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第三十五話 闇の神

 闇の神イリヤとの邂逅。ミーシャは相変わらず戦意に満ち溢れているがイミーナは違う。神という存在に警戒心を抱き、間合いを広く取っている。


「イリヤ!お前が魚人族(マーマン)の船を破壊したのか!?」


『ええ。あの提灯のような建造物が船と仰るならの話ですが……』


「そうか!ならお前は私の敵だ!!」


 ミーシャはサッと両手を突き出すと、魔力を溜めて攻撃の準備に入る。


『あらあら……そう目くじらを立てずとも良いではないですか。眉間にシワを寄せていてはせっかくの綺麗なお顔も台無しですよ?』


「その飄々(ひょうひょう)とした態度、蒼玉に……いや、似てる奴を知ってるけど、そいつは私の手で死んでいった。神だろうと誰であろうと、お前も何ら変わらない」


 ドンッ


 空気を震わす魔力砲。光の柱が一直線に伸びてイリヤを襲う。バカみたいな破壊力を前に、イリヤは全く意に解することもなく涼しげに迎える。当たれば最後の魔力砲はイリヤに直撃する寸前、タコの触手が間に入って邪魔をした。

 当たった。そのはずだが……。直撃の瞬間、理解の超えたものを映し出す。


「……え?」


 ミーシャが首を傾げるのも無理はない。魔力砲は真っ黒な触手に吸収された。それはどこまでも深い穴に水を注いでいるような意味の無さを感じさせた。形作って存在するタコの足がその実、そこだけ空間を切り取った存在亡き物のような不安を抱かせた。


『全ては闇に飲まれる……この世界に生存する全ての動物が光無くして形を得られない。貴女もそこの貴女も……。大丈夫です、最初は怖いかもしれませんがすぐに慣れます。闇に包まれるのは安らぎを得るのと同義なので、全てを私に委ねてお眠り下さい』


 ──ビュルビュルッ


 ミーシャを包み込むように四方八方から糸が伸びる。タコから発生したものではなく、海中から突如出現した得体の知れない何か。こうくるとタコは移動用の乗り物に過ぎないのかもしれない。


「あ、もしかしてこれって……」


 ミーシャはこの攻撃が白絶のものであると気づく。イミーナも遅ればせながら白絶の魔法糸だと確信した。


「まさか……取り込んだものの能力を使用出来ると?」


 物理も魔法も攻撃が通用せず、取り込んだ物の力を使用可能。というのが誇張なしに実際の能力だったなら、この世界の生物では勝つことが出来ない。

 無敵すぎる闇に対し、光の神ユピテルとは何だったのか。本当に同じ神なのかと疑ってしまう。


「イミーナ!」


 ミーシャからの声に反応して視線を向けると、ネックレスがこちらに向かって投げられていた。それを受け取ったと同時にミーシャは取り込まれた。


「ミーシャ!!」


 もう多分聞こえていないだろう。完全に包まれ、取り込まれてしまった。


『次は貴女ですよ。抵抗せずに一緒にお眠り下さい』


 イミーナの額からつぅっと汗が一筋流れる。


「……ふふっ、私はミーシャとは違うので、そう簡単には捕まりませんよ?」


 ミーシャからのネックレス。これは一度撤退の後、イリヤ攻略を考えよとのミーシャからのメッセージ。どの道、今助けるのは無理であると意見が一致している。


「全てを解放し、全身全霊にて撤退させてもらいます」



 その頃ラルフは次の場所に向けて歩いていた。すぐ後ろにはバルカンが付いてきている。


「……たまたま一緒なだけだよなぁ……」


 一人旅満喫中だったラルフは昨日の夜から一晩野宿した仲のバルカンと共に歩いていた。

 バルカンとは偶然出会っただけで決して旅仲間ではない。目的や次に向かう場所などの明確な答えをもらったわけではないので、付いてきていると考えるのは自意識過剰だが、気になるのは同じ道なら後ろに付かずに横に来てくれたら良いのにと思う。単純に会話が出来るし、道中こんな気不味い思いをしなくて済む。

 ラルフは意を決してバルカンに尋ねてみようと心を奮い立たせた。


「なぁバルカンさん。多分俺ら同じ道だよな?肩を並べて歩かねぇか?道中の会話が楽しくなるぜ?」


『ん?いや、大丈夫だ。私はここで良い』


 バルカンはその提案を蹴って前に出ようとしない。


(いや、そりゃあんたは良いだろうぜ?でも俺は気になって仕方ねぇんだよなぁ……)


 心で嘆くラルフ。ほとんど知らない男に背後を取られているのがどうも気に食わないが、次の街までだからと自分に言い聞かせ、我慢することにした。

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