という役割を担っているが、出入りの自由からワープホールとして使用している。移動目的で我慢出来ずにワープホールを開くと高を括っていたが宛が外れた。

 何も出来ない状況に歯噛みし、悔しさでねじ切れそうだった思考をこの数日で何とか保っていた。


「ふっ、焦るな。どの道いつまでも私に居座られるのは奴とて居心地が悪かろう。もう少しの辛抱よ」


 そう自分に言い聞かせることで心の安寧を得られる。たった一人、無人島に流される以上に外界との隔たりを感じさせる異空間。独り言でも言ってないと気が狂いそうになる。


 ──ズッ


 その時、聞き慣れない音が響いた。マクマインは体を捻って辺りを見渡す。出口だ。それは大きく、光が差し込んで真っ白に見えた。ブラックホールの対義語とも呼ぶべき架空の天体であるホワイトホールとでも言うべき光。いや、この明るさは太陽に近い暖かさをも感じる。


 ギュンッ


 マクマインはすぐさま光に突撃する。もしラルフが推測の通り、移動手段に使用しているなら千載一遇のチャンス。これを逃せば、またいつ気まぐれに開くか分かったものではない。


(もう少しだ!!閉じるな!閉じるな閉じるな!!)


 心の中で本気で願う。もう異空間はこりごりだ。手が届きそうな瞬間、突如閃く。


(おかしい……移動するなら入り口の先に出口を開くはずだ。なのに開いているのは一箇所だけ……)


 誘い込まれている。これはラルフの何らかの策略なのか。出た途端に総攻撃を仕掛けられることも考えられる。そう思えば、もう罠にしか見えない。


「……だからどうしたと言うのだ!」


 マクマインは自身を奮い立たせる。こんなところで死ぬつもりもない。神から授かった特異能力を発動させ、準備が整ったと意気込んで出てくる。


「……ん?」


 待ち伏せていたのは二人。ラルフと筋肉で肩幅の広い男性。何らかの武器を構えていたりしていないし、何よりも戦闘意欲がまるで感じられない。マクマインは異空間の穴に足を掛けてジロリと睨んだ。


「これは一体何のつもりだラルフ?この私を閉じ込めておいて、タダで済むと思っているのか?」


「悪い悪い。忘れてたわけじゃないんだけど、命を狙われてるって思ったら怖くて開けらんなくてさ。でも今回は違う」


 ラルフは一つ大きく息を吸う。


「マクマイン!釈放だ。出ろ」


 ラルフは偉そうに刑務所の看守の真似をし始める。芝居掛かった言葉に苛立ちを感じる。


「貴様やっぱりふざけているな?余程この大地でシミになりたいと見える」


「違うね。……いや、釈放はふざけてたわ。ごめん。俺は今あんたに構ってる暇が無くなってさ、今すぐワープホールを使いたいから異空間から出て欲しいんだよね」


「出てやるとも。だが私との一騎打ちは避けられんぞ?」


『今構っている暇はないと言ったばかりなのにちょっかいを出すつもりなのか?』


 バルカンは不思議そうな顔でマクマインに尋ねる。


「何っ?貴様……何者だ?」


『私は回帰の神バルカンと名乗っている』


「神だと!?」「神だって?!」


 ラルフとマクマインは同じ時に驚愕する。


「いや、何で貴様は知らんのだ!!」


 これには間髪入れずにツッコんだのも頷ける。


『私からの提案は一つ、ほんの少しだけ彼の話を聞いてくれないかな?』


「断る。相手が誰であれ、敵は全力で叩き潰す。それに此奴とは前に一度話になり、私をイラつかせるばかりだった。今回も同じこと。煙に巻いて逃げ出すだけよ」


 取りつく島もない。ラルフは危険を顧みずに前に出た。


「マクマイン。俺は前にあんたとの勝負を「受けて立つ」と約束したよな。あれは本心からだ」


 ピクリと眉毛が動く。


「それなら今戦ったらどうだ?すぐに決着もつくだろう?」


「俺の身一つなら考えていたさ。けど俺の仲間が今ピンチを迎えてる。あんたの娘のアルルから救援要請を受けた身なんでな……」


「何?!アルルが……!?」


「おっと誤解すんなよ?アルルは大丈夫だ。でもこのままじゃ大人しくしているアルルも勝手に動きそうなんだよな……俺が戻れば無茶をすることもないんだが……」


「貴様……男の風上にも置けない奴だな」


「え?何が?いや、ここで戦うってなったら、アルルと約束してたのがパァになっちまうんだから、自殺まがいの戦いに足を踏み入れちまうのも納得っつーか?何つーか?」


 ふざけた態度と表情だが、マクマインにはアルルの方が大事だ。ラルフの挑発はこの際無視しておく。


「……でもマジな話、俺もそろそろ決着をつけたいと思っているさ。だから、戦えるようになったら俺から会いに行く。その時はもう逃げねぇよ」


 マクマインはスッと異空間から出て見下すようにラルフを見下ろす。


「逃げないか。その言葉忘れるな。……娘によろしく伝えといてくれ」


「ん、了解」

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