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第三十六話 赫い大地

「ふぅ……やっと着いたぜ。思ったより長く掛かっちまったな……」


 ラルフは旧エルフェニアから三日掛けて次の街に到着した。これは正直早い。というのもサトリから授かった身体強化のお陰で、山や谷越えがそれほど苦では無かったことが大きい。

 休憩もある程度削れて移動に専念出来たため時間短縮となり、普段一週間弱掛かる道を半分以下に短縮している。


『そのようだな』


 結局ずっと一緒だったバルカン。二人旅だというのにバルカンの存在は特に足枷にはならず、逆に森祭司(ドルイド)の力に助けられることもしばしば。最初こそ邪険に思っていたのを改めさせられる。


『ここは確か獣人族(アニマン)の国……』


「そうそう、クリムゾンテールだ。ヒューマンの国の方が良かったんだけど、こっちのが近いからさ」


『同種族の方が好ましいという見方は差別的に感じるのだが、意外と種族の違いに敏感なのかな?』


「いや逆だな。アニマンは生来の強靭な肉体から多種族より自分たちが優れてるって考えてるんだと。その上、縄張り意識も強くて侵入者には容赦が無い。ただその分愛国心が強いから、自国のためなら命をも捨てられる凄い連中なんだって」


『ふむ、アニマンをよく理解している。だが聞きかじったような文句ばかりに聞こえるのは私の気のせいかな?』


「当ったり〜。大体はいろんな奴からの受け売りさ。まぁ昔俺が初めてここに来た時に、アニマンの連中から迫害を受けたからその印象が強いってのも込みで」


 さらっと嫌な記憶を口に出す。きっと初めて来た際は何も知らずに入国したのだろう。彼らの性格や行動理念などを理解していれば下手ないざこざもなかったのだろうが、無知は罪なのだと思い知らされたようだ。ラルフはどちらかというと失敗から学ぶ性質(たち)なのだとバルカンは理解した。


「……さーて、どうすっかなぁ……」


 ラルフは顎を撫でながら国の門を見ている。砂岩で出来た壁を見ながら視線を上下に動かし、距離や高さを測っている。乗り越えようと考えているようだ。


『正面から入れば良いではないか?』


「ああ、そうしたいのは山々なんだけどな?ちょっと前に無茶やらかしたから要注意人物として警戒されてそうなんだよなぁ。出禁喰らってる可能性の方が高いから、それなら初めから跳び越そうかなと」


 肩越しにバルカンを見ながら笑う。


「先にあの門を潜ってくれてても良いんだぜ?ここは魔障壁も無いから壁さえ乗り越えちまえばスルッと密入国よ」


『やったことがありそうな言い草だ』


「おうよ。正確には壁にあった穴から侵入した。もう埋められたけどな」


『ん?何故そのような面倒なことを?』


「言ったろ?アニマンは縄張り意識が強いって。通行手形がないと先ず入れてもらえない。どうしても通行手形が手に入らなければ、通行料を多めに払えば入国が許可される。世の中なんでも金だぜ」


 バルカンは小さく何度も頷くと『なるほど』と呟いた。


『しかし、そんな面倒な国に入らなければならない理由は何だ?君が損するばかりじゃないか?』


「大きい国ならどこでも良かったんだ。特に”王の集い”のメンバーが居るような大きな国さ。王の居城には必ず通信機があるはずだからな。……もう少し開放感を味わいたいところだけど、一応一言知らせとかなきゃな、みんな心配してんだろうし……」


『仲間……』


「あ、良かったらバルカンさんも一緒に来ないか?あんたみたいな凄い奴が来てくれたら千人力だぜ。もっとも、ミーシャがいる時点で戦力なんて必要ないけどな」


 ヘラヘラ笑いながら正面を向く。その眼光は鋭く、壁を飛び越すイメージを膨らませているのだろう。


『密入国だけでなく王の居城に侵入しようと考えるとは……何とも豪気な男よ』


「今なら何でも出来そうな感じがするんだよ。万能感っつーのかな?……よし、見えたぜ侵入ルート」


 スッと立ち上がって歩き出した。


『何?こんな真昼間から侵入を?』


「ふっ……何を隠そう今の時間が一番手薄なんだよ。それにあいつらは夜の闇を見通すアニマンのスキル”夜目(ナイトヴィジョン)”を持ってる。夜は逆に危ねぇのさ。情報ってのは大事だぜ?出費がでかいがその分何度でも使えてお得だ。金を使うところは慎重に選ばなきゃダメだよなぁ?」


 したり顔のラルフ。バルカンもニヤリと笑って肩を竦める。二人は壁に向かって移動を開始した。



「居タゾォ!!コッチダァ!!」


 幾人ものアニマンの兵隊が街中を駆け巡る。ラルフの言っていたことは概ね合っていた。確かに外壁は手薄で、苦もなく緊張感もなくスルスルと登り終え、クリムゾンテールに侵入した。ただし外壁を登るのも内壁を降りるのも、どちらもヤモリの如くへばり付いて移動していたので、内壁移動中に兵士に見つかった。


「チックショー!無防備すぎたか!!そりゃそうだ!前回は壁の穴だったもんな!まず見つかんないもんな!!」


 ラルフは愚痴を垂れながら走り回る。


『このまま一直線に居城に向かうのはどうかな?』


「そりゃ良いや!!」


 そう言いながら足に力を入れて急ブレーキをかけた。


「……あんなのが居なきゃな!」


 ラルフの指差した先、獣王の居城の道中に佇む横にも縦にも、とにかくでかい男。筋骨隆々でクリムゾンテールの怪力男として君臨するアニマン最強の武人ベリア。居城の番人とばかりに腕を組んで待っていた。


「フハハッ!!此処デ会ッタガ百年目!アノ時ノ屈辱ハ万倍ニシテ返シテヤルヨ!!」


「構ってる暇なんざねぇんだよ!あんたじゃ話にならないから獣王を呼んできてくれ!俺は戦いより平和を望む!!」

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