第三十三話 ラルフを探せ
結局一日経ってもラルフの姿はなく、ミーシャはベッドの上に体育座りで虚空を見つめていた。今この瞬間にも空間に穴が開き、あの草臥れたハットが顔を出すのではないかと思って。
部屋の外でミーシャの身を案じていたベルフィアたちは、帰ってこないラルフへの愚痴を吐き出し終え、探し出す策を考えながら扉の前に立っていた。
「てかワープホールを自由自在に扱える奴を追える術なんて無いでしょ?帰ってくるまでどうしようもなくない?」
「いやでも放っておくわけには行かないでしょう?もしかしたら何らかの事情で助けを求めているかもしれませんし……」
「妾もブレイドと同意見じゃ。あノ男なら突如謎ノ怪異に攫ワれても可笑しくはない。そういう実績ノ有ル男ヨ」
起こっていることが分かればその手段も何となく閃く可能性はあるが、ただ居なくなったとくれば虱潰しの捜索を余儀なくされる。しかしそれは年端もいかない迷子を探す手段であって、西の端から東の果てまでを一秒で跨げる男にする手段では決してない。つまるところ策などあろうはずもなく、また助ける手段が出るわけでもない。結果、話は振り出しに戻る。
「ラルフさんが行きそうな場所とかってどこなんでしょうか?どこか印象深い街は思い当たらないですか?」
アルルの言葉に場は静まり返る。知る由もない。ラルフは生まれも育ちも旅人で、一つの街に居着かない。いろんな街を転々とし、情報だけは誰にも引けを取らないものの、誰よりもその町への関心が薄い。そんな男が特定の町を選んで飛ぶなど考えられない。
「……一つだけあル。あ奴とミーシャ様と妾が初めて出会っタ場所。アルパザじゃ。もっと言うと妾ノ城……現在はミーシャ様ノ城が印象深いノぅ」
「それってベルフィア様が印象深い場所なのでは?」
「イイエ。ミーシャ様トノ出会イ以上ニ印象深イ出来事ハ無イデショ。アタシモ……ウウン、全テハ アソコガ起点。アルパザニ居ル可能性ハ無キニシモ非ズッテトコ……カナ?」
ジュリアにとっても忘れ難いあの日。ラルフの行き先がアルパザに固まりそうなその時、エレノアが流し目で呟いた。
「……全くの見当違いかも?」
せっかく方向性が決まりそうだった時に別角度からの一石を投じる。
「ラルフは土地や建物で見てないと思うのよねぇ。重要なのは出会いと別れ。関わった人や魔族に深い関心を抱く人だから、そういうのに声を掛けていくのが良いんじゃないかなぁ?」
「ふむ……一理あル。ラルフなら厚顔無恥にそういう連中に救助ノ声を掛けとルかもしれし、手掛かりが見つかりやすそうじゃ。アルパザノ案も捨てがタいが、こちらは一箇所に全賭けとなルからリスクが大き過ぎル。エレノアノ案ならラルフ不在を周知させル事が出来ル上に、相手方が勝手に探してくれそうじゃ」
ベルフィアはアルパザの案を即座に蹴ってエレノアの案に乗り換える。
「早速通信機を使って聞いて回ろうではないか」
アスロンの胸元に光る通信機に手を伸ばしたところで気がついた。
「あ奴通信機を持っとらんぞ?これじゃ誰とも連絡が取れとらんノではないか?」
ようやく気付いた新事実。ラルフが退っ引きならない状態であると仮定した時、わざわざワープホールを用いて直接助けを乞うだろうか。答えは否。それが出来るならとっとと帰ってきている。今の話し合いの時間を返して欲しい。
──ガチャッ
今まで沈黙を保っていたミーシャが皆の間抜けさを見兼ねて顔を出したかのようなタイミングだった。暗い表情だが、確かな覚悟を感じる。
「……通信機を貸して。ラルフを見掛けていないか私が聞くから」
アルルから通信機を受け取ったミーシャは、アスロンの助力もあって通信機を自在に操る。掛けた先はマーマンの船”カリブティス”である。白絶が何かを知っていないか、捜索を手伝ってくれないかをお願いするためだ。
だが、その通信機から出たのは思わず聞き返してしまうほどの事柄だった。
『た……助け……助けて』
「……え?」




